まだ確定ではありませんが、おそらく来年には転職して、その際に引っ越すかもしれません。今から引っ越す予定の市の物件情報を見てどこがいいかなーなんてけっこう楽しんでます。ただ問題がありまして、家にある本をどうしようかなと考えてます。いっそのこと全部売っちゃおうかと思ったのですが、今まで読んだ本は自分の人生の一部、血と肉、といってはオーバーですが、少なくとも人生に楽しみと彩りを与えてくれたことは間違いないので、今のところは引っ越し先に持って行く予定でいます。もっとも今より歳を取ってヨボヨボになっちゃったらさすがに売ろうかと。
以上、歳は取りたくないですねえ。
さて、葉室麟さん。タイトルの「人斬り」とは幕末の不穏な情勢の中で活躍?した名うてのヒットマン、ヒットマンは銃ですが、幕末なら刀ですね。
物語は、幕末におきた大事件「桜田門外の変」から始まります。井伊直弼を殺害した浪士のうち何人かは細川越中守の屋敷に向かいます。そこに出てきたのは若い茶坊主で、彼らから井伊大老を斬ってきたと告げると「あなたがたはまことの義士です」と褒め称えます。傷の手当や食事、酒までも用意してくれて浪士たちは感動し、名を訊くと「川上彦斎」と名乗ります。
この彦斎、天保年間に肥後国、熊本藩に生まれ、十歳で養子に出され、茶坊主になります。剣術は道場で習わず、独学で習得します。先述の桜田門外の変より十年ほど前、彦斎は熊本である男と出会います。長州藩士で九州を遊学しているという吉田寅次郎。藩の兵学師範の家に行くと、話題はアヘン戦争に。欧米列強に好き勝手にされてしまった清国のように日本もされてしまうのでは、そうなる前に備えがなければ、といった熱いトークに彦斎は影響されます。吉田寅次郎とは、のちの吉田松陰。日本史でおなじみ「安政の大獄」で吉田松陰は危険思想の持ち主とされて江戸で獄中死します。
彦斎は京都へ。このときに他の「人斬り」で有名な岡田以蔵、中村半次郎、田中新兵衛らと遭遇します。そして、日本史でおなじみのメンバーと会ったりしてます。当時のゴタゴタに何かしら関わっていて、長州へ行ったりと大忙し。
なんだかんだいろいろあって彦斎は明治になるまで生き残って最終的には処刑されるのですが、新しい時代とは彦斎の求めていたものとは真逆のもので、蓋を開けてみたら政治体制から軍隊まで何から何まで外国をお手本にして、天皇が国家のトップとはいえ「まるで薩長幕府やないか〜い!」とシャンパングラスで乾杯したくなっちゃうってなもんです。
自分が斬った佐久間象山の理想とした国家になってしまうのか、高杉晋作の言っていた「あなたの望むような将来は来ないよ」なのか・・・
この時代のトレンドだった「尊王攘夷」とは、天皇を尊ぶ尊王論と外国を斥けようとする攘夷論が合体した思想で、もう徳川幕府も限界だったので新しい政治体制にならないと海の向こうの大陸のように大変なことになっちゃうよ、といったもので、賛成側も反対側も武士ならではの解決方法、つまり相手を斬って殺害するという血なまぐさいナントカの変だとかナントカ事件だとかがあちこちで起こります。さすがに市中で銃をパンパン撃つわけにはいかないので、そうなってきますと「人斬り」が重宝されるわけですね。
しかし不思議なもので、葉室麟さんが書くと血生臭さがあまりないといいますか、ああこれが直木賞の某選考委員の「文章が清廉」ってことか・・・