弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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特許はとったけれど売り上げは… って話だけではなく。

2016年01月06日 09時02分40秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
ちょっと曇り空の湘南地方です。

さて、今日はこんな記事

(以下引用)
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「おじいちゃんのために…」孫娘のツブヤキで日の目を見た技術力

方眼ノートは、中村印刷所の社長の中村輝雄さん(72)と、製本業を営んでいた愛空さんの祖父(79)が共同製作した製品。
特許も取得し、東京都の「トライアル発注認定制度」にも選ばれました。

しかし売れ行きは思うように伸びず、数千冊の在庫を抱えることになります。

そこで一役買ったのが、先にお話ししたTwitterの力でした。
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(引用終わり)

ま、上記も含め同じ内容を取り上げた記事が伝えるストーリーとしては、
・おじいちゃんが特許も取ったノート。
 大口受注が決まりそうになり見込み生産していたけど立消えになり、
 数千冊の在庫を抱えることに。
・孫娘がツイッターでつぶやいたところ、草の根レベルで引き合いが出始め、
 バズって注文が殺到。
・SNSの波及力ってすげー。
・おじいちゃんが生きているうちにノート買ってあげて。
とまあだいたいこんなところ。

んで、
特許公報も読んでみた。早期審査により出願から半年足らずで特許になっているスピード案件。

クレームが全て「製本方法」というクレームで「無線綴じ冊子」という物クレームでない点に
若干の引っかかりを感じた。ので、出願経過も見てみた。
すると、物クレームは新規性欠如の拒絶がうたれ削除している…
拒理通知に曰く、「文献1には、本願請求項1~8に係る製造方法は記載されていないが
本願請求項9で特定される冊子の構造と、文献1記載の冊子(ブック)の構造とに
相違するところはない。」と…。

審査官丁寧だなー(ピンクのところ)、ここまで丁寧に言ってくれるんだ。。。
というのはさておき、
・物の発明としては新規性がない
・「製本方法」について特許が認められた
という状態。

ここで疑問が。
「製本方法」は、「製法クレーム」?それとも「単純方法クレーム」?

いや、何が言いたいかというと、
「製法クレーム」だとその権利範囲は“その製法で製造した物の実施”にも権利が及ぶのに対して
「単純方法クレーム」だとその権利範囲は“その方法の実施”にしか及ばない。
本件特許の射程距離って、どこまでなんだろうか、と。

そもそも、単に見開きしやすい冊子って、例えばこんなサイトにも例示がされていて、
そこまで目新しいものでもないようにも思える。
クレームで特定されている製造工程も、どうも手作業を前提としているフシも見受けられるし。
(普通背表紙のグルーを異なる粘度のものを時間差で塗ったりとか、しかも押圧状態でとか、するんでしょうか?
 大量生産を考えたら手間がかかって仕方がないように思います…)

とまぁ、おじいちゃんの2年間の開発努力をくさするのもヤボというもの。

ただ記事が「見開きできるノート、斬新! じーちゃんイノベーション、すげー!」な感じだったので、
うーん、ポイントはそこじゃないはずなんだけど、と思ってつらつら書いてみた次第。

もちろん、
良い商品づくりへの情熱を持ち続ける職人気質なおじいちゃんとか、
そんなおじいちゃんを思う孫娘のやさしさとか、
その表現技法がSNSという“イマドキ感”とか
きっちり特許出願して自分たちのアイデアを守ろうとしているところとか、
あと同社のHPみたらきっちり、でもないけど商標権取得してブランド保護している点とか、
物語性はあるんだよねー。

バズったのは、優れたイノベーションだから、ではなく、
ニーズを満たす一定品質が担保されていることを前提としてではあるけれど、
物語性があって、それに共感する層が一定数いたから、
ということ。
しかもそれが“狙ったものじゃない”ということではないでしょーか?

「特許を取っている」、それ自体が一定品質の保証として市場では受け止められる。
仮にそれが、現実には権利行使に困難性があり、また参入障壁として実質的に機能しない場合でも。
ストーリーを支える「舞台装置」としての知財。
プロモーションに効く特許。

うーーん。
事業にプラスならいいじゃん! と考えるのか、
それって本来的な知財の使い方じゃないじゃん! と思うのか。
出願人と代理人との間で、きっちり意思の合致があって取り組むのなら良いんですけどね。
そこまでの説明能力を、我々も常に身につけておくことが大事だと思います。







コメント
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