米連邦議会占拠事件では1500人以上が起訴された=ロイター
トランプ次期米大統領は、2021年1月6日に起きた連邦議会占拠事件の受刑者や被告人を大統領就任初日に恩赦すると公約している。
岩盤支持層に報いる目的だが、恩赦の規模によっては法の軽視や暴力の正当化につながりかねないとの懸念も出ている。
連邦議会占拠事件は、20年の大統領選で敗北したトランプ氏の支持者らが議会を襲撃・占拠し、バイデン大統領の選出手続きを阻止しようとした事件。
警察官1人を含む5人が事件に関連して死亡した。米国の民主主義の根幹を脅かす事件として世界に衝撃が広がった。
司法省によると、起訴された事件参加者は1500人以上に上る。多くは不法侵入や器物損壊など比較的軽微な罪だが、169人が警察官への暴力で有罪を認めた。国家に対する反乱を企てたとして「扇動共謀罪」に問われた者もいる。24年11月6日時点で約1000人が有罪となり、うち645人が禁錮刑を言い渡された。
公約通り多数の恩赦に踏み切った場合、対象者数は第1次政権での総計(144人)を上回る可能性がある。
トランプ氏は大統領当選後の24年12月初めに米NBCテレビのインタビューで「過激な者」など一部の例外を除いて「ほぼ確実に」恩赦を与えるとあらためて表明した。
受刑者については、「彼らは地獄のような生活を送っている。非常に不公平だ」と主張。警察官への暴力を認めた者についても「彼らはそうせざるを得なかったからだ」と語り、恩赦の対象にする可能性を否定しなかった。
米国の憲法は「大統領は弾劾で有罪の場合を除き、合衆国に対する犯罪への執行猶予や恩赦を与える権限を有する」と定める。
連邦最高裁はこれまでの判断で大統領に広範な恩赦の権限を認めており、あらゆる連邦法違反の罪に適用可能だ。
ミズーリ大学のボウマン名誉教授は、議会占拠事件参加者への恩赦について「憲法が認めた大統領としての権限の範囲内だ」としたうえで「個々のケースを審査せず、民主主義の転覆を図った自身の共謀者に一律に恩赦を与えれば、更生した人の救済といったこれまでの一般的な恩赦のあり方から大きく離脱することになる」と懸念を示す。
トランプ氏が自身を恩赦することも考えられる。トランプ氏は議会占拠事件に関与した罪と、政府の機密文書を不正に持ち出した罪の2件で起訴された。
検察は現職大統領の起訴を控える司法省の指針を理由に起訴を取り下げたが、大統領退任後に再び起訴することができる。これに備えて退任前に事前恩赦を試みる可能性がある。
またトランプ氏は、違法薬物などを扱う闇サイト「シルクロード」の創設者ウルブリヒト受刑者を就任初日に減刑すると公約している。同受刑者の支援者が多い自由至上主義の小政党「リバタリアン党」の党大会で支持を求めた際に表明した。
(ワシントン=芦塚智子)
=おわり
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