弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事】「アマビエ」その後

2020年07月13日 08時19分34秒 | 知財記事コメント
おはようございます。
曇り空、ちょっと涼しい@湘南地方です。

さて、先週こちらで取り上げた標記の件。
取り上げた翌6日に出願取下げとなったとのことです(記事はこちら)。

取引先において「アマビエ」を使用するキャンペーンを検討しており、
「第三者が商標登録をする可能性を考慮」して登録を試みた、というのがD社さんサイドの説明。

弁理士の目線としては、(キャンペーンのアリ/ナシはさておきとして)出願それ自体は合理的な行動だと思う。
登録されるかどうかは、終局的には出願してみないとわからない、という面がある。
クライアントが使うのに出願し忘れてて訴訟沙汰になったら担当者はそれこそ打ち首もの。

とはいえ、予想以上に世間の“逆風”が強かった、というのが実際のところなのでしょう。
仮に取下げせずにそのまま審査係属していたら、、、どうなのでしょう。4条1項7号(公序良俗違反)で拒絶になっていたのかは
微妙なところです。先行類似も見当たらず、それ以外の拒絶理由はぱっと思いつきません。
敢えて無理くり当てはめるとすれば3条1項6号(識別標識として機能しない)でしょうが、やっぱり無理があると思います。

審査基準上、4条1項7号に言う(いわゆる)公序良俗を害するおそれがある商標とは、以下の通りです。
(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否か は、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。


これらの内(1)~(4)は該当しない。
当てはめようとするなら(5)なわけだけど、ネット民のざわつきが“商標法の予定する秩序に反する”に相当するかと言うと…。

ただ、先のエントリで触れた「ギコ猫」の件でも思ったけど、
これだけ情報通信手段が発達した時代にあっては、
「秩序」という概念も静的なものから動的なものに変異しているのかなぁ、とも思う。

秩序=社会の諸要素が相互に一定の関係・規則によって結びつき、調和を保っている状態 (大辞林 第三版)
という意味合いからすれば、先に「規則」があり、これに基づいて整然とした状態のことを指すわけだけど、
ことが起きてからのリアクションが、反射的と言うか感覚的というか。
ただその発信がフレッシュで直接的なためにインパクトがある。
むしろそうした反射的なリアクションが積み重ねられて新たな秩序が形成されている、というふうに感じる。
ただ少なくともこのあたりは「商標法の予定する『秩序』」というときの秩序には含まれない、含まれるべきじゃないんじゃないかな、
というのが当職の考え。

法律の解釈の在り方って、どこまで弾力性をもって許容されるもんなんでしょうね。

コメント
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