晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

葉室麟 『風花帖』

2021-12-05 | 日本人作家 は

がっつりプライベートな話で恐縮ですが、血液検査をするといつもコレステロール値が標準よりも低すぎて、でも悪玉コレステロールは低くていいのでは?とお医者さんに訊いたら、細胞壁が弱まる、抵抗力や免疫力の低下、などあるそうで、低けりゃいいってもんじゃないそうですね。主治医から「もっと肉と魚と卵を食え、マヨネーズやドレッシングもカロリーオフやノンオイルは使うな」と、中年男性の栄養指導とは真逆のアドバイスをいただいてるわけですが、先日の血液検査でついに善玉コレステロール値が標準になりました。でも総コレステロールと悪玉コレステロールはまだ低すぎ。ちなみに体脂肪率は10%前後なのですが、体型は痩せてはいますけど別に痩せすぎというほどではありません。

 

以上、体脂肪率ひと桁だと風邪ひきやすいですよ。

 

さて、葉室麟さん。直木賞受賞作「蜩ノ記」のときに選考委員のひとりが「登場人物がみな清廉すぎる」とコメントしていまして、人間の薄汚さ醜悪さをこれでもかと描くのが「リアリティ」みたいな風潮はあまり好きではないので登場人物みな清廉けっこうではないかと思ったのですが、葉室麟さんの他の作品を読みますと、まあけっこうドロドロした作品がありますね。とくに江戸時代の御家騒動モノ。

 

というわけで、この作品は御家騒動。江戸後期の文化・文政時代のこと、九州、小倉藩では家中が二派で対立、片方が城(白)に、もう片方が筑前黒崎宿(黒)に立て籠もるといった感じで、後世「白黒騒動」と呼ばれることになったそうな。

物語は、小倉藩士の勘定方、印南新六を乗せた駕籠が自宅に着きますが、駕籠の中で自害して息絶えていた・・・という壮絶なシーンからスタート。

それより十年ほど前のこと、小倉藩江戸屋敷側用人の菅三左衛門の嫡男、源太郎と書院番頭の杉坂監物の娘、吉乃の祝言が行われています。しかし、その席の中に、三左衛門の属する派閥(犬甘兵庫派)と対立する派(小笠原出雲派)に属している藩士、印南新六が座っているではありませんか。ですが、印南家と杉坂家は親戚なので、新六が祝言の席にいても別に不思議ではないのですが、周囲からは「あいつ、何しにきたのだ」「出雲派から犬甘様に寝返りたいのか、親戚の婚儀を利用するとはみっともない」などと陰口を叩かれまくり。

すると、出席していた犬甘兵庫が「印南新六に杯をとらせる、これに呼べ」というではありませんか。「そなたは出雲殿の派閥じゃそうだな」と訊かれ「父が出雲様を敬っていただけで、父亡き後、わたしは派閥に関心ありません」と答えると、今度は「そなたは無想願流を遣そうだな」と訊いてきます。質問の意味をわかりかねて黙っていると「まあよい、これからはわしの会合に出るように」と笑いかけます。

それから、新六はちょくちょく源太郎の家に来るようになります。新妻の吉乃はどこか嬉しそう。

しばらくして、城下で騒動が起きます。農民が押し寄せて一揆の様相。兵庫は「出雲派が仕組んだことだな」と見抜きます。この頃、藩主の小笠原忠苗は体調が悪く、養子の忠固に家督を譲ります。忠固は家督を継ぐに当たって、藩政を牛耳っていた兵庫が邪魔だということで、出雲派と結託して農民騒動を兵庫の失政に対する不満ということにして、兵庫は幽閉されることに。

犬甘派の幹部たちが集まって話し合いが行われ、源太郎は新六に報告します。そして「新六どのは半ば無理やりわが派に加わられたので、離れたほうが良いかと」と言いますが、新六は「さような話をうかがうと、なおさら犬甘派から離れがたくなりました」とにっこり笑います。

 

ところがそれから数カ月後、兵庫死去という知らせが。

こいつは大変なことになったと犬甘派は大慌て。

そんな中、新六のもとに、小笠原出雲から呼び出しが。出雲の屋敷に行くと、そなたの父親を生前あれだけ世話したのにお前はいけしゃあしゃあと犬甘派と親しくなりおって、と怒られ、お前はそのまま犬甘派にとどまって、やつらの動きを逐一報告せよ、と命じます。

新しい殿の忠固は幕府内で出世して幕政に参加したいという欲があり、(運動)をはじめます。つまり、上役への「どうか、ひとつ・・・」という付け届け。このため財政が逼迫、家臣らの俸禄を半分にする「半知借り上げ」という策に出ます。これに旧犬甘派から猛反発。さらに、先日のこと、某藩士の屋敷の壁に、殿の悪口のいたずら書きがあったそうで、藩内は一触即発。

そこで、旧犬甘派の中から、外国船の接近に備えて烽火を上げることになっているその烽火に「藩内が非常事態」だと火を放とうという計画案が持ち上り、その役目をはじめは源太郎が立候補しますが、新六がやることに。これには、かつて新六が吉乃と交わした約束が・・・

ここから、御家騒動に発展、先述した「白黒騒動」となります。新六の(無想願流)は、「蝙蝠(コウモリ)が飛翔するがごとき至妙の技」という秘技があり、新六は、両派閥を行ったり来たりとまさにコウモリのごとく・・・

 

この「白黒騒動」は実際にあった出来事で、史実によると、幕府の裁定が入り、出雲は失脚、旧犬甘派も処罰、さらに殿の忠固も百日の閉門に。本来であればお家取り潰しになってもおかしくなかったのですが、忠固の遠い遠いご先祖様の勲功(大坂夏の陣での小笠原秀政の大活躍)があって、罪が軽くなったそうです。しかし、もはや返済不可能なレベルにまで財政は逼迫、小倉藩・小笠原家は衰退の一途をたどることに。

 

御家騒動というのは、現代だと企業や政治の派閥争いにそのまま受け継がれていますね。もうこれは人間が群れを作ると必ず起きてしまうものなのでしょうか。悲しい生き物ですね。

 

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葉室麟 『乾山晩秋』

2021-11-21 | 日本人作家 は

ここ最近のプライベート話。仕事に行くときに水筒にお茶など入れて持っていくのですが、500ミリのやつなんですけど、家から車を運転しながら飲んで職場に着いて仕事してる最中や食事の時に飲んでまた運転して家に帰るまで飲んでってやってると500ミリじゃとうてい足りないので、途中のコンビニに寄ってペットボトルのお茶を買ったりしてこれじゃイカンということで、今使ってるのは車内用、あと仕事のとき用にと新しい500ミリのマイボトルを買いました。なぜ前のは「水筒」で新しいのは「マイボトル」なのか。前のはホームセンターで買ったやつで、新しいのはイギリスのブランドで、ステンレス製のオシャレなデザイン。

 

はい、鼻持ちならないブランド野郎です。

 

この作品は短編集で、共通しているのは、主人公が、テレビのお宝鑑定番組などで聞いたことのある、戦国・江戸時代の画家や陶工。この時代の主流といえば狩野派ですので、5話中3話は狩野派にまつわる話。

 

有名過ぎる兄、尾形光琳。その弟も、後世になって有名にはなるのですが、どうにもくすぶっている尾形乾山。野々村仁清に弟子入りした陶工。お兄さんは生前、超有名人でしたが内証は豊かではありませんでした。ある日のこと、京の乾山の家に男の子を連れた女性が来ます。ということは、光琳の子なのか。という悩みの種がある中、乾山の焼き窯が廃止されるという知らせが・・・という表題作「乾山晩秋」。

 

狩野源四郎が出かけようとしたところに、土佐光元が絡みます。土佐家は朝廷の絵師。一方、狩野家は幕府御用絵師。「近衛の家に向かうなら急いだほうがいいぞ」と意味深な言葉を投げかけます。源四郎が近衛家に着くと、織田信長の命令で家が破壊されています。襖絵や屏風絵を収めたばかりで、この所業に腹を立てますが、じつは、御邸が壊される前に、信長のお付きの小姓が絵画を持ち出していたのです。「ならず者の田舎大名にわたしの絵の価値がわかるもんか」と思っていた源四郎のもとに、その小姓が訪ねてきます。これからは信長様の天下になるので、ぜひ信長様の絵師になっていただきたい、というのです。ですが、この当時、信長および将軍の足利義昭は土佐家を重用しています。

数年後、源四郎は永徳と改名します。永徳は信長に呼び出され、近江の安土山に城を築くので、その障壁画を書いて欲しいと・・・という「永徳翔天」。

 

甲斐国の武田信玄のもとに、越前朝倉氏からの使者がやってきます。その中に絵師がいるというので、信玄は肖像画を描いてもらいます。絵師の名は長谷川又四郎信春。のちの長谷川等伯です。信春は能登の武家の生まれでしたが染物屋の長谷川家に養子に出されます。武田家から肖像画の報奨金をもらった春信は能登に帰る道中、一緒にいた侍に報奨金をよこせと脅されますが逃げて谷を転がり落ちます。猟師に助けてもらい、家に連れてってもらいます。するとそこの娘が「わたしを能登に連れてって」と・・・という「等伯慕影」。

 

京は島原の遊郭で宴会が開かれています。招かれていたのは井原西鶴。西鶴は宴会にいた花魁の着物に目を留めます。花魁に聞くと、その着物の絵を描いたのは「清原雪信さま」というではありませんか。幕府の御用絵師で狩野探幽の姪の娘である雪信がなぜ京にいるのか。花魁にたずねると「長い話になりますえ。恋の話どす」というのですが・・・という「雪信花匂」。

 

絵師の多賀朝湖は、知り合いから「面白い儲け話がある」と聞きます。朝湖はのちの英一蝶。遊びが過ぎて狩野派を破門され、絵師というよりは幇間みたいな暮らしの朝湖はその話に乗ります。なんでも、吉原の噂話をするだけで金がもらえるというのです。ところが、その話す相手というのが、大奥の奥女中というのですが・・・という「一蝶幻影」。

 

現代風にいえば「アーティスト」が主人公の話ですが、身も蓋もない言い方になると生きていくのに特に必要のない職業、職種ではあります。まあそれをいったら武士も江戸時代の元禄あたりからぶっちゃけ無用な存在ではあったのですが、この人たちのもがきながらも必死に生きてる様は傍から見てる分には面白いです。手先は器用でも身過ぎ世過ぎは不器用な人たちですから家族にしたらたまったもんじゃありませんけどね。

 

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半村良 『江戸打入り』

2021-03-27 | 日本人作家 は
今月はけっこう投稿しています。学校は現在は「履修期間外」ということで、まあ世間でいう春休みですか、その間にできるだけたくさん本を読んでしまおうというわけ。

といったわけで、半村良さん。

まずはこのタイトル、文庫の表紙は野武士集団のよう、とくれば「ははあ、これは盗賊ものか」なんて思ったのですが、全く違いました。

戦国時代も末期、三河の足助(現在の豊田市)に鈴木という家があり、なんでも古くは鎌倉時代、南北朝時代にまで遡る家系で、このころは家康の徳川家の分家の松平家の雑兵(足軽)。この家の唯一の男子、金七郎は、名前のとおり、七番目。上に六人の兄がいたのですが、みな戦死か病死。金七は炭焼きや柴刈りをして、金七の兄の未亡人たちは機織りや針仕事をしています。

そんな金七に、出兵の召集が。なんでも太閤殿下の秀吉が小田原の北条と戦をすることになったのです。家にいる女たちは「金七が最後の男だから、せめて危険の少ない夫丸(物資や食料を運ぶ人たち)か足軽で」といって、馬に乗って刀や槍を持つ戦闘員ではなく後方支援部隊として参戦します。

叔父の銀兵衛から「金七は普請組と作事組の小荷駄の護衛だ」と言われ、普請組や作事組とは何をするのかと聞けば、秀吉の使う仮設の茶室や館を作るというのです。

さて、東海道中の金谷に、鋳物の名人がいて、その家に火をつけようとしている者を金七らはやっつけます。翌朝、立派な恰好の騎馬武者がやって来て「昨日、鋳物師を襲った素破(忍者)をやっつけたのはお前らか」と褒められ、雑兵の中であいさつがきちんとできて字も書ける金七を認めて取り立てられます。

いつの間にか足軽の組頭になった金七は、富士川を渡るのに舟を並べてその上に竹簾を敷いた舟橋を造る作業を任されたりして、なんだかんだで小田原に到着。そこで金七が受け持ったのが、酒匂川の河口近く、つまり海寄りの辺り。しかしどうにも気になるのが、味方の陣地の配置が、まるで金七ら徳川軍を背後からいつでも攻撃してやるといった感じがしたのです。というのも、そもそも家康は北条と姻戚関係があるというのもあって、秀吉サイドからは完全には信用されていませんでした。

そんな疑念を金七は上役に告げると、金七に偵察をさせることに。しかしそんな不安は解消。相手方の大将つまり太閤秀吉が家康の陣に乗り込んで飲めや歌え。

そんなこんなで難攻不落の小田原城に立てこもっていた北条勢は負けを認めます。これで故郷に帰れると喜んでいた金七らに、なにやら国替えがあるとの噂が。そして金七は上役に呼ばれ、そこで江戸に国替えになることを知らされるのです。

金七の住む三河や隣国の尾張はもちろんそれより西の国の人たちにとっては駿河の東、箱根より向こう側は未知の世界・・・

ちょうどこのころ、秀吉は「検地、刀狩」を制令します。つまり、それまでの平時は農民で、戦になれば鍬や鎌から槍や刀に持ち替えて参戦するといったスタイルから、武士は武士、農民は農民といった「兵農分離」の政策を推し進めます。金七の家はまさにこの武士と農民の中間のようなポジションで、江戸へ行って義姉たちを江戸に呼び寄せることになるのですが彼女らの生活はどうなることやら。
文中の説明で、「兵農分離」のせいで生まれたのが「侠客」つまり(やくざ)だというのです。普通は戦に駆り出されるというのは嫌なものですが、中には喜んで参戦したのもいたそうで、「明日からお前らは農民だけやってろ」といわれても納得できず、彼らは刀や槍のかわりに匕首(短刀)を持ち、領地のかわりにシマ(縄張り)をめぐって争うようになります。

この当時の江戸は現在の大都市・東京の様子とはだいぶ違って、現在の日比谷あたりは入江になっていて太田道灌が築いた当時の江戸城は海に面していました。ちなみに江戸城が海に面しているということはそれだけ敵に攻められやすいということなので、家康は天正十八年に江戸入りして早々に、名目上は「行徳の塩をスムーズに江戸城に運ぶため」といって江戸城から日本橋川へ(道三堀)という堀を通します。これの別の目的は日比谷入江を攻められたときに大川(現在の隅田川)に出て江戸湾に逃げるためといわれています。

金七らは入江の向こう側に行ってみて、現在の有楽町あたりの洲から新橋あたりの砂地の突端まで歩いて引き返します。文中では「おそらくこれが銀ブラの第一号だろう。だが、まだ東銀座の半分は海の中だ」という描写があって笑ってしまいました。

これも文中にあって「へえ」となったのが、東京の男の人が話す「それ俺のだわ」といったように語尾に「~わ」をつけるのは、もともと三河弁が発祥とのこと。
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半村良 『獄門首』

2021-03-13 | 日本人作家 は
当ブログは「本好き素人の書評ブログ」ですので、あまりプライベートなことは書かないのですが、先日、差し歯が取れてしまいまして、それも上の前歯。鏡の前で「にっ」と笑うとそこには歯抜けジジイが。現在歯医者さんに通院治療中ですので、次の予約日までだいぶありますが、まあ特に痛くもありませんし。いやあ、マスクするのが当たり前の世の中で本当に良かったですよ。

さて、そんなこんなで。

半村良さんです。この作品は、完結していません。つまり未完。

街道のとある宿場町に夫婦がいて、そばいる男の子に「余助、おとなしくしてるんだぞ」と声を掛けます。この夫婦の子のよう。すると夫婦は山道で、なんと人を殺し、金を盗みます。
この親子三人は、名古屋に着き、この地域を取り仕切っている親分のもとに挨拶をし、空き家を探してもらって、春になるまで住むことに。余助という子が外に遊びに行って家に帰ってくると「近くの大店が見張られてるよ」というではありませんか。父親が確認すると、凶悪で有名な強盗団一味。とばっちりを受けてはまずいと夜逃げ同然で岡崎へ。
ところが、強盗団の残党が親子の隠れ家にあらわれ、「こいつを預かってくれ」と百両以上の大金を置いていきます。すると「これだけあれば盗賊稼業から足を洗って江戸で楽に暮らせる」と、もらってしまおうとするのです。
また名古屋に戻ると「おれの顔に見覚えはないか」と、あのとき大金を置いて行った男が目の前に・・・

両親は殺されますが、ネコババした二百五十両はどこかに隠した余助。助けてもらった寺の住職に「お坊さんになるか」と「正念」という名をもらい、寺の小僧に。そうして十二歳になった正念は、棒術の道場に移ります。そこで道場主から「利八」という名を与えられます。
この道場の師範代で藩の上役の息子の坂下という男が、道場主の一人娘を妻に迎えたいと強引に話を持ち出します。坂下が他の師範代と立ち合い稽古をしようとしますが、そこに利八が名乗りを上げ、なんとあっという間に坂下に勝利。

道場に迷惑がかかるといけないので利八は道場をお暇し、ふたたび寺へ。そこで、隠してあった二百五十両を取り出し、名前を「利八」から今度は「巳之助」に変えて、相模の藤沢へ・・・

藤沢で、巳之助はまた別のミッションに取り組んだりします。徳川幕府の転覆を目論む謎の新興宗教が出てきたり、盗賊一味に参加したり、ちなみにこの時点で名前は「徳次郎」に変わっています。南町奉行、北町奉行、火付盗賊改方の共同チームという厳戒態勢を相手に、次に忍び込むのは・・・

といったところで(未完)。

行く先々で名前が変わって、もちろんやることも変わって、さながらロールプレイングゲーム。まあ大筋の予想ですと(タイトルからして)最終的には主人公は捕まるのでしょう。
出版順でいうとひとつ前、おそらくほぼ同時期に執筆されていたであろう「すべて辛抱」という、田舎から出てきた少年が江戸で立派な商人になるまでを描いた作品があるのですが、「獄門首」は盗賊ですので違うといえば違いますが、根底にある部分は似ています。
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半村良 『どぶどろ』

2021-01-07 | 日本人作家 は
2021年初投稿。昨年は拙い文章満載の当ブログをご覧いただきありがとうございました。
また今年も飽きずによろしくお願いします。

さて、一発目の投稿は、半村良さんの時代小説。昨年ラストはジェフリー・ディーヴァーでしたので、ここは時代小説でいこうじゃないかと。相変わらず古今東西なんでもござれ、です。

莨問屋(宮川屋)の手代、繁吉は、付き合いのある店からの掛け取り金を使ってしまいます。こんなやけになるのも、宮川屋は本店が伊勢にあり、伊勢出身者しか出世できず、江戸生まれの繁吉は将来に不安。とはいえ、店の金に手を出すのはどう考えてもまずいことで、どうしようかとあるいてると「おい」と遊び人風の男に声をかけられ・・・という「いも虫」。

五十くらいの酔った男がちょうど店を出ようとしたとき、店に入ってきた若者とぶつかり、五十男がよろけて医者の渡辺順庵にぶつかります。「すまねえ」と若者。その若者を諫める飲み仲間の浪人の榎洋市郎。若者も不機嫌。まあまあそこらへんでとなだめるこれも飲み仲間の易者。若者が帰ったあと、店にいた浪人、医者、易者、それに店主の安兵衛がさきほどの五十男の身の上話を・・・という「あまったれ」。

小間物屋の寄合の席で、若い浜吉は、本所の源助といっしょに安兵衛の店へ。そこで先ほどの宴会の会場で料理をチクった女板前のお梅の話になり・・・という「役立たず」。

深川、六間堀にかかる北ノ橋のたもとに、蕎麦の屋台が出るように。しかも、たもとの両側に二軒。片方は若く、もう年寄りで、商売仇と思いきやこの両者、仲は良さそう。六間堀の屋台蕎麦屋の話を聞いた小間物屋の源助は、年寄りの名を小六といい、昔、吉原から遊女を落籍させたという話をしだし・・・という「くろうと」。

検校の使いで借金取りをしている伊三郎が、検校の家で榎という侍に声をかけられます。どうにも伊三郎が悩んでいるので榎は話を聞くと、油問屋の大坪屋の話に・・・という「ぐず」。

小間物屋の源助は、立ち寄った先で、木綿問屋の主に先立たれたふたりの息子がいる未亡人の話に。その母親は、兄に、最近、弟が土手にいる浮浪者と遊んでいるのかと聞き・・・という「おこもさん」。

莨問屋、宮川屋の番頭、清吉は、おこんという女房がいるのですが、おこんは一度離縁して、宮川屋の紹介で夫婦に。伊勢出身者しか出世できない宮川屋でそれでも番頭までなったのですが、あとは飼い殺し状態。そんな気力のない清吉に、おこんが「私はあなたが宮川屋に謀反を起こしてもいいと思ってる」と言い出し・・・という「おまんま」。

と、ここまでが短編で、ここから本編の「どぶぶろ」になります。
戯作者でこの当時のスター、山東京伝の従者の平吉は、世間から「町屋敷の平吉」と呼ばれ、岡っ引きだと思われています。実際、八丁堀の役人にも顔が利くし、他の地域の岡っ引きとも情報交換したりしていますが、正式には、銀座の町役人をしている山東京伝の父親の岩瀬伝右衛門の従者。
ある朝、伝右衛門から「ちょっと八丁堀に行ってくれ」と言われ、どんな用か尋ねると、昨夜、本所で人殺しがあって、どうやら下手人は、こっち(つまり銀座の関係)の人らしい、とのこと。
平吉は「引合を抜かせるんですか」と聞き、伝右衛門は、そうだ、と。つまり、伝右衛門に都合の悪い事実が出てきたとしても「なかったことにしておいてほしい」という意味。
しかし、まだ下手人すらあがってないというのに「無しの方向で」と言われても平吉は合点がいかず、八丁堀の同心に聞いてみると、被害者は、六間堀の近くで屋台の蕎麦屋を出していた小六という爺さんで、その殺害方法は、剣術の心得がある者つまり太刀でバッサリと斬られていたそう。さっそく平吉は本所へ行き、土地の岡っ引きに話を聞きますが要領を得ず、近くに住む知り合いの小間物屋の源助の家に行き、源助から、殺された現場はさる武家屋敷の前で、容疑者は橋の向かい側で屋台の蕎麦屋をやっていた宇三郎という若い男だと聞きます。さらに、小六と宇三郎との複雑な関係から宇三郎が殺すわけはないという情報もあって・・・

犯人は銀座に関係のある人物なのか。そして平吉が「知ってしまった」真実とは。

上記のように、前の短編の登場人物が「どぶどろ」に登場します。蕎麦屋のふたりと源助だけでなく、町屋敷に新入りでやってきたのが繁吉だったり、安兵衛の店にいた侍も医者も、女板前もみんな出てきます。

カテゴリ的には「時代小説ミステリ」になるんでしょうけど、それにしてもラストは「えっ?」と驚き。

文庫の解説が宮部みゆきさんでして、なんでも宮部さんの作品「ぼんくら」の(短編が集まって長編になる形式)と(ひらがなのタイトル)はこの小説のオマージュなんだとか。ああそういわれてみれば、という感じです。
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葉室麟 『孤蓬のひと』

2020-11-10 | 日本人作家 は
我が家では最低気温がひとケタにならないとリビングのガスストーブと和室のコタツを使わないというどうでもいい類のルールがあるのですが、今年は10月中にガスストーブとコタツを使いはじめました。「今年は暖冬」というシーズンはそれこそ12月に入ってようやく使い始めるなんてこともあったりして、もしかして今年の(来年にかけての)冬は例年より寒いんでしょうかね。

そんな与太話はさておいて。

『孤蓬のひと』です。小堀遠州のお話です。「小堀遠州」という名前、お宝の鑑定番組でよく登場しますね。戦国武将というより、古田織部とならんで、もはや茶人として有名ですね。

遠州は近江(現在の滋賀県)に生まれます。父親は近江の戦国武将、浅井家の家臣だったのですが、浅井家が織田信長との戦に敗れると、羽柴秀吉に仕えるようになり、その後、秀吉の弟の秀長の家臣になります。秀長亡き後は秀保、ふたたび秀吉に仕えますが、関ヶ原の合戦では東軍つまり徳川方につきます。父が急死して家督を継ぎ、もともと織部の弟子として茶人として有名ではあったのですが、庭園造りとしても評価が高く、幕府より「遠江守」をもらい、これが「遠州」という名前の由来です。

なぜ千利休は切腹しなければならなかったのか。父とともに仕えた豊臣秀保はなぜ秀吉にあそこまで邪見にされなければならなかったのか。世間の人の知る石田治部(三成)と、小姓時代に遠州が見た、話した石田治部の印象とは。師匠の古田織部はなぜ切腹となったのか。義父にあたる藤堂高虎から聞いた幕府と朝廷との折衝の話とは。当代一の文化人、本阿弥光悦との話とは。沢庵和尚の話とは。世間では遠州と不仲と噂の細川忠興との関係とは。伊達政宗との茶席でなにを話したのか。

戦国時代あたりの話ではありますが、主に「人物」にフォーカスしていて、上記では出てないビッグネームもまだまだいて、勝者側にせよ敗者側にせよ、あの「時代」の主要キャストはやはり「ただものじゃなかった」というエピソードのオンパレードで、歴史にさほど興味ない方でもシビれます。

先日、藤堂高虎の一代記の歴史小説を読んで投稿したばかりなのですが、今作でも「自分は主君をコロコロかえるやつと思われてる」と自虐めいたことを言いますが、「自分は天下に仕えている。織田家、豊臣家、徳川家と主君が変わっても不思議ではない」と言ってのけます。
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葉室麟 『陽炎の門』

2020-09-17 | 日本人作家 は
関東南部はようやく朝晩は涼しくなってきましたね。これからいよいよ読書の秋。というわけで我が家には未読の本が山積み。といいますのも、緊急事態宣言以降、買い物といえば食料か生活必需品くらいなもので、本とか服とか買いに行ってません。ではどうするかというとネットショッピング。ああいうところでは「~冊以上(〇円以上)は送料無料!」というのをやっておりまして、そうしますと、ついつい送料無料にするために多めに買ってしまうんですね。ま、あとで全部読むんですから別にいいんですけど。

以上、ネットショップに潜むワナという問題について一石を投じてみました。

さて、葉室麟さん。

この作品は直木賞受賞作「蜩ノ記」の受賞後第一作目か二作目。

「蜩ノ記」で、直木賞の選考委員から「登場人物がみんな清廉」という批評があったそうですが、まあその発言に影響を受けたかどうかはわかりませんが、この作品は登場人物が清廉ではありません。といいますのも、おおざっぱなあらすじは、御家騒動。

たいてい御家騒動を扱ったどんな時代小説でも、登場人物はみんな薄汚いものです。

九州にある架空の「黒島藩」の城門をくぐるひとりの藩士、桐谷主水。四十歳にならない若さで藩の執政になった、いわばエリート。ですが、彼についた不名誉なあだ名は「氷柱(つらら)の主水」。

十年前、黒島藩は熊谷派と森脇派という派閥争いでまっぷたつに分かれていました。その争いは森脇派の負けになったのですが、そのきっかけとなったのが、主水の幼なじみを切腹に追い込んだ「殿の落書き事件」。

当時、主水は熊谷派で、幼なじみの芳村綱四郎は森脇派でした。ある日、「佞臣ヲ寵スル暗君ナリ」という落書きが見つかって、その犯人捜しということになり、主水は「この字は綱四郎の字です」と証言。せいぜい降格処分かと思っていたら、なんと綱四郎は切腹の処分。
ところが、綱四郎は介錯人(切腹をするときにはやく苦痛から解放させるために後ろから首を斬る人)に、主水を指名したのです。
綱四郎には息子と娘のふたりの子がいて、切腹の前に「いいか、決して主水に恨みを持ってはだめだ」と言い残します。

その後、息子の喬之助は江戸へ、娘の由布は、なんと主水の妻に。

大きくなった喬乃助は、江戸の剣術道場の師匠を連れて「父の仇討ちをする」と黒島藩に許可を求めます。というのも、彼のもとに「お前の父親は冤罪だ」という書が届いたのです。主水の上役たちは、あの派閥争いが蒸し返されるのはごめんというわけで、与十郎という若侍を、主水の行く先々に同行、つまり見張りをつけることにします。
そもそもあの落書きは本当に綱四郎が書いたものだったのか?確信がゆらぐ主水。

そこで、少年時代の主水と綱四郎とふたりの先生を訪ね、あれは本当に綱四郎の字だったか聞くと「藩主に対する悪口は綱四郎の字だ。しかし、その下にある(百足)という字は別人のものだ」と言われ、この落書きには(百足)という署名があったことを、しかも(本文)とは明らかに筆跡が違うのを、ちゃんと確認していなかったことに今さら気付く主水。

先生は、この件は、派閥争いのさらに前にあった「後世河原騒動」に関わりがある、と教えてくれたのですが・・・

「後世河原騒動」とは、黒島藩中にあったふたつの剣術道場どうしの争い。じつはこのとき、道場の門人どうしの対戦はある程度終わっていたころになって、覆面をした数人が来て、倒れている怪我人にさらに暴行するという非道な振る舞いをしていて、主水と綱四郎は止めに入り、覆面をしていたうちのひとりが腕を斬られて、のちに出家します。この男の父親というのが、藩の重役。この重役は息子の腕を斬ったのは綱四郎か主水のどちらかに違いないと思っていて・・・

はたして主水が綱四郎を切腹に追い込んだ「落書き事件」と「後世河原騒動」との接点とは。喬乃助は仇討ちのために三か月後には黒島藩に来るのですが、どうなるのか。また派閥争いが蒸し返されるのか。そして与十郎の正体とは、彼の真の目的とは。

先述したとおり、メインストーリーが御家騒動をあつかったもので、そりゃ清廉というわけにはいきません。
序盤は気が滅入るような内容で、読み進むのにちょっと時間がかかってしまったのですが、後半に進むにつれてだんだんと真相が分かってきてから読むスピードが速くなってきて、最終的に「いやあ面白かった。読んで良かった」となりました。
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藤沢周平 『竹光始末』

2020-01-17 | 日本人作家 は
我が家の書棚に藤沢周平さんの本がじわじわと増えてきました。
「じわじわ」って書くとなんかまるでマイナスなこと(悪いウィルスとか汚染とか借金とか)が増殖していくようなイメージですが「物事がゆっくり確実に進行するさま」という意味で。じっさい、ここのところよく読んでます。

さて『竹光始末』です。短編集です。

みすぼらしい格好の武士と、その家族とみられる妻、ふたりの子。藩の木戸番士に「当城内に柘植八郎左衛門という御方はおられるか」とたずねます。話を聞くと、周旋状を持っているので、仕官を希望して来たということでさっそく柘植の屋敷に向かいますがあいにく多用で留守。後日、その周旋状を見た柘植は「はて、誰だったか・・・」。運悪く、仕官募集はつい先日締め切ったばかり。ところが幾日後、なんと仕官のチャンスが・・・
という表題「竹光始末」。

無役の藩士、馬場作十郎は、妻の小言にうんざりな日々。作十郎は(いちおう)一刀流の師範代という剣の実力なのですが妻は「それが一俵でも足しになるのですか」とにべもありません。ところがある日、家老に呼ばれ、藩で預かっていた他藩の家臣ふたりが逃げたので捕まえてくれと頼まれ・・・
という「恐妻の剣」。

繁盛している太物屋の見習い奉公、直太は、かつては賭場に出入りをするようなワルというか遊び人でしたが、今は足を洗って真面目に奉公しています。が、ここの太物屋の主人は妾宅に入りびたりで、後添えの本妻が可哀想に思います。そればかりか、その本妻の弟がたまに店に来ては売り上げを脅し取っていくので、可哀想に思った直太はその弟のところへ・・・
という「石を抱く」。

版木掘りの磯吉は初めて行った賭場で五十両と大儲けをしてしまいます。おそるおそる帰ると、あとから男がつけてきます。その男はおそらく賭場にいた男。どうにか逃げ切った磯吉ですが、数日後、仕事場の先輩に飲みに誘われるとその先輩が「お前、数日前に柳島の賭場に行ったか?」と・・・
という「冬の終りに」。

弥四郎は、同じ道場仲間の清野の家庭の問題を耳にしますが、本当なのかどうかわかりません。弥四郎と清野は江戸に出府となりますが、ある上役も江戸に行くと分かります。じつはその上役というのが清野の妻とただならぬ関係という噂で・・・
という「乱心」。

三崎甚平の家に、曾我平九郎という男が訪ねていたのですが、思い出せません。が「ああ、あの時の・・・」とようやく思い出し、平九郎は仕官を探しにやって来たとわかるのですが、甚平の家に寝泊まりをし、大飯喰らいで一部屋も占領されていい迷惑で・・・
という「遠方より来る」。

全作品の主人公、悲しいです。哀愁ただよってます。
なんていうんでしょうかね、藤沢周平さんの文章って「ぐいぐい引き込まれる」ようなものでもないし、ストーリー的にも地味っちゃ地味なんですけど、読み終わったら他の作品も読みたくなるというのは、やっぱり、その、「巧い」んでしょうね。
昔のヤクルトスワローズみたいな。
相手チームが恐れるような強さはないけど、負けない。
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藤沢周平 『橋ものがたり』

2019-11-19 | 日本人作家 は
別に約束したわけでもありませんが、週に一回は投稿
できたらいいなという「努力目標」は、まだたったの
三週目ではありますが、いちおう継続しております。

藤沢周平さんです。じつは(読まずぎらい)でした。
「暗い」という先入観といいますか、まあじっさいに
暗い話もありましたが、それでもその根底の「深い」
ところまでは、読んでみないとわからないものでして、
派手さはなくとも味わい深いことを知ってからは未読
の作品を見つけては手にしています。

タイトルどおり「橋」が舞台の短編集です。そういや
宇江佐真理さんの作品にも江戸のお堀を舞台にしたの
がありましたっけ。

幼なじみと五年ぶりに、小名木川にかかる萬年橋の上
で会うことになってる幸助。ところがお蝶は約束の時
間になっても来ず・・・という「約束」。
ひとり暮らしのおすみの家に突然「かくまって下さい」
と何者かから逃げてきた男。おすみは婚約中なのです
が・・・という「小ぬか雨」。
源作が両国橋で毎朝見かける、気になっていた女のひと
と、ひょんなことから話すこととなり、名前と勤め先を
教えてもらうのですが、行ってみるとそれはまったくの
嘘で・・・という「思い違い」。
夫に色女がいるという噂を耳にしたおもん。ある日、お
もんの育ての親が病気で余命いくばくもないと聞いたの
で駆けつけてみるとなぜかおもんは監禁され・・・とい
う「赤い夕日」。
父親は蒸発し、母親は飲み屋で働いて毎日酔って帰宅、
姉に(変な虫)がつかないように送り迎えをして自分の
遊ぶ時間を犠牲にしている朝吉が家に帰ると母が知らな
い男と・・・という「小さな橋で」。
吉兵衛が一代で大きくした小間物屋を息子に譲りますが
経営方針に納得できず、家に居づらくなって出かけると
橋の上に今にも身投げしそうな女性を助け、知り合いの
居酒屋の女将に預けますが、居酒屋に風体の悪い男らが
・・・という「氷雨降る」。
人妻の(お峯)と不倫して逃げて今は裏店にお峯とひっ
そりと暮らしている吉蔵。ここのところお峯の様子がお
かしいので隣に住む浪人の善左ェ門に見てもらうのです
が・・・という「殺すな」。
深川の呉服屋・美濃屋の娘おこうはもうすぐ祝言で浮か
れています。がじつはおこうは美濃屋の実の娘ではなく、
もらい子。そんなおこうのもとに「あんたのおとっつぁ
んの知り合いだ」と名乗る男が・・・という「まぼろし
の橋」。
博奕打ちの弥平は、賭場でのイカサマが親分にバレたの
で江戸から逃げて、そうして六年ぶりに江戸に戻ってき
た弥平は、亭主のせいで身売りしたおさよという女が気
になり・・・という「吹く風は秋」。
蒔絵師のまだ修行中の新蔵は、親方の家に通うために毎
朝大川の永代橋を渡るのですが、早朝に三日も同じ場所
に立ち続ける女を見かけますが、ある朝、その女が倒れ
ているのを見つけ介抱し、おさとという名前で飲み屋の
酌取りをしていると分かり・・・という「川霧」。

全体的に暗くはありません。ただ「ほっこり」はできま
せん。でもこの作品を読めて良かったなあと思えます。
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服部真澄 『ディール・メイカー』(再読)

2019-10-29 | 日本人作家 は
台風15号の傷も癒えないのに、今度もまた台風19号が
千葉県に、そして我が家にも被害をもたらしまして、
そして個人的なことではありますが環境がガラリと変
わりまして、落ち着いて本を読める状態ではなかった
のですが、ここんところ最近はどうにか時間ができて
きたので、ようやく投稿。

当ブログで開始直後くらいに投稿した服部真澄さんの
初期3作。しかしその感想というか書評は「面白かった」
という読書感想文が嫌いな中学生でももうちょいマシ
なこと書くだろというアレでして、そしてなにより、
内容をうろ覚えということで、再読してみることに。

「龍の契り」「鷲の驕り」ではフレデリック・フォー
サイスばりのアクションエンタテインメント感が満載
でしたが、この『ディール・メイカー』は、スリル感
やスピード感というよりは「じっくり読ませる」系と
いいますか。

アメリカの、いや世界じゅうで大人気のキャラクター
「クマのデニー」の生みの親の漫画家ジェイク・ハリス
が立ち上げた映画製作会社「ハリス・ブラザーズ」は
今やメガメディア企業。その大株主のスタン・ウィン
ストンは、商品部門担当副社長のシェリル・ハサウェイ
の運転する車で、治安のよろしくない託児所に向かい
ます。その託児所とハリス・ブラザーズは現在係争中。
その理由は、託児所の壁にクマのデニーが一面に描か
れているというもの。つまり「著作権侵害」。
大株主のスタンはなぜここに来たがったのか。そして
スタンの目には涙が・・・。

権利関係には厳しい姿勢方針のハリス・ブラザーズの
最高執行責任者ノックス・ブレイガーは、シェリルに
託児所の件を訪ねますが、なぜかスタンは何か言って
なかったかをしきりに知りたがります。

話は変わり、コンピューターソフト関連の超巨大企業
「マジコム」のトップ、ビル・ブロックは妊娠中の妻
に「君とこの子に『クマのデニー』をプレゼントする」
と言うではありませんか。つまり、企業買収。

この話はブレイガーの耳に入り、さっそく対抗策に。

そんな中、シェリルは、反健斗という日本人の男に、
ある「お願い」をします。このふたりはネットのオン
ラインチャットで知り合いになって、いつしか恋人
関係に。健斗は現在何もしていません。
健斗は、ここ最近のスタン・ウィンストンの動向を
探ります。すると、スタンは自分の子を探していた
ことがわかり、さらに遺言状の書き換えをしようと
していたこともわかります。

いよいよ「マジコム」は「ハリス・ブラザーズ」社
株の公開買い付けを公表します。ノックスら経営陣
はどうするのか。

「マジコム」の調査チームは、ハリス・ブラザーズ
にある「お宝」が眠っていることを突き止めます。
その「お宝」が企業買収ゲームの行方を左右するこ
とになるのか・・・

あれは何年前でしょうか、日本のIT企業がラジオ局
とテレビ局を買収しようとしたことでやれTOBだの
LBOだのホワイトナイトだのポイズンピルだのとい
った専門用語がワイドショーや巷の会話で賑やか
でしたね。

この作品を読んで思わずニヤリとしてしまったのが
「ビル・ブロックのコーク伝説」。まあ本筋とはな
んの関係も無いのですが、こういう小ネタの入れ方
なんかは上手いですよね。
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