米アップルが9月22日に発売した最新端末「iPhone 15」シリーズの出足が好調だ。
携帯各社による発売日当日の予約枠は予約開始から数十分で埋まった。端末価格上昇と物価高によるスマホ市場の冷え込みに苦しんできた携帯各社にとって久しぶりの朗報だ。
総務省が端末割引の規制を強化する中、携帯各社はスマホを実質的に「リース化」することによって何とか端末価格を抑えようと新施策を打ち出す。
「正直、もうiPhoneの機能は飽和している。ただiPhone 15で充電端子が変わったのは大きい」
アップルの直営店、アップルストア表参道店(東京・渋谷)で、最新のiPhone 15シリーズを購入した30代の男性はこう話す。
9月22日のアップルストア表参道店で、最新端末を購入して喜ぶ来店者
米アップルが最新端末、iPhone 15シリーズを発売した。最も安い128ギガバイトのモデルでもアップルストアでの価格は約12万5000円と、これまでのiPhoneシリーズで最高額だ。おおむねすべてのモデルで前機種から5000~1万円値上げされている。
ただし値上げの主な原因は円安の影響で、小型版の「iPhone mini」シリーズを除けば、最も安いモデルの米ドル価格はiPhone 12から15まで799ドルのまま据え置いている。
iPhone価格の推移。小型版の「iPhone mini」シリーズを除けば、最も安いモデルは、米ドル価格の場合、iPhone 12から799ドルのまま据え置いている。日本における価格上昇は円安の影響が大きい。
iPhone 15シリーズは、充電などに使う端子を「USBタイプC」に変更した点などが目新しいものの、その他は前機種であるiPhone 14シリーズからの変更点は少ない。
アップルの発表後も、評判は芳しくなかった。
ただ蓋を開けてみれば、iPhone 15シリーズの出足は好調という。iPhone15シリーズを扱うNTTドコモとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯4社とも昨年のiPhone 14シリーズより予約が伸びているという。
調査会社のMM総研(東京・港)の横田英明取締役副所長は「iPhone 14に比べ、2~3割増しで売れている印象だ」と話す。
スマホ市場は近年冷え込んでいる。MM総研によれば、2022年度のスマホ出荷台数は3年ぶりに3000万台を下回った。
円安による端末価格上昇と物価高により、スマホの買い替えサイクルが長期化しているのが主な原因だ。実際、内閣府の消費者動向調査によれば、携帯電話の平均使用年数は4年を超える。
こうした状況下におけるiPhone 15の出足好調について、横田氏は「3年~4年ほど前のiPhoneがよく売れた。
これらの端末の買い替えサイクルがちょうど訪れたのではないか」と指摘する。充電端子がUSBタイプCに変わった点も、大きいとする。
同じUSBタイプCの充電器を使えることで、Android端末からの乗り換え需要を指摘する声もあり、端子変更の影響が出足好調に寄与しているとも考えられる。
スマホの実質「リース化」が加速
携帯各社の端末販売戦略も変化している。各社はスマホを実質的に「リース化」することで、何とか安く購入できるようにしようと力を入れる。
iPhone 15シリーズに合わせて身を削る新施策を打ったのがドコモだ。同社は9月から端末購入支援策である「いつでもカエドキプログラム」をアップデートした。
利用者は端末を分割払いで購入し、一定期間後、端末をドコモへ返却することで、それ以降支払う必要がある分割払いの残債が免除されるプログラムだ。新施策では利用者が最短1年後に端末を返却し、残債が免除されるようにした。これまでは最短で約2年後の端末返却だった。
返却までの期間を短くすると、結果的にドコモにとっては端末を安売りすることになり負担が大きい。同社のスマホ保険サービスである「smartあんしん補償」への加入が必要であるとはいえ、基本的には実質値引きだ。この新プログラムが功を奏したのか、関係者によると、ドコモは他社と比べて特にiPhone 15シリーズの売れ行きが好調という。
KDDIもiPhone 15シリーズに向けて、同様の施策を強化している。端末返却時の免除金額を期間限定で上乗せすることで、iPhone 15シリーズの値上げ分を相殺。最も安いモデルの場合、22年発売のiPhone 14シリーズと実質同額で購入できるようにした。
携帯各社がスマホの実施的なリース化に力を入れるのは、これまで携帯各社が制度の抜け穴を突いて進めてきた「一括1円」に代表されるような過度な端末割引が、総務省の新たな規制方針によって塞がれつつある点が背景にある。
国内携帯各社は過度な端末割引によって利用者の契約を増やし、後から通信料によって回収するというビジネスモデルを長らく続けてきた。総務省は過度な端末割引を問題視し、19年の法改正で回線契約と端末をセット販売する際の割引額に上限を定めた。しかし実際は回線契約とセットにしない端末単体の価格を割り引くことが可能で、それが一括1円のような端末割引が続く要因となった。
総務省は新たに、端末単体の割引を含めて割引額の上限を原則4万円(
税別、以下同)とする規制を投入する。ただし安価な端末では割引額の上限を引き下げ、可能な限り「一括1円」が生じないよう配慮した。具体的には、4万~8万円の端末では価格の半額まで、4万円以下の端末では2万円までとする。早ければ年内にもガイドラインを改正する。
iPhoneを中心とする高価なスマホは、もはや大きな割引なしでは幅広く売れない。一括1円のような販売が今後、困難になる中、携帯各社が活路を見いだしているのが端末の実質的なリース販売だ。
携帯各社の視点で見れば、リース型の端末割引は、利用者から返却後の端末を中古として買い取ることで、販売価格を相殺するシステムである。中古端末の買い取り価格が適正な範囲に収まる限り、リース型の割引は認められる。総務省の担当者は「中古端末の価値に応じた適正な割引であれば問題ない。これまでのような、端末を買う人や、いわゆる転売ヤーだけが得をする構造が問題だ」と語る。
長らく国内市場で続いた過度な端末割引にメスが入り、近ごろは一括1円販売も落ち着きを見せている。ただガイドライン改正前に、最後の駆け込み乱売が来ると予想する有識者もいる。
国内携帯各社は近年、端末出荷台数の伸び悩みに苦しんできた。端末の魅力で消費者を動かしてきた各社にとって、出荷台数の減少はビジネスチャンスの喪失につながる。
5G対応端末が普及しなければ、5G基地局へ設備投資する意義も薄れる。バルミューダなど国内スマホメーカーの撤退が続き、iPhoneは国内携帯各社にとって最後の頼みの綱である。
日経記事 2023.09.27より引用