イオンがDX(デジタルトランスフォーメーション)を急速に進めている。同社は2026年度までにデジタル売上高1兆円の達成を目標に掲げている。22年度の決算では1300億円で、20年2月期から1.85倍に拡大した。さらに4年で7.7倍にまで拡大させる方針だ。その中核となるのが、CX(顧客体験)。顧客を中心にオンライン、オフラインを問わずあらゆるサービスを利用可能にする。鍵となるのがID統合と顧客データ基盤だ。イオンはその実現のためにアプリやデータプラットフォームを内製化する組織をつくり、開発体制を整えた。
イオンはグループをあげて、全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。目指すのはOMO(オンラインとオフラインの融合)型の新たな小売りCX(顧客体験)の実現だ
スマートフォンのアプリに配信されてきた電子チラシで、最寄りの店の特売品を確認する。広い店内を見回ることがおっくうなときは、そのままネットで必要な商品だけを購入して、店舗で受け取るだけのサービスも利用できる。だが、今日は時間に余裕があるため、気晴らしに店舗で買い物をすることにした。
店舗に入店すると、自身のスマホがレジ代わりになるアプリ「レジゴー」を使い、目当ての商品のバーコードを読み取りながらかごに入れていく。アプリには買い物中にもクーポンなどのお得な情報が届く。必要な商品をかごに入れると、セルフレジでアプリに表示したQRコードを読み取らせて、表示された金額を支払い退店。後日、アプリに以前から興味のあった飲料のクーポンが届いた――。
- 第1回イオン副社長が明かす本気のデジタル戦略 「究極の顧客体験」とは今回はココ
- 第2回イオン九州、アプリも店舗体験も刷新 売上増もたらす「6つのDX」
- 第3回イオングループ、90超のIDを1つに iAEONアプリ「内製化集団」の全貌
- 第4回イオンの新ネットスーパーの実力は? 異例の鮮度保証、AI物流が肝
- 第5回イオンのデジタル基幹店になぜ「5種類のレジ」 3つのCX向上策
- 第6回スーパーの元店長がLINEアプリ開発 イオン流デジタル人材育成法
イオンリテール(千葉市)がデジタル基幹店として展開する「イオン天王町ショッピングセンター」での購買体験の一例だ。同店では、アプリやネットスーパーを組み合わせて、顧客がネットや店舗を問わず、そのときの気分などに応じて買い物をするチャネルを自由に選べるOMO(オンラインとオフラインの融合)型のサービスを提供している。
もはや、オンラインとオフラインで客を奪い合うという発想は古い。「顧客に複数のチャネルを横断的に使いやすいCX(顧客体験)を提供して、イオンのトータルバリューを高めていかなければならない」とイオン取締役デジタル担当の羽生有希執行役副社長は話す。
イオン取締役デジタル担当の羽生有希副社長
イオン 取締役/執行役副社長
デジタル担当
IDの統合による「イオン生活圏」の構築が急務
これはあくまでもイオンが目指す次世代小売りCXの序章だ。「ものを売るのではなく、価値を売る企業であることがイオンのDNAにはある。各事業の店舗が点在していたのが、従来のイオンの事業モデル。これを顧客中心に変える。顧客を中心に各事業をつなぎ合わせた円を描き、あらゆるサービスをストレスフリーに回遊しながら利用できる『イオン生活圏』を形成していく」と羽生氏は意気込む。
顧客を中心とした独自の生活圏を構築するうえで、核となるのが顧客IDだ。グループ共通のIDで、さまざまなイオンのサービスを利用可能にし、その利用履歴や購買データなどを一元管理できるようにする。
現在はサービスごとに、異なるIDでログインなどをする必要がある。その数は、イオンで把握しているだけでも90を超えるという。小売店、金融、エンターテインメントまで、幅広い事業を展開しているにもかかわらずIDが異なるため、顧客データの分散化を招き、一貫したCXを提供できていない。
ID統合はイオンが進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略実現の絶対条件なのだ。