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「キシダノミクス」市場は高評価 次期首相に継続圧力も

2024-08-30 18:05:41 | 日本政治・外交


「資産運用立国と日本金融市場の魅力向上に関する会合」で発言する岸田首相(28日、首相官邸)

 

岸田文雄首相は9月の自民党総裁選に出馬せずに退任する。

直近は政治とカネの問題などで支持率が低迷した首相も、経済政策の柱とした資産運用の推進では市場の評価を得てきた。「キシダノミクス」の継続を望む市場は後継首相の圧力にもなり得る。

 

 

28日、首相が掲げる「資産運用立国」に関する政府と有識者の会合では政策への評価の声が相次いだ。首相は「継続的かつ強力に改革を実行してほしい」と語った。

戦後8位の1000日を超す在任期間で、市場は「株価・家計・投資」の3つの観点から首相の経済政策を評価した。株価は最も顕著な成果として表れた。

 

 

株価で史上最高値を更新

政権発足時に東京株式市場で2万8000円ほどだった日経平均株価は、2024年2月に34年ぶりに史上最高値の3万8915円を上回り、7月に初の4万2000円台をつけた。

米国経済の減速懸念が強まり足元で歴史的な急落に直面したものの、上昇率は3割を維持する。

 

株価への意識は政治的な背景もあった。長期政権を築いた歴代の首相は株価の上昇率も高水準だったからだ。長い在任期間を誇った佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三(第2次)の各政権は発足時から株価が2倍以上になった。

株価上昇のカギは家計が握った。首相は家計に眠る現預金などの金融資産を投資にシフトさせ、企業の成長や価値の向上につなげようとした。

 

企業の成長は賃上げとして家計に還元され、さらなる投資を生み出す。株の含み益や配当による金融所得の増加も期待できる。首相は「成長と分配の好循環」と呼んだ。

首相は2000兆円以上の家計金融資産の半分を占める現預金を投資に動かすため「資産所得倍増プラン」を打ち出した。

 

株式や投資信託の運用益を非課税にする少額投資非課税制度(NISA)の拡充を目玉に位置づけ、27年末までにNISA口座数を3400万件に、投資額を56兆円にそれぞれ倍増させる目標を掲げた。

24年1月に始まった新NISAでは生涯で利用できる非課税の投資枠を最大1800万円と、従来の一般NISAの3倍にした。

 

 

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預貯金が中心だった日本人の資産管理を運用に向けさせ、個人投資家の裾野を広げたとの評価がある。NISA口座数は3月末に2323万件と、21年12月末の1765万件よりも3割増えた。

歴史的な株高を受けて3月末の家計の金融資産残高は2199兆円と過去最高になった。政権発足直後の21年12月より8%増えた。金融資産に占める株・投信などの比率も18%から22%に伸びた。

 

 

金融経済教育にも注力

貯蓄から投資への流れを加速させるため、金融リテラシーの向上に取り組んだ。24年4月に官民が出資して「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」を設立した。8月には家計管理や資産形成の相談に乗るアドバイザーによる電話相談を始めた。

8月に株価が乱高下した場面では個人投資家のパニック売りも目立った。市場の活性化と合わせて金融経済教育を浸透する重要性は高まっている。

岸田政権は日銀と緊密に連携し金融政策の正常化を促した。日銀は3月、マイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を決め、7月には追加の利上げに踏み込んだ。

課題も残した。NISAでは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)など世界の株式に分散投資する投資信託が人気を集め、日本企業に家計資産が十分に向かったとは言いがたい。

大和総研の長内智主任研究員は「新NISAの初動で個人資産は海外企業に流れた。国内に回ったのは大型優良株など一部に限られた」と問題点を指摘した。

長内氏は「国内企業の成長の果実を家計が受け取って再投資をする循環をつくるにはもう少し時間がかかる」とも話す。株高基調の継続には国内企業の収益力や競争力を高める成長戦略が不可欠だとの認識を示した。

英フィナンシャル・タイムズのレオ・ルイス東京支局長は首相が退陣を表明した翌15日の電子版で首相の経済政策などを評価した。「後継者が日本の現在の勢いを維持できなければ、代償は大きなものとなるだろう」と強調した。

 

 

 

政治不信で成果を減殺、支持率と連動せず

市場関係者の間ではかねて株価と内閣支持率は関連性があると指摘されてきた。第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは「中長期に続く政権にとって経済政策はエンジンだった。株価と内閣支持率の連動が成り立っていた」と分析する。

 

 

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岸田文雄首相の在任期間で株価が力強い上昇局面に入ったのは2023年からだ。年間の上げ幅は7369円と1989年以来の大きさとなった。日本企業の稼ぐ力の向上や日本経済のデフレ脱却に期待する海外マネーが流入した。

内閣支持率(日本経済新聞調べ)は政権発足当初は安定し、22年5月に最高となる66%を記録した。

 

22年7月に安倍晋三元首相が銃撃で死去した事件を機にかげりが見え始める。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との接点が問題視され、12月に35%まで落ち込んだ。

23年に入ると支持率は一時上向き、首相のウクライナ電撃訪問などの外交成果で50%前後まで回復した。しかし23年末には派閥の政治資金問題が浮上し、以降は20%台に低迷した。

 

首相の在任時の株価上昇率は史上最高の4万2000円台をつけた7月に5割まで伸びた。その後も上昇率は3割を維持し、データを取れる鳩山一郎政権以降で歴代7位にあたる。株価と支持率が連動せず、政権の浮揚にいかせなかった。

熊野氏は旧統一教会や政治とカネの問題で広がった世論の政治不信を理由に挙げた。「株価上昇の効果もマイナスの要因があると減殺される。首相は適切な説明責任を果たさず支持率に致命的だった」と分析した。

 

首相は実体経済でも一定の成果を残した。24年の賃上げ率は33年ぶりの高水準となる5%台をつけた。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は6月に前年同月比1.1%増と2年3カ月ぶりに増減率がプラスに転じた。

政権幹部は「物価上昇を上回る賃上げが浸透するのは時間がかかる」と話し、実体経済改善の実感が政治不信の挽回に至らなかったことを悔やんだ。

 

 

記者の目 市場のしっぺ返しを食らうな

「政治家・岸田文雄として引き続き、取り組まなければならない課題がある」。首相は自民党総裁選への不出馬を表明した8月14日の記者会見で、自らの経済政策への自負とこだわりを見せた。

金融・市場関連の数値を含めて足元で上向いている経済指標は少なくない。成果を上げても内閣支持率が一向に上向かなかったことに、いまの政治不信の深刻さがあらわれていると受けとめるべきだ。

キシダノミクスを評価した市場は後継首相が成長産業の育成や財政再建など残った課題に着実に取り組めるかを見ている。

世論の不信を引きずったままの候補では心もとなく、市場のしっぺ返しがあるかもしれない。「信なくば立たず」。9月の自民党総裁選の候補全員が肝に銘じてほしい。

(広沢まゆみ)

 

 

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※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

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菅野暁
東京大学 理事(CFO)
 
別の視点

岸田政権の政策の一つである資産運用立国については、かなり良いスタートを切ったと思います。

1月に始まった新NISAは業界が予想する以上の思い切った内容になっていましたし、その結果、個人の投資に関する姿勢がかなり変化してきました。

現在、市場環境が不安定化していますが、長期的な視点から見なければならないと思います。

また、アセットオーナー・プリンシプルが制定され、インベストメント・チェーンの底上げを図る体制がとられました。

いずれもスタートしたばかりで、かつ長期的に取り組まなければならないものばかりです次の政権が、前政権の「手垢がついた」政策は力を入れないということにならないようにしないといけません。

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
 
別の視点

東京市場の主要指数が上昇したという側面からは、「キシダノミクス」への評価は、株式市場では確かに高いと言えるのだろう。

ただ、そうした日本株高をけん引したのは海外投資家である点に留意する必要がある。

また、新NISAに代表される、株式市場への国内マネー流入を促す政策を岸田内閣が実行したから、株価が上昇した面もある。

エコノミストの間では、岸田首相が唱える「新しい資本主義」への評価はまちまち。

筆者は、少子化対策を含む人口対策の必要性を強調するエコノミストだが、異次元の少子化対策は看板倒れに終わった感が強い。

首相官邸HPには「新しい資本主義」のメニューがいくつも並んで掲載されているが、総花的な印象が強い。

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
 
分析・考察

貯蓄から投資に向けた「資産所得倍増プラン」のほか「新しい資本主義」の下でのGXや半導体産業への投資等、世界的な潮流に遅れずに対応したことは評価ができます。

ただ、33年ぶりの賃上げが実現し、定額減税も実施していますが、消費拡大の面ではもう一段の踏み込み余地があったでしょう。

賃上げを促すには、税制優遇よりも赤字企業でも受けられる賃上げ企業への補助金制度の方が効果的だったと思います。

賃金が上がっても可処分所得が増えなければ消費に回らず、好循環にはつながりませんから。

結果的に税収増につながっていますが、政府が取り過ぎている側面もありますので、もう少し家計へ還元、再分配する余地があったでしょう。

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日経記事2024.08.30より引用

 

 

 

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