3日竣工した東京エレクトロンの「台南オペレーションセンター」(台南)
【台南(台湾南部)=龍元秀明】
東京エレクトロンは3日、台湾南部の台南に半導体製造装置の顧客向けサービス拠点を竣工した。技術者など1000人超が働く見込みだ。
半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が人工知能(AI)需要をにらんだ先端投資を進め、海外勢の関連投資をひき付けている。
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「(新拠点の)ポテンシャルを最大限に生かし、台湾の半導体業界の発展に貢献していく」。3日開いた式典で、東京エレクトロンの河合利樹社長は挨拶した。
同日竣工した「台南オペレーションセンター」は半導体のテストや装置のメンテナンスの機能を備える。投資額は建設発表時の台湾当局の資料で18億台湾ドル(約80億円)。1000人超を収容でき、同業の拠点として台湾有数の規模となる。
竣工式で挨拶する東京エレクトロンの河合利樹社長(3日、台南)
半導体製造装置は工場搬入時や稼働後のメンテナンスに技術者によるきめ細やかなサービスを必要とする。
1990年代に台湾に進出した東京エレクトロンは各地に拠点を設けてきたが、新拠点の竣工を機に台南の体制を大幅に拡充する。
狙いは半導体生産で世界をリードするTSMCとの連携にある。新拠点の近くにTSMCの主力工場「ファブ18」がある。回路線幅3〜5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端品を手掛け、AI半導体大手の米エヌビディアや米アップルなどに供給している。
「最先端のAI半導体拠点で、生産効率化に貢献」
式典にはTSMCや半導体大手である聯華電子(UMC)の幹部も出席した。東京エレクトロン台湾法人の張天豪社長は同日実施した記者会見で「台南は世界最先端のAI半導体生産拠点であり、顧客の生産効率化に貢献する」と強調した。
東京エレクトロンは半導体製造装置の売上高で世界4位、日本勢では最大手だ。半導体ウエハーに感光剤を塗って現像する「コータ・デベロッパ」で世界のシェアの9割を持つなど、複数の工程で世界首位や2位の製品を抱えている。
新拠点では台湾のサプライヤーと協力し、装置の部品の現地加工・修理にも取り組むという。サービスのスピードアップや調達・輸送コストの削減につなげる。
TSMCはエヌビディアなどAI半導体の生産をほぼ総取りしている。AI向け以外の市況回復が遅れた24年の設備投資は会社計画でほぼ前年並みの300億米ドル(約4兆5000億円)強にとどまりそうだが、25年は増加に転じる公算が大きい。
TSMCは海外工場を建設も、最先端品はまず台湾
TSMCは米日欧の要請に応じ海外工場の建設を進める一方、最先端半導体の研究開発や量産立ち上げを台湾で行う方針を堅持している。25年に台湾北部・新竹、26年に南部・高雄で次世代の回路線幅2ナノ品を量産する見通しだ。
米アリゾナ州の新工場は28年以降に2ナノ品を生産する見込みで、台湾拠点と3年ほどの差がある。製造装置や材料メーカーにとっては引き続き、TSMC台湾拠点との連携が先端品向けのビジネスをつかむ鍵を握る。
その台湾で投資を増やすのは東京エレクトロンだけではない。半導体製造装置の世界大手をみると、オランダASMLホールディングは北部・新北で26年にも新工場を稼働させる。米ラムリサーチも台湾に研究開発(R&D)センターを新設する計画だ。
南部の売上高、「台湾のシリコンバレー」上回る
台南を含む南部は台湾当局が半導体サプライチェーン(供給網)の重点整備地域にしており、関連投資が特に活発だ。台湾の主要サイエンスパーク(工業区)のうち南部の売上高は23年に1兆5855億台湾ドルに達し、「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる北部の新竹を初めて上回った。
24年3月には住友ベークライトが南部・高雄に半導体の封止材の新工場を竣工した。
8月には米半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が台南と高雄にそれぞれ研究開発センターを設ける計画が明らかになった。
人材争奪戦の過熱必至、TSMCだけで年6000人
今後は技術者など人材の採用が課題となる。業界団体によると台湾の半導体業界で働く人材は30万人強に達するが、不足感が強まる。
TSMCだけで台湾域内で年間6000人規模を新規採用しており、海外勢の拠点が次々に立ち上がれば争奪戦の過熱は必至だ。人材確保の巧拙が、旺盛な投資の成否を左右する一つの要素となりそうだ。
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