米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴで同氏と会談する
ハンガリーのオルバン首相㊧(11日)=オルバン氏のX(旧ツイッター)から・ロイター
【ワシントン=辻隆史】
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が11日、閉幕した。ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援が主要議題となった一方、NATOに懐疑的な発言を繰り返すトランプ前米大統領が返り咲くリスクへの備えも目立った。
世界最強といわれる軍事同盟は結束の維持を迫られている。
NATO設立75周年を祝う首脳会議は9〜11日の日程で米首都ワシントンで開かれた。
ウクライナ支援の目玉は、25年に少なくとも400億ユーロ(約7兆円)の資金を届ける合意だ。
当初は複数年で1000億ドル(約16兆円)規模の供与を確約しようと検討した。
調整の結果、単年の支援にとどめたが、トランプ氏が当選した場合でもウクライナへの資金が途絶えないようあらかじめ額を明示した。
NATOはウクライナ兵の訓練や武器輸送などの調整役を米国から引き継ぐ。これもトランプ氏対策の一環で、ウクライナへの軍事支援の枠組みを守る狙いがある。
トランプ氏はこれまでにNATOに関する否定的な発言を重ねてきた。
有事の際に欧州の加盟国の防衛義務を守らない可能性にも言及する。特に他国の軍事費支出が米国と比べて少ないと批判している。
ストルテンベルグ事務総長は首脳会議で、24年に32の加盟国のうち23カ国が国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上とするめどがたったと強調した。
バイデン米大統領が就任した21年時点では9カ国だった。
カナダは会議に合わせ、32年までに2%を超す計画を発表した。米政府によると、全加盟国が2%の目標を達成する道筋を示した。
「トランプ氏は反NATOではなく、加盟国が十分に防衛支出しないことに反発していた。状況は根本的に変わった」。ストルテンベルグ氏は11日の記者会見で主張した。
NATOの重要な意思決定には、全加盟国の同意が必要だ。加盟国が増えた結果、「史上最も成功した同盟」(ストルテンベルグ氏)を誇るNATOのガバナンス(統治)は難しくなった。トランプ氏だけがリスク要因ではない。
ロシアや中国と近く、権威主義的な政治手法をとるハンガリーのオルバン首相は最近、NATOや欧州連合(EU)の決定を阻む場面が目立つ。自身の政策を批判したスウェーデンの加盟交渉を停滞させた。
オルバン氏は6月、オランダ前首相のルッテ氏の事務総長就任を支持する代わりに、NATOのウクライナへの軍事支援の取り組みには参加しないことでルッテ氏と折り合ったと明かした。
オルバン氏はワシントンでの首脳会議に参加する直前、「ピースミッション」と称してロシアのプーチン大統領、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とそれぞれ会談。欧州のNATO加盟国やEU執行部から強い批判を浴びた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日の記者会見で「全ての指導者が交渉できるわけではない。力が必要だ」と指摘し、オルバン氏の「仲介外交」に懐疑的な見方を示した。
オルバン氏は11日、米国でトランプ氏と会談した。トランプ氏が再選すれば、両者が組んでウクライナ支援にブレーキをかけかねない。
米政治サイトのポリティコによると、首脳会議での訪米を機に欧州の多くの政府関係者がトランプ氏側近との面会の機会を探ったという。水面下での「トランプ詣で」が加速している。
欧州の軍事大国・フランスにもリスクは潜む。7月の国民議会選挙で躍進した極右の国民連合(RN)は、過去にNATO統合軍司令部からの脱退を掲げたことがある。選挙では第1党を逃したが、今後勢いを取り戻せばNATOには脅威となる。
欧州では極右・右派勢力が伸長する国が増えている。増大するロシアや中国の脅威に対処するためには、まずは内部の結束を保つための政治努力が不可欠となる。
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慶應義塾大学法学部 教授
現在のNATOが直面する危機が、「トランプリスク」だけではなく、それ以外にも「オルバン・リスク」や「仏RNリスク」があるというのは重要な指摘です。
他方で、「トランプリスク」については、記事にあるようにある程度その実現可能性が強まっていることを受けて、これまで一年ほどの間でNATOも多様な対応を済ませてきました。
「トランプ氏は反NATOではなく、加盟国が十分に防衛支出しないことに反発していた。状況は根本的に変わった」という、ストルテンベルクNATO事務総長の言葉は重要です。
昨年1月に慶應義塾大学を訪問し講演頂いた際には、日本の貢献にも期待しました。楽観できませんが、危機は変革を生み出します。
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