取材に応じるイスラエルのバルカト経済産業相(8月31日、テルアビブ)
【テルアビブ=久門武史】イスラエルのニル・バルカト経済産業相は日本経済新聞の取材に応じ、日本との経済連携協定(EPA)締結に向けた調整を進める考えを示した。
4日に同国を訪問予定の西村康稔経産相と会談し、両国間で補完性の高い産業分野を巡り意見交換する。自らも「10月に日本を訪問する」と明かした。
日本とイスラエルは2022年11月、EPAを巡る共同研究を始めることで合意した。アジアでは韓国とベトナムが既にイスラエルと自由貿易協定(FTA)を結んでいる。韓国とのFTAを踏まえ、日本の経団連は「劣後しないことが重要だ」としてEPA締結を求めている。
バルカト氏は自国の人工知能(AI)技術などで日本企業と相乗効果を生み出せると語った。
日本が自動車など工業で高い品質と生産力を持つとしたうえで「我が国は生産性や質をさらに高めるアイデアに優れる。AIが最高の例だ」と述べた。「我が国と日本の強みを同調させる必要がある」と強調した。
イスラエルでは全市民に加入義務のある「健康維持機構」(HMO)が個人の医療記録を蓄積し、ビッグデータをAIで分析していると紹介。
「AIで創薬のコストや所要時間を大幅に節約できる」と例を挙げた。政府として「AIのインフラに補助、支援し、スタートアップ企業がデータベースを活用できるようにしている」と説明した。
バルカト氏はイスラエルの成長戦略として、優位性のある7分野の産業集積(クラスター)を指定し、重点的に育成する案を明らかにした。
対象は「生命科学・医療」「農業・フードテック」「ハイテク」「砂漠・気候」「防衛」「先端製造業」「観光」。
クラスターごとに市場開拓や投資促進を調整する担当官を置く。外国企業がイスラエルで台頭するスタートアップ企業との情報交換や投資を効率的に進める窓口になるとみている。
「今年第4四半期にも全面的に動き出す」とし、この計画に4億シェケル(約150億円)の予算を充てると明らかにした。
イスラエルは兵役中に軍で培ったノウハウや人脈を生かして起業する人が多い。
政府も起業を支援し、技術主導型のスタートアップが勃興した。IT(情報技術)や医療、自動運転関連などで米欧日の企業が技術提携や投資を進めている。
イスラエルは人口が1千万に満たず市場は小さいが、国外で稼げる独自技術で存在感を放つ。1人当たり国内総生産(GDP)は日本を上回る。
ネタニヤフ政権は裁判所の力を弱める「司法制度改革」を進め、反対する市民の大規模な抗議デモが続いている。
バルカト氏は経済に悪影響を及ぼすとの見方について「まったく同意できない」と否定した。「平和的なデモだ。誰もが法を守っている」と述べた。
司法制度変更を巡り、格付け会社はイスラエル内政の対立が「中期的に経済成長の重荷になる」(米S&Pグローバル)などと警告している。
三権分立を脅かし民主主義が後退するとして、スタートアップの経営者や従業員が抗議デモに加わり、資金を国外に移す動きも出ている。