晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

和田竜 『のぼうの城』

2015-12-24 | 日本人作家 ら・わ
我が家の本のラインナップで舞台設定が古い時代の小説といえば市井の人々が主役の時代小説がほとんどで、歴史上の実在の人物や出来事を描いた歴史小説はあまり多くありません。
別にキライとかそういうわけじゃないのですが。

さて『のぼうの城』ですが、戦国末期、秀吉がいよいよ全国制覇となる前、関東の北条氏と戦をするのですが、本城である小田原を攻めているあいだに、石田三成らは支城である、現在の埼玉県行田市にあった忍城を攻めます。

この地域を治めていた武将の成田氏は、北条氏と組んだり上杉氏と組んだりと、のらりくらりと生き延びてきたという過去があり、北条の城主からはあまり信用されておらず、小田原には成田家の当主、氏長らが援軍に向かい、忍城に残ったのは成田泰季とその息子、長親。

この長親、ふだんからボーっとして、武士らしいことはできずに、しょっちゅう城を出て農民といっしょに野良仕事をします。いや、それも正確には違って野良仕事もまともにできず、ここでもただボーっとしているだけ。
いつしかついたあだ名は「のぼう様」。いちおう城主である成田家の血筋なので「様」はついてますが、「のぼう」とは「でくのぼう」のこと。武士の末端階級である足軽はおろか農民ですら彼を「のぼう様」と呼びますが、普通に考えれば他人に「でくのぼう」とは悪口ですが、どうやら長親の場合はそうではなく「まったく、のぼう様ったら、これだからしょうがねえなあ」といった感じで、むしろ親しみといいますか、そういうニュアンス。

三成率いる二万とも三万ともいわれる軍勢は忍城を包囲、まともに戦っても勝てるわけはなく、実は成田家は秀吉サイドに内通していて、無条件降伏しますから助けてくださいと事前に言ってあるのです。忍城に残ったうちでこれに不満なのが坂東武者の誇りを持って戦おうとします。そんな中、城代(城主が留守中の責任者)の成田泰季が倒れ、臨時の城代になんと長親が。降伏のタイミングはいつにしようだの会議をしていると、長親は「三成軍と戦う」と言い出すではありませんか。

この石田三成という武将、有名な話があり、彼がまだ少年のころ、秀吉が茶を所望して、飲んでみるとお茶がぬるく、二杯目はちょっと熱かったのです。はじめの一杯は喉が渇いているだろうとぬるめにしたこの配慮が秀吉の気に入り、家臣となります。
ところが、頭脳明晰で戦の費用計算などは素晴らしいのですが、武士として戦での功績となるとからっきしダメで、他の家臣から軽く見られ、これにはもちろん本人も気にしていているところで、今回の忍城攻めではなにがなんでも成功させたいと意気込みますが・・・

成田氏側は秀吉に戦わないと内通していて、しかし三成は知らされておらず、一方、城代の長親は「やっぱり戦う」となり、関係者の目論見は大きく崩れます。さて、どうなるのか。

史実どおりに描いているのですからネタバレでもないんですけど、三成の作戦(全包囲攻め、水攻め籠城)はことごとく失敗し、いよいよ三成軍の総攻撃となるところ北条氏は降伏し、それにともない忍城も明け渡します。

圧倒的不利でありながら城代の長親は、はたしてどのような作戦で抵抗したのか・・・

最近の日本史では、それまで悪く書かれていた、例えば徳川綱吉、吉良上野介など、汚名返上の動きがあるようですが、歴史家がどんなにがんばっても石田三成の名誉回復はまだのようです。


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岡崎琢磨 『珈琲店タレーランの事件簿』

2015-12-12 | 日本人作家 あ
この作品は、第10回「このミステリーがすごい!」大賞の「隠し玉」として世に出たもので、大賞ではなかったけど埋もれてしまうのは惜しいので、改訂して出版しよう、というもの。

タイトルの「タレーラン」とは、世界史でフランス革命からナポレオン時代を生きた外交官であり政治家。で、このタレーランが残した言葉に「良いコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い」というのがあるそうで、これがこの物語に登場する喫茶店の店名になった、と。

京都に住む大学生のアオヤマは、恋人と喧嘩し、彼女を追いかける途中で、奥まった小路にある喫茶店を目にします。
とりあえず入ってみると、店名と店の雰囲気からすると気難しそうなお爺さんがやっていそうに想像したのですが「いらっしゃいませ」と若い女性。
ホットコーヒーを頼み、飲んでみると、衝撃が走ります。これぞまさに理想の味・・・!
そこで携帯が。喧嘩した彼女から。アオヤマは財布を落としたらしく、それを拾った彼女が「はやく追いかけてこい」と。
アオヤマは後で必ず払いますからと自分の連絡先を店員に渡し、店を出ます。

こんな始まり。
女性店員、切間美星は、謎解きが好きで、日常の些細な疑問を名探偵のように解決します。そして、喫茶店の奥に座っているのが、オーナーで美星の大叔父の藻川又次。

物語の序盤は、誰かが殺されたとか、なにかが盗まれたとかいう事件らしきことは起こらず、ただ日常のちょっとした出来事を解決する、といった、探偵「ごっこ」的な感じなのですが、少しずつ美星の過去のトラウマが明らかになってゆき、アオヤマの身に危険が・・・

個人的にコーヒーが好きで、自宅でドリップで淹れたり、エスプレッソも粉を買ってきて直火式で作ったりするので、珈琲の薀蓄がミステリーの要素を抜きにしても楽しめました。
あとはこの作品の舞台となっている京都にちょっと行ったつもりになれるので、それも楽しめましたね。

すでにシリーズで4巻まで出てるらしいので、早く読まなければ・・・
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宇江佐真理 『涙堂 琴女癸酉日記』

2015-12-05 | 日本人作家 あ
ちょっと前ですが家でぼーっとテレビのニュースを見てたら、宇江佐真理さん死去という文字を見て、驚きました。
「髪結い伊三次」シリーズも、その他作品も、まだ半分も読んでないので、まだ未読の作品をこれから心して読みます。

この主人公、お琴は、息子で絵師の賀太郎と、日本橋通油町に暮らしています。近所にはお琴の幼なじみで絵草紙問屋、藤倉屋の伝兵衛や、医者の清順がいて、なにかと話し相手になってもらっていますが、しかしどうにも町人との近所付き合いは時に鬱陶しく・・・

というのも、お琴は北町奉行所の同心、高岡鞘負の妻でした。長男の健之丞は父のあとを継ぎ同心見習いに、そして三人の娘はそれぞれ町方役人に嫁いでいます。五人の子のうち、末っ子の賀太郎だけが、父の仕事とは関係のない絵師に。鞘負は、泥酔し、どこかの浪人に斬られて殺されたというのです。

夫の突然の死にいつまでも気落ちしてもいられず、子たちは、これまでの生活をがらりと変える意味でも賀太郎といっしょに暮らすのがいいと・・・

若くして歌川派の人気絵師となった賀太郎。ようは忙しい賀太郎の「家事手伝い」なのでした。

そんな賀太郎は、ひょんなことから駕籠屋の女主人、子持ちで未亡人のお冴と恋仲になります。よりによって年上の、しかも子持ちで未亡人と、とお琴はがっかり。

さて、夫の死に不審を抱いているのは、お琴だけではなく、五人の子も同じで、彼らは父の死の謎を解こうとしますが、調べていくうちに、町方役人の汚職問題に父が関係しているらしく、ならばどこぞの浪人に殺されたのではなく、謹厳実直な父が汚職を知ったので、口封じのために・・・?
そうなると、息子や娘たちの夫も、調べていくうちに危険が・・・

鞘負の手下だった元岡っ引き、今は汁粉屋の伊十は、鞘負の死後すぐに十手を返上しました。あれだけ忠実だった伊十ももしかして・・・?

市井の暮らし、それから同心の謎の死を追うミステリー、1冊で2倍楽しめます。

ご冥福をお祈り申し上げます。

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