外国為替市場で円売り圧力が一服している。
24日の夜には円相場が対ドルで一時、1ドル=153円90銭台まで上昇した。
幅広い通貨に対して全面安だった局面から一転、対ユーロや英ポンドでも円高が進む。
日米金融政策の転機が近いとの見方が強まり、金利差に着目した円売りを見直す動きが出てきたからだ。ただ円安再燃リスクは残っており、当面は不安定な展開が予想される。
24日午後の円相場は一時、5月中旬以来およそ2カ月ぶりの円高・ドル安水準を付けた。この日は要人発言や経済指標の発表といった材料があったわけではない。
それにもかかわらず、日本時間の23日午後から円がドルだけでなく、ユーロや英ポンドなど幅広い通貨に対して買われる展開が続いている。
「徐々に円売り・ドル買いの持ち高を巻き戻すプレーヤーがグローバルに増えてきた」。
三井住友銀行市場営業部為替トレーディンググループの納谷巧グループ長は24日午前、こう明かした。市場では海外勢の動きを受けて、2024年初めからの円安トレンドがいったん途切れたとの見方が広がっている。

年初からの円安・ドル高をけん引してきたのが日米金利差だった。
早期の米利下げ観測が後退し、日銀は低金利を維持する――。そんな見方から低金利の円を調達して高金利のドルで運用する「円キャリー取引」が活発になっていた。円相場は1月の1ドル=140円台から、7月上旬に一時161円90銭台まで下落していた。
ここにきて円キャリー取引を縮小したり、解消したりする動きが広がっているようだ。
背景には、市場参加者の間で日米金融政策の転換点と金利差の縮小への意識が強まっていることがある。7月30〜31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)と日銀の金融政策決定会合を控えている。
米連邦準備理事会(FRB)については9月にも利下げに動くとの予想が高まっている。
6〜7月に公表の経済指標からはインフレ鈍化と米経済の成長減速、労働市場の需給軟化が明らかになっているからだ。
米金利先物の値動きから金融政策の先行きを予想するフェドウオッチをみると市場は9月に続き、12月の追加利下げ実施も織り込みつつある。
あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「7月のFOMCでのサプライズはないだろう」としつつ「FRBのパウエル議長がインフレや雇用情勢の悪化に言及し、9月利下げへの前向き感を確認できるかが注目点となりそうだ」と指摘する。

日銀の金融政策を巡っても、政策金利の引き上げ時期が近づきつつあるとの見方が市場で広がっている。
政府・与党関係者から日銀による金融政策の正常化を容認しているような発言が相次いでいるからだ。
前週17日に河野太郎デジタル相が「円は安すぎる」と発言し、日銀へ利上げを求めた。
19日には岸田文雄首相が「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と強調。22日には自民党の茂木敏充幹事長が「段階的な利上げ」に言及した。
30〜31日の金融政策決定会合で日銀が利上げに踏み切るとの予想は3割程度にとどまる。日銀はこの会合で国債の買い入れ減額計画について公表する。
減額と利上げを同時公表することによる予期せぬ市場反応は避けるとの見立てだ。ただ今回の会合で利上げを見送ったとしても、追加利上げ時期は近づいているとの認識を示唆する可能性は指摘されている。
政府と日銀が協調して円安是正を進めるのでは――、海外勢の間ではこんな思惑が浮上している。
財務省が不意打ちともいえるタイミングで為替介入を実施したことも大きい。「市場には植田和男総裁が政府・自民党の利上げ要請に応じる可能性があるとの見方もある」(みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト)。
FRBが利下げに踏み切り、日銀が利上げを開始すれば日米金利差の縮小が進み始める。介入への警戒も強い。
米大統領選挙の行方によっては為替が急に動く可能性もあり、円売りを続けるリスクは高まった。環境の変化が円キャリー取引を中心とした「投機的な円売り」の巻き戻しを誘った。
こうした巻き戻しはどこまで進むのか。市場では当面、1ドル=150円を超えて円高・ドル安が進むとの見方は少ない。
日銀が仮に30〜31日の決定会合で利上げに踏み切れば、短期的には円高に振れる可能性がある。ただ、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)の佐々木融チーフ・ストラテジストは「150円手前あたりで巻き戻しの動きが一巡するのではないか」とみる。
その裏にあるのが構造的な円売り圧力だ。財務省が18日発表した貿易統計速報では、季節調整済みの貿易収支が6月も8168億円の赤字に沈んだ。
季調値ベースの貿易赤字は37カ月連続だ。1月に始まった新たな少額投資非課税制度(NISA)も、ドル建て株式などの購入を通じた円売り・ドル買い圧力となっている。
ふくおかFGの佐々木氏は「こうしたファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は変わっておらず、徐々に円安方向に振れていく」と指摘。
りそなホールディングスの井口慶一シニアストラテジストは「日銀が年内の利上げに前向きな姿勢を見せなかった場合、158円程度まで円安・ドル高が進む可能性はある」と話す。一方向の円売りは小休止したものの、円安再燃リスクはなお残っている。
(生田弦己、田村峻久、荒川信一)
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ひとこと解説
13時頃からドル売り円買いがにわかに強まり155円割れ。一時154.76円前後になった。
12時35分には日本の40年物超長期国債入札の結果が低調だったことが明らかになっており、これが日米金利差縮小の思惑につながった可能性もある。
いずれにせよ、歴史的な高水準まで膨らんだドル買い円売りのポジション(持ち高)を解消する動きが、FRBによる年内複数回利下げ観測の強まり、ドル高円安を批判するトランプ前大統領の発言、円高是正目的で日銀に段階的利上げの情報発信を求めた茂木自民党幹事長発言などをうけて、足元で進んでいると推測される。
また、米大統領選の行方はハリス副大統領への候補者差し替えで見えにくくなった。
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ひとこと解説
2022年秋から今年4月ごろまで、1ドル=152円近辺が円相場の「大底」とみられてきました。
22年秋、23年秋ともにその辺りで円は反転したからです。今年4月以降、まさに底が抜けて一時162円近辺まで急落しました。
この過程で円キャリー勢を含め円売りポジションがかなりの規模に膨らんでいたのは事実。
ここに来て米大統領選を巡る不透明感、日本では政治からの異例の利上げ「圧力」もあり、巻き戻しが起きているのでしょう。
ただし、以前の「底」が新しく「天井」に変わるのはよくあること。まだ距離はありますが、円が152円を超えて戻るのにはかなりのパワーが必要かもしれません。
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日経記事2024.07.24より引用
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