協議後にEUのミシェル大統領(左)、フォンデアライエン欧州委員長(右)と写真撮影をする岸田首相(7月13日、ブリュッセル)=ロイター
欧州連合(EU)は8月3日から、日本産食品に課している輸入規制を完全に撤廃する。加盟27カ国が福島県産の水産物などを対象に義務付けてきた放射性物質の検査証明を不要にする。輸入規制を課すのは最大55カ国・地域だったが、EUによる撤廃を経て12から7に減る見通しで、日本産食品の輸出拡大の追い風となる。日本政府は規制を続ける中国や韓国に対しても、科学的根拠に基づき規制をなくすよう働きかけを強める。
「科学と証拠、国際原子力機関(IAEA)の評価に基づいて決断した」。EUのフォンデアライエン欧州委員長は7月13日、ブリュッセルで岸田文雄首相と協議した後の共同記者会見で撤廃理由を説明した。
EUは東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、2011年3月に輸入規制を導入した。現在は福島県の一部の魚や野生のきのこ類、宮城県のタケノコなど10県でそれぞれ規制品目が定められている。その他の都道府県の産品でも規制地域外での生産を示す証明書が必要で、生産者の負担は大きい。輸出の制約となっていた。
日本側の要請を受け、EUは段階的に緩和を進めてきた。ただ欧州議会が緩和方針に反対動議を出すなどし、完全撤廃には時間がかかっていた。
撤廃は加盟27カ国の投票で決める。執行機関の欧州委員会と、フランス、ドイツなど各国政府の賛同が必要だった。日本の関係省庁や大使館が手分けして説得した。
岸田首相自らも動いた。マクロン仏大統領やフォンデアライエン氏との協議の際に撤廃の必要性を強く訴えた。マクロン氏は前向きに対応する意向を示し、フランスの支持につながった。当初は慎重姿勢を示していたドイツも最終的には賛成に転じた。
22年のEUへの農林水産物・食品輸出額は680億円と、世界ではベトナムに次ぎ6番目に多い輸出先だ。近年は日本のホタテなどの人気が高い。ホタテはEU規制から除外されていたが、今回の撤廃でイワシやサケ、マスなどが輸出しやすくなる。円安・ユーロ高基調を背景に販路開拓をめざす。
米国は21年、規制を撤廃した。EUに合わせ、連動した規制制度を持つノルウェーやスイスも8月中に撤廃の方針で調整している。
残るアジアの国・地域との交渉が今後の課題となる。中国、香港、台湾、韓国などが禁輸措置を続ける。今夏に予定する多核種除去設備(ALPS)処理水の海洋放出に反発し、中国や香港が規制の強化を打ち出している。
中国は7月から日本からの輸入水産物への放射性物質の検査を強化しており、日本からの鮮魚などが税関で留め置かれる事例が発生した。
香港政府は7月12日、処理水が海洋放出されれば福島、宮城など計10都県からの水産物の輸入を禁止すると表明した。対象地域は中国が輸入を禁止してきた範囲と重なる。香港は段階的に緩和してきたが、中国の強硬姿勢に歩調を合わせたかたちだ。
韓国は福島、宮城を含む8県からの水産物などの全面的な輸入禁止を続けている。韓国国内では処理水の海洋放出の安全性を疑問視する声も残るなか、一部では態度の軟化もみられる。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は岸田首相との会談で、IAEAが「処理水の放出計画は安全基準に合致する」と結論づけた報告書を尊重すると述べた。現在の規制は維持の方向だが、中国が規制を強めるのと対照的な動きだ。
日本はEUの判断を説得材料とし、中国や韓国に早期の規制撤廃を求めていく。
(ブリュッセル=辻隆史、西野杏菜)
日系記事 2023.07.30より引用