晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

平岩弓枝 『江戸の娘』

2015-11-21 | 日本人作家 は
この作品は、歴史上の実在した人物の歴史小説あり、完全に創作の時代小説あり、の短編集です。
表題作「江戸の娘」は、「御宿かわせみ」のベースになったとされる作品で、人物が同じというわけではありませんが、ああここからああやって発展させていったんだと思うと興味深かったです。
あと「狂歌師」という作品があるんですが、こちらも「橋の上の霜」のベースとなっております。

「狂歌師」は、江戸時代に流行った狂歌(五七五七七の短歌形式で風刺やユーモア的)のニュースター、曙夢彦(あけぼのゆめひこ)と、第一人者と自負する楠木白根(くすのきしらね)の話。夢彦は料亭の次男坊で、「全盛の 君あればこそ このさとは 花もよし原 月もよし原」という一首で一躍有名人になります。これに面白くないのが夢彦の先輩である白根。白根は貧乏御家人ではありますがれっきとした武士。ですがこの「俺は武士」で町人を見下すという態度が最近どうにも鼻につき浮いた存在に。
白根が編纂する狂歌集が出版されることになるのですが、そこには夢彦の作品は外されていました。すると夢彦側も負けじと別の狂歌集を出すことに・・・

「絵島の恋」は、江戸中期にあった事件を題材にしております。史実というか伝えられている話では、大奥年寄の絵島(実際には江島だったというのが有力説)が、前将軍の墓参りに出かけ、その際に当時人気者だった役者、生島新五郎の歌舞伎を観に行って、そのあとに絵島は宴会に出て、江戸城の門限に間に合わなくて、これが大奥の風紀の乱れと評判になり、1000人以上の関係者が処罰されました。ここでは、将軍以外に大奥に入れる男性、御側用人、間部詮房がキーマンとなって・・・

「日野富子」は、足利八代将軍義政の奥さんで、応仁の乱の元凶ともいわれている日野富子の話。日野家は名門の家系で、そこに生まれた富子は絶世の美女の誉れ高く、富子の兄は将軍義政と結婚させようと画策します。この時代は幕府がすでに政治として機能しておらず、有力武士の細川家と山名家の対立もあり、ところが義政は我関せず・・・

「鬼盗夜はなし」は、これは有名な話で平安時代、京の都の一条橋で渡辺綱が鬼の腕を斬り、後日鬼が腕を取り返しに来る、という話。ここでは、鬼サイド、茨木童子にスポットを当てています。ある老婆が、馬上の侍、渡辺綱に「息子の仇」と叫びます。
この老婆は、かつて貴族の書生で、ある不正に加担して殺された青年、茨木の母なのですが・・・

「出島阿蘭陀屋敷」は、長崎の出島の遊女きぬえと使用人の話。きぬえはオランダ人相手の遊女。ある日、阿蘭陀屋敷の主人から、使用人で黒人のハンフウキに三味線を教えてやってくれと頼まれます。もともと音楽の才能があるハンフウキはめきめき上達し、きぬえもハンフウキに好意を持ちますが、ある日、きぬえの裸を覗いたとのことでハンフウキはお仕置き、三味線の稽古は終了。それからオランダ人が船で旅に出ているとき、出島から黒人が脱走したと・・・

「奏者斬り」は、松江藩当主、出羽守治郷こと「不昧公」の話。不昧公は、平和な江戸時代にあって、藩士たちに実戦的な武芸の鍛錬を課していました。あるとき、松江に村井六斎という浪人が流れ着き、居心地が良いといって住み着き、茶道の腕があり、やがて料理屋をひらきます。藩内のとあることで六斎を呼ぼうとしましたが、留守。しかしいつまでたっても帰ってきません。そのうち、江戸から松江藩に謀反の疑いありとの知らせが・・・

「江戸の娘」は、「鶴伊勢屋」という料亭の娘、お鶴と、旗本の次男坊、章次郎との恋の話。
お鶴は、花見帰りの乗合船で、ふたりの若い男がいきなり脇差を持ち「金を出せ」と脅します。お鶴は犯人に近寄り、いきなり一人を川に投げ飛ばし、奪った脇差でもう一人の喉に突き立て、犯人はたまらず川に飛び込み逃げます。この話はたちまち評判となりますが、ある日、旗本家に奉公していたお鶴の伯母が体調を悪くして鶴伊勢屋の別宅で療養することになり、伯母を見舞いに来た旗本の次男、章次郎はお鶴に先の船上での武勇伝について「女のくせに・・・」と嘲笑します。お鶴は腹を立て章次郎を嫌いますが、鶴伊勢屋では、たびたび見舞いに来る章次郎の評判は良く、お鶴の中でも章次郎の評価が変わってきたとき、章次郎の兄が急死し、旗本を継ぐことに。どうやら吉原のひいきの妓がいて、それと一緒になるのではないかと噂を聞いたお鶴は・・・

この「江戸の娘」が、のちに与力の次男坊、神林東吾と、鬼同心の娘で今は旅籠「かわせみ」の女将、るいになるわけですから、章次郎と東吾の設定はまあ近いとして、ヒロイン役がこうも違うのは面白いですね。

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宇江佐真理 『聞き屋与平』

2015-11-14 | 日本人作家 あ
場所は両国広小路、日中は芝居小屋やさまざまな出店が並び、江戸一番の盛り場と呼ばれていて、ところがこの広場は幕府が火よけ地のために作られたもので常設の建物は作れず、夜になると小屋や店はたたんで閑散とします。
広小路のとある商家の通用口から男が出てきて、机と腰掛けを置きます。男は与平。ここで夜ごと人の話を聞き、お代はお志で。いつしか人は与平を「聞き屋」と呼び、両国広小路界隈ではちょっとした名物となり・・・

というところからはじまります。

ここだけでは申し訳ないですが、まあつまらなさそうですよね。

じっさい、ほんとにただ話を聞くだけなのです。こんな酔狂なことに付き合う人なんているのかと思いきや、「王様の耳はロバの耳」でもあるように、秘密を抱えたり、どうしても誰かに話したいでも話せない、愚痴でも聞いてほしいが聞かせる相手がいないと理由はさまざまで、それなりに人は来るようです。

ところが、この与平の様子を窺う男が。男は岡っ引の長兵衛。長兵衛は与平の「ある疑惑」を追ってるのですが・・・

与平は、薬種屋「仁寿堂」の十代目主人。今は家督を息子に譲っています。ただし与平は「仁寿堂」の八代目の番頭の息子。
この八代目、為吉というのがダメな若旦那で、膨大な借金をし、商売が苦しくなってきて、番頭は懸命に店を守ってきたのですが、そんなときに火事になって店が燃えて、中にいた為吉は焼死します。為吉の女房は、番頭に店の借金の清算を頼んで、子供を連れて実家に戻ってしまいます。
そのとき番頭は「仁寿堂」の看板を譲ってもらうのです。このとき女房は「看板は譲るが今後一切、店とは関わらない」と言い残し、蝋燭問屋の後添えになります。
それから番頭は九代目として「仁寿堂」を再興し、他の薬種屋に手代に行ってた息子の与平を呼び戻したのです。

この一件、長兵衛の父で岡っ引だった長次が、あの火事で為吉は焼死する前に番頭と与平に殺されたのでは・・・?と疑い、長次は子の長兵衛に「仁寿堂」を託したのです。はたして真相は・・・

それとは別の厄介ごとが。なんと八代目の元女房が、「仁寿堂」を乗っ取られたと言い触らして回ってると・・・

はじめこそ「これ面白いのかな?」と、とっかかりにくかったのですが、徐々に惹かれていきました。



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朝井リョウ 『桐島、部活やめるってよ』

2015-11-08 | 日本人作家 あ
ようやく読みました。
まあストーリーというかこのタイトルにインパクトがあってやたらと「(人の名前)、○○ってよ」という言葉を目にしましたね。

まず、高校のバレー部キャプテン、桐島が突然部活をやめます。で、この桐島という人物、一切話に登場しません。「なんという斬新な構成!」というわけではなく、有吉佐和子「悪女について」なんかは、謎の死を遂げた女性富豪の生前を知るさまざまな証言をもとに人物像が浮かび上がってくるという話なのですが、これもはっきりとは登場しません。
一方『桐島、部活~』はといいますと、桐島の人物像は別にして、彼が部活をやめることになり、一見なんの関係もなさそうな同じ高校に通う生徒たちのちょっとした変化が描かれています。

この「なんの関係もなさそうな」生徒のチョイスが、いいですね。学校におけるヒエラルキーの上位、中位、下位っていうんですか。

もちろん「関係なさそうな」どころか、桐島がやめることによってモロに変化を受けることになる、バレー部の控えの生徒もいますけどね。

学校のヒエラルキーを描くと、ちょっとバランスを崩すと読んでて不愉快になりがちですけど、そこらへん実に微妙なバランスで、それなりに残酷に、それなりに瑞々しく描くというのは、並の小細工では書けないと思います。

つまり、これは作者が書いた当時若かったからという問題ではなく、ストーリーテリングの才能があるんでしょう。
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