ディープシークは米国の無料アプリのダウンロードランキングで一時首位に
中国の人工知能(AI)開発企業、DeepSeek(ディープシーク)の生成AIアプリが米国のアプリストアで一時首位に立った。
低コストで開発した大規模言語モデルの性能が米国製の競合モデルを上回ったと主張し、消費者らが注目している。米国のAI産業の優位性が揺らぐとの警戒感から、株式市場も反応した。
ほぼ無名だった中国のスタートアップがにわかに注目を集めるきっかけとなったのは、米CNBCテレビの前週末の報道だ。
ディープシークが安価で性能の低い半導体を使って構築したAIモデルが「シリコンバレー全体にパニックを引き起こしている」と伝えた。
大規模言語モデルの開発者の間では現在、データ量や計算資源などが大きいほど性能が高まる「スケーリング則」が信じられている。
この法則を根拠に、米オープンAIやソフトバンクグループ(SBG)などは1月、AIの開発インフラに5000億ドル(約77兆円)規模の資金を投じると表明した。
米メタも25年の設備投資額が前年比で約6割増えて600億〜650億ドルになる見通しだと明らかにしたばかりだ。
一方、ディープシークは1つのモデル開発にかかった費用が約560万ドルで、開発期間は約2カ月だったと説明している。もし同社の主張が正しければ、米テック企業による巨額投資の前提となってきた法則が崩れる恐れがある。
週明けの27日の東京株式市場ではAIの競争ルールが書き換わるのではないかという警戒感が一部で広がり、米テック企業との結びつきが強い日本の半導体銘柄は軒並み下落した。
主要な半導体関連銘柄で構成する「日経半導体株指数」は前週末比3%安となり、日経平均株価も同366円(1%)安の3万9565円と続落した。
アドバンテストが9%安で取引を終えたほか、オープンAIなどと共同で米国での投資を公表したソフトバンクグループも8%安となった。27日の欧州市場でオランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングの株価は一時10%超下落した。
フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは「トランプ米大統領のAI開発支援強化の恩恵で関連株が上昇していた反動で、影響度が不透明な中でも株価は大きく下げた」と話す。
ディープシークは既存の大規模言語モデルの出力データを使って新しいモデルを開発する「蒸留」という手法を使ったという。
詳細は不明だが、米有力ベンチャーキャピタル(VC)を率いるマーク・アンドリーセン氏はX(旧ツイッター)に「これまでに見た中で最も驚くべき画期的な技術の一つだ」と投稿した。
ディープシークは開発した大規模言語モデルを誰でも利用できるオープンソースとして公開するほか、スマートフォン向けのアプリも提供している。
「中華AI」の実力を試そうと利用者が殺到し、週末には米アップルの米国のアプリストアでディープシークのダウンロード数は一時首位になった。
米国は中国への先端半導体の輸出を制限しており、中国国内で活動するディープシークは生成AIの学習に最先端ではない画像処理半導体(GPU)を使ったと説明している。
こうした制約が、限られた条件で性能の高いAIを生み出すイノベーション(技術革新)につながったとの見方も浮上している。
高度な大規模言語モデルを短時間かつ低コストでつくる試みは、日本発のAIユニコーンであるSakana AI(サカナAI、東京・港)なども取り組んでいる。
生成AIの開発費を抑制する技術に注力する新興勢の台頭は、従来のテック業界のパワーバランスを崩す可能性を秘めている。
(八木悠介)
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
①DeepSeekショックが一瀉千里を走ります。
27日の市場では米国株先物が急落し、米長期金利が4.5%近辺まで急低下。
ドル相場は1㌦=153円台まで急落しました。
日経平均先物は一段安です。
②米金利が高止まりしてもAI銘柄はへっちゃら。そんな投資家の慢心が、中国のスタートアップに横っ面をはたかれ格好です。
③そもそもDeepSeekショックの直前の米国株。その益回りは、10年物米国債利回りとのスプレッド(格差)がほぼゼロにまで接近していました。
④この接近ぶりは2000年のドットコム・バブル以来。AIブームが当時とよく似た色彩を帯びていないか。今回のショックが問いかけるのはこの点です。