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穀物襲う「夏のラニーニャ」 ロシア霜害と共鳴リスク

2024-06-09 19:51:08 | 小売り・スーパー、食料・飲料全般、ビジネス・水・酒・穀物メジャー



 

異常気象が穀物価格を押し上げている。

世界気象機関(WMO)によると、2023年春から続いた「エルニーニョ現象」が終息し、夏以降は「ラニーニャ現象」に移行する可能性が高い。

 

ラニーニャは小麦など主食向け穀物の収穫に悪影響を及ぼす傾向が指摘されている。小麦輸出国のロシアで発生した霜害に追い打ちとなるリスクがあり、食料供給への不安が再び高まりはじめている。

エルニーニョは南米ペルー沖の海面水温が平年より高くなり、ラニーニャは逆に低くなる現象だ。WMOは3日、ラニーニャが7〜9月に発生する確率を60%、8〜11月に発生する確率を70%と予測した。

 

エルニーニョやラニーニャの発生年には世界各地で異常気象の発生頻度が高まり、農作物の収穫に影響を与えやすくなる。

実際、エルニーニョの昨年は、東南アジアや西アフリカなどで干ばつや豪雨が発生。カカオ豆、コーヒー豆などが不作となり国際相場は過去最高値に急騰した。

 

ラニーニャへの移行は農作物にどんな影響を及ぼすのか。影響の出方は毎回一定ではないものの、過去の長期データからはトウモロコシ、大豆、小麦などの主食穀物への影響が示唆される。

農研機構の飯泉仁之直上級研究員は、エルニーニョやラニーニャの穀物への影響を明らかにするため、世界全体を50キロメートルごとの地点に区切り、長期にわたる過去の収穫量データと、人工衛星から得られる植物の活動度などの情報を組み合わせて分析した。

 

分析結果によると「1981〜2016年の平均ではラニーニャの年には、米国のトウモロコシと大豆、カナダとオーストラリアの小麦で収量が低下する傾向がみられた」(飯泉氏)。地域や作物によっては収量が増加する場所もあったという。

 

 

 

 

今回はラニーニャが夏に発生することが懸念材料だ。米国など北半球ではトウモロコシや大豆など夏作物の受粉や開花が起こる7〜8月ごろは特に大事な時期だ。豪州など南半球では小麦など冬作物の生育期に重なる。

マーケット・リスク・アドバイザリーの檜垣元一郎氏は「1988年の北米の大干ばつ時にも春からラニーニャが発生し、夏の生育期を直撃した」と指摘する。

 

兼松の繁田亮食品大豆課長は「現時点では北米の作付けは順調でラニーニャの影響が本格化する前に収穫にこぎ着けられるのではないか」とみるものの、「生育が遅れて開花後サヤをつける時期にラニーニャが重なると作柄に影響が出る」と警戒感もにじませる。

異常気象の脅威はラニーニャに限らない。小麦の輸出大国ロシアで発生した霜害も穀物供給を脅かす。小麦生産が盛んなロシア南部を中心に被害が拡大し、政府は7日、10地域に非常事態を宣言した。

 

ロシアに特化した農業市場調査会社ソブエコンのアンドレイ・シゾフ氏は「霜害に非常に乾燥した気候も重なり、見通しは大幅に悪化している」とし、24〜25年度のロシア産小麦の生産予測を8070万トンと当初の9400万トンから14%下方修正した。

市場が警戒するのが、自国供給優先の政策が広がる危険だ。前年にはコメの最大輸出国であるインドが一部の高級品種を除くコメ輸出を禁止し、国際価格が急騰した。

 

 

仮にロシアが輸出制限に踏み切れば、小麦価格が急騰する恐れもある。大手商社の担当者は「ロシアは自国消費量を上回る量を生産しており、輸出は貴重な収益源だ。輸出禁止措置は想定していない」と指摘する。一方、「自国の食料インフレを抑えるために輸出関税の引き上げを通じて国内に優先的に供給させるなどの政策を取る可能性はある」とみる。

現地報道によると、今のところ、ロシアのアンドレイ・ラジン農業副大臣は農業被害は最小限に抑えられるとして「国内消費と対外輸出の両面で、義務はすべて確実に果たされる」と述べている。

ただ、ロシアは輸出禁止で世界に混乱をもたらした「前科」がある。過去のラニーニャ期にあたる10〜11年、干ばつで小麦が不作となり、10年8月に輸出の一時停止を決めた。小麦相場は急騰し、同年初めに比べて約6割高の1ブッシェル8ドル台後半と当時約2年ぶりの高値を付けた。

 

 

 

資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「小麦の輸入依存度が高い中東やアフリカで食料難をきっかけに社会が不安定化し、11年初頭から起こった民主化運動の波『アラブの春』が拡大する一因となった」と指摘する。

異常気象による不作をきっかけに自国優先の輸出制限が広がり、さらなる食料不安や価格高騰につながる――。こんなリスクシナリオが現実味を増しつつある。

 

穀物売りに傾いていたファンドが持ち高を圧縮するなど、市場は急騰リスクを織り込む。

国際指標の米シカゴ市場の小麦先物は5月下旬に一時1ブッシェル7.2ドルと、10カ月ぶりの高値を付けた。大豆やトウモロコシも2月に付けた約3年3カ月ぶりの安値から上昇に転じた。

 

国際価格の上昇再燃は、食料の大半を輸入する日本にとって影響が大きい。歴史的円安とも相まって食料インフレ圧力が一段と高まりかねない。

自給できるコメの値段も前年の猛暑の影響で上昇した。ラニーニャの今年も日本は高温になりやすく、前年に続いて品質劣化などの影響が懸念される。備蓄拡大など、万が一のリスクに備える必要性が増している。

(浜美佐)

 

 

 

 

日経記事2024.06.09より引用

 

 

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