電力会社がデータセンターや半導体工場の増加に対応して送電網を増強する。東京電力ホールディングスは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じ、大型変電所を新増設する。
データセンターが集まる首都圏に変電所の新増設計画の半数が集中しており、安定供給に向けて人工知能(AI)の普及をにらんだ電力インフラ整備が課題となってきた。
電力広域的運営推進機関が3月にまとめた各社の開発計画をもとに、日本経済新聞社が電力需要の拡大に対応した大型変電所の新設と増強分をまとめた。
30年までに全国で18カ所の新増設が計画されており、そのうち約半数となる8カ所が首都圏となる。容量ベースでも約4割を占める。
東京電力パワーグリッド(PG)は27年度までの5年間で産業向けを含む送電設備の増強に約4700億円を投じる。直近5年間と比べ3倍に増やす。6月には24年ぶりとなる大型変電所を千葉県印西市に新設した。周辺に供給できる電力は現状の1.5倍に増える。
ニュータウンとして開発された印西市では、18年ごろから国内外の企業によるデータセンター開発が相次いでいる。現在でも新規の需要をまかなえない状態で、印西エリアに新たに新設する検討に入った。
東電PG管内では多摩や相模原などでもデータセンターの開発計画が相次ぐ。金子禎則社長は「印西と同規模の集積地が5〜6カ所あり、消費需要は33年度までに700万キロワット増える」とみており、エリア内での変電所の増強を進める。
発電所で作られた電力は効率よく運ぶために電圧を高めて送電する。変電所は段階的に電圧を下げて顧客に供給する役割を担う。変電所の能力はエリア内の電力需要を基に決めている。
工場などの新設時には電力会社に使用量について伝えるが、供給量が足りなければ建設できない。電力会社は需要の増加に合わせて、変圧器や送電線を増強する。
半導体工場の誘致を進める九州や北海道でも変電所が不足している。
九州電力は台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設するのに合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決めた。投資額は100億円超となる見通し。半導体の関連工場向けの送電網も新たに敷設した。
北海道電力もラピダスの新工場を見据えて、27年に南千歳で変電所を新設する。全国では18カ所での新増設によって、電力容量ベースでは3%程度増える見通し。
日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少が続いてきたが、23年度を底に増加に転じる見通し。電力広域的運営推進機関の試算では33年度までの10年間で消費電力が4%増える。
データセンターや半導体工場は1棟当たりの使用電力も大きい。特にデータセンターは膨大な計算が必要な生成AIの普及でサーバーの1台当たりの消費電力が10倍近くに増えることもある。1棟あたりに必要な電力量も増えており、新規開発は周辺の送電設備の増強が前提となっている。
電力会社の投資の原資となるのは小売会社を通じて利用者から徴収している「託送料金」だ。各社の設備投資などをもとに5年に1度収入の上限を見直しており、23年度には全10社で値上げとなった。
変電所の新増設だけでなく、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーへの対応に向けての投資も増えている。消費者の負担を抑えるには電力需要の分散も必要になってくる。
急増する電力需要への対応は海外でも課題だ。データセンターが集積するアイルランドでは送電網の容量の不足などを理由に新規開発を制限しており、冬には需給の逼迫に備えてデータセンターなどへの給電を一時的に止める緊急プログラムも用意した。
日本政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている。
東京電力PGと日立製作所は22年から電力の需給に合わせて複数のデータセンターを一括で制御する技術の実証を始めている。
再生可能エネルギーが余っている場所のデータセンターで優先的に計算をしたり空調を制御するなどで負荷を抑える。
政府は送電網の強化に向けて50年までに約6兆〜7兆円を投資する方針。変電所の新増設に加え、既存の地域間連系線を増強するほか、北海道から東京を結ぶ連系線を新設する。
電力需要の高まりに対応し、再生可能エネルギーなどの電力を地域間で大量に融通できるようにする狙いだ。
(泉洸希)
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