晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

海堂尊 『チーム・バチスタの栄光』

2009-04-27 | 日本人作家 か
この作品は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して、
その後映画化やドラマ化などして、続編も話題になり、なん
だか読んでない〈観てない)自分が取り残されてしまった感
があったのですが、ようやく意を決して(そこまでじゃないけど)
購入。

患者の「愚痴」を聞くのがメインの医師、田口は、ある日病院長
に呼ばれて、院内の心臓病手術チーム「チームバチスタ」で、ここ
数例で連続して成功していないことに何かしらあるのではないか、
それを調査してほしいと依頼されます。

田口はチームの医師、補助役医師、看護士、麻酔医、技師に質問
するも、手がかりは掴めず。そして、いよいよ田口立ち合いのもと、
手術が行われ、患者は蘇生せず、死亡。田口はいよいよ自分の手に
負えないと感じます。

そんな中、厚生労働省から白鳥という男が派遣されてくるのですが
白鳥はやりたい放題、傍若無人で摩擦や軋轢を巻き起こします。
はたして、連続術式失敗は、ただの事故か、過失か。過失だとすれ
ば、殺人なのか・・・

やがて、ある人物が自分が犯人であると名乗りでるのですが、直接の
死因はこの人物ではなかったのです。

真犯人は、なんだか拍子抜けというか、ああ、こいつか…という感じ
でした。
ミステリーの定石を外そうとするも、結局は定石に着地してしまった
とでもいいましょうか。
ただ、密室殺人と社会性をミックスしたミステリーという着眼点は
おもしろく、決して過去の作品の焼き直しではない新しい風である
と思いました。
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浅田次郎 『蒼穹の昴』

2009-04-24 | 日本人作家 あ
正直、読む前は、浅田次郎お得意の、日常にファンタジーやドラマチックなイベントが
盛り込まれて、最後にウルッとくるような系統なのかと思っていたのですが、中国の
後期清朝時代の小説ということで、しかもけっこうな長編。

べつに歴史時代小説はキライではないのですが、登場人物などの中国語読みと日本
語読みがごっちゃになって書かれているので、それが気になるから読み進むのに時間
がかかるのですが、そんな心配は杞憂でして、読みはじめた途端に物語にハマってし
まいました。

中国、清朝時代の地方豪商家の次男梁文秀は、放蕩生活ながらも、日本でいうところ
のキャリア官僚になる出世コースに昇進。
貧しい家に生まれ、牛や馬の糞拾いで生計をたてている、李春児の亡き兄は文秀と義
兄弟の契りを交わしており、実の弟のように世話をします。
町に住む占い老婆に、春児は将来、西大后の宝を手にするといわれて、その気になった
春児は、進士の試験を受けに北京へ行く文秀に、いっしょに連れていってもらいます。

文秀は進士にトップの成績で合格します。春児は出世の方法として、宦官になる決意を
します。

春児は、現在はうらぶれた生活をしている、もと宮廷に勤めていた人たちに芸や礼儀作法
のほどこしを受け、宦官として廷内で働きはじめ、やがて西大后の目にとまり、側近となり
ます。
一方、文秀もキャリア官僚の出世コースをひた走ります。

時代は、欧米列強が中国を植民地にしようと虎視眈々と狙っている状態で、そこに東の
小国日本も加わり、国内政治や情勢は紛糾。
これから清国が進むべき道は、西大后の院政に終止符を告げて開国政策をとるか、旧来
の帝政維持か。

文秀は開国派、春児は西大后側に付き、ふたりの運命は天子の運命の通りになるのか。
これに、この時代にあった史実、または作者独自と思われる解釈がふんだんに盛り込ま
れて、じつに興味深い。ぐいぐい惹かれていく。
高校時代に世界史でこの時代を勉強したとき、これを読んでいればすんなり頭に入ってた
だろうなあ。

李鴻章という文士、政治家で軍人が出てくるのですが、下関条約、香港割譲の全権などと
いったこの時代を語るうえでのキーバーソンで、中国国内では「売国奴」呼ばわりされていま
すが、彼と西大后がいなかったら大きく歴史は変わっていた、いやそれどころかのちの中華
人民共和国は無かったのではないでしょうか。

物語の後半、クーデターに失敗した元官僚が命からがら脱走して逃避行を続けているとこ
ろに、ひとりの少年と出会うのですが、その少年は、勉強してえらくなりたい、えらくなったら、
今のような人民に不公平を強いるのではなく、みんなが公平に幸せになれる社会を作りたい
と理想を掲げるのですが、その少年こそ毛沢東。

「ベルサイユのばら」で、わずかワンシーンですが、青年将校時代のナポレオンが登場し、
オスカルと会話を交わすのですが、なんかそれを思い出しちゃいました。

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松岡圭祐 『千里眼』

2009-04-22 | 日本人作家 ま
前から書店の棚にこのシリーズが並んでいて、気にはなってた
のですが、どれから読んだらいいのかわからず、とりあえずサブ
タイトルのついてないやつから読もうと購入。
しかし、これはあくまで「千里眼」シリーズの第一弾であって、
じつは「睡眠」という作品の続編であると裏表紙に説明が。
まあいいや、後日改めて。

都内の病院に勤務する、元自衛隊パイロットという経歴の臨床
心理士の岬美由紀は、その自衛隊のかつての上司の要請で、
米軍横須賀基地に出向き、不審者によって書き換えられたミサ
イルのデータを戻します。

この不審者と、全国各地で多発する爆破や放火事件は、日本を
乗っ取ろうと声明を出している新興宗教の仕業であると警察は
踏んでいます。
そんな中、千葉県の木更津市内から女の子がタクシーに乗り、
富津の東京湾観音に向かいます。その女の子の手には、新興
宗教の教本が・・・
さらに、その女の子は岬がカウンセリングをしていた・・・

ここから、国家対宗教テロといったアクション、岬が自衛隊を辞め
て臨床心理士になった経緯などが描かれており、息つく暇のない
ストーリー展開。気がついたら読み終わっていたという感じ。

文中に登場する「洗脳」「マインドコントロール」という言葉は、本業
が臨床心理士である作者によると、完全に他人の意識を他人が
支配することはできないそうな。
しかし、これまた作品中で、恐ろしい手段で他人を支配する方法
が出てくるのですが、むしろそれをやったほうがいいんじゃないの
という人もいますよね。車からタバコの吸い殻投げ捨てるヤツとかに。
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劇団ひとり 『陰日向に咲く』

2009-04-20 | 日本人作家 か
いまさら、とか、ようやく、とか、とにかく世間でいわゆるブーム
状態にある時には、生来の天邪鬼で読まないのですが、あと、
本屋で流行モノを買うときに「ああ、この客ミーハーだわね」な
んて思われたくないという、これまた生来の小心者もあって、
まあ、そんなこんなで読みました。

作品は、オムニバス形式で描かれていて、ホームレス、売れない
アイドル、そのアイドルの狂信的ファン、コメディアン等々、それぞれ
てんでばらばらですが、どこかしらで接点があり、それが最終章で
ああ、そういう関係だったのかと、構成の巧みさに驚きました。

もっとも、作者の本業であるネタでも構成の上手さは分かります。
それを考えると、この作品は、ひょっとしたら作者はこういうネタを
舞台でやりたかったのではないのか、と。
これを一人芝居で、けっこう長時間演じるとなると、演者の技量も
かなりの高レベルが必要となってきますが、それよりも、観客にも
高い理解度が要求されます。

この作品を立体化するには、映画というかたちをとるよりも、作者
自身が「芸人、劇団ひとり」として一人芝居のオムニバス形式で
複数役を演じたほうが、見ごたえのあるものになったのではない
かと思うのです。
ゴングショー的なお笑い番組に慣れてしまってる客層からは支持
されないでしょうけど。
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白川道 『海は涸いていた』

2009-04-16 | 日本人作家 さ
面白い作品には、はやく結末まで読みたくてスイスイ読み進めて
いくタイプのものと、できるだけこの作品世界に浸っていたいと
思わせるものがあり、著者のヒット作『天国への階段』もそうで
したが、後者タイプとして楽しめました。

養護施設に育ち、事件を起こして服役、その後親友の布田とともに
上京した伊勢は、暴力団の資金をバックに会社経営をしています。

伊勢は少年時代、両親の離婚後、母についていき、母は船医と再婚
します。しかし継父は航海途中で病死、その後を追うように母も火事
で死に、伊勢は神戸の養護施設へ、父親違いの妹は養子縁組で東
京へ行きます。
母の死の原因は家の火事だったのですが、実は別れた元夫に、再婚
した新しい夫の実家の土地を騙されて奪われ、それを悲観した自殺
だったことを伊勢は知り、10年前、実父を銃で撃ち殺したのです。

それから10年が過ぎ、渋谷の公園でフリーのジャーナリストが銃
殺されているのが発見され、その銃は10年前、多摩川で金融業の
男が殺された銃と同じものであったことが分かります。
その金融業の男とは、10年前伊勢が撃ち殺した実父。
拳銃は、伊勢と同じ養護施設で育った仲間に預けて海に捨てるよう
に頼んだのですが、その仲間は捨てていなかったのです。

フリージャーナリストはどんな情報を掴んでいたのか。なぜ殺され
たのか・・・

伊勢のうしろ暗い過去が描かれており、また、闇の世界のごたごた
も物語に絡んできます。

ただ、フリージャーナリストが掴んだある女性の生い立ちは、伊勢
と密接な関係があるのですが、伊勢と女性との接触は文中では出て
きません。ちょっとだけ再会させてもよかったかな、と思いましたね。
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加賀乙彦 『海霧』

2009-04-14 | 日本人作家 か
加賀乙彦の小説は、『宣告』を読んで、これが2作品目になる
のですが、両作品とも、読み終わったあとにハッピーになれる
といったものではありません。

いや、つまらないというわけではなく、読みにくいわけでもあ
りません。ただ、何というか、晴れのような爽快でも、雨嵐の
ような辛苦でもなく、ずーっと曇り。そんな感じ。
そう、まさにタイトル『海霧』なんです。

東京で心理療法士として働いていた女は、恋と仕事に破れて、
北海道の東部、小さな町外れにある精神病院に転職します。
その病院は、医師や職員は白衣や制服を着ず、患者は閉鎖さ
れた病室に隔離するのではなく、開放的に、しかもなるべく
自分のことは自分でやらせるという方針で、そこの院長は、
冒険者でギャンブラーという変わり者。
そこで、患者の家族の男との出会いがあり、仕事も充実して
きて、女はふたたび人生を前向きに考えるのです。

道東と文中にはあるだけで、どことは説明してありませんが、
小さな町、汽水湖や湿原、そして住民や病院職員で刺激に飢え
た人は電車で釧路まで行き映画を・・・、とあるので、おそら
く、厚岸ではないかと。

『海霧』とは、地元の人は「ジリ」と呼び、文字通り海から陸
地にせまってくる霧で、辺り一面乳白色に包まれ、冷気を帯び、
これにより道東は夏でも朝にストーブがほしくなるほどで、こ
の地域は農業に適さないとのこと。
住民もどことなくこの海霧に影響されてか、明るく希望に満ち
溢れている人は見かけられません。陰気。ネガティブ。
地場産業は水産業ということになりますが、あまり豊かではな
く、漁場の養殖を巡って争い、あまり穏やかではありません。

こんな雄大な大自然に抱かれていても、やはり都会同様、人間
関係のごたごたは付いてまわります。これらに辟易としながら
も、それでも前を向いて生きてゆかねばならない。
ちょうど今の日本、いや世界じゅうがこの「海霧」に包まれて
いる状態のような気がしましたね。
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フレデリック・フォーサイス 『騙し屋』『売国奴の持参金』

2009-04-09 | 海外作家 ハ
一般的にハードボイルドといえば、タフな男が主人公で、女を酔わす
クサい台詞、というのがお決まり。その代表はレイモンド・チャンド
ラーの小説。これに出てくる探偵フィリップ・マーローの

「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」

という、歯の浮きそうな台詞がすべてを物語っていますね。

それはそうと、フレデリック・フォーサイスの作品も、かなりタフな
男が主人公なのですが、ではハードボイルド作家という括りをされて
いるかといえばそうでもなく、クサい台詞も多くありません。

フォーサイスの小説で、特筆すべきは、欧米各国の情報組織の描写。
旧ソ連のKGB、アメリカのCIA、イギリスのSISなど、情報機
関の細かな特徴、それぞれの関係性などがよく分かります。

イギリスの情報機関SISのサム・マクレディは、各国の諜報部では
知らないものがいない、優秀なエージェント。しかし20世紀の終わ
りに、東欧諸国の共産主義体制の崩壊ならびにソ連邦の解体が、それ
まで自由陣営で東側の情報を握っていた機関に、規模縮小という波と
なっておとずれます。先陣を切ってその槍玉に挙げられたのが、マク
レディ本人。
かつて、死と隣り合わせの綱渡りで数々の東側の情報をイギリスにも
たらした栄光を尻目に、彼に引退勧告同然の、指導教官というポスト
に就けという上層部からのお達し。しかし、その裏には、局内にかな
りの信望者と影響力を持つマクレディをスケープゴートにし、その後
局内の縮小をスムーズに執り行いたいという思惑があり、当然これに
反発(時代の趨勢には抗わず、一応のかたちだけの反発)したマクレ
ディと彼が部長を務める部内職員が、聴聞会の開催を要求します。

この聴聞会で、かつてマクレディが母国イギリスのために身体を張り
貢献してきたという武勇伝が語られてゆきます。
これが「マクレディシリーズ」4部作であり、その1作目が『騙し屋』
2作目が『売国奴の持参金』。
『騙し屋』では、ソ連側の情報を教えてくれる軍上層部が、大きな情報
と引き換えに、アメリカに亡命という話を持ちかけてきます。
マクレディは、代理に西ドイツ人を使い、東ドイツに入国させて、東ド
イツ国内で書類の受け渡しをしようとしますが、失敗。
マクレディは東ドイツに侵入し、行方不明となった西ドイツ人と書類を
探しに行くのですが・・・

『売国奴の持参金』は、ソ連軍とイギリス軍の合同演習の最終日、ソ連
軍の大佐がイギリス駐在CIA職員に連絡をして、亡命を要求。
ソ連の重要情報を手土産に(これを「花嫁の持参金」と呼ぶ)無事亡命
を果たしアメリカ本土に渡るのですが、これに疑問を抱いたマクレディ
は、大佐は逆スパイなのではないかと思う・・・

「冷戦」だの、西側東側だの、こういった対立構図が事実上無くなり、
それによりスパイという存在意義も明確ではなくなってしまうのですが、
21世紀に入っても、相変わらずかつての東側の大国であったロシアは
侮れない、キナ臭い存在ではありますね。
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瀬名秀明  『パラサイト・イヴ』

2009-04-06 | 日本人作家 さ
たとえ、専門用語のオンパレードで理解に戸惑うにしても、前後の文脈から、こういう
ものであろうという推測をつけて読み進めていく、というのは、なんだか英語のテスト
の長文問題を解くのに似ています。

本作『パラサイト・イヴ』でも、大学の薬学部での実験の様子であったり、手術の描写
であったり、正直いって全部理解するのは、文系脳であるという言い訳を棚に上げたと
しても、かなり困難だなあ、と思うのです。

ミトコンドリアという細胞内の小器官は、細胞に寄生しながら生きながらえてきたので
すが、生命誕生から生物が進化を遂げて、長い間、細胞とミトコンドリアの関係は宿主
と従者という立場であったものが、その関係性が「あるきっかけ」で逆転してしまった
としたら・・・

生物学の基礎知識がある程度〈高校で習うくらい)ないと、これを読み進めていくのは、
けっこう苦痛じゃないのかなと思うのですが、それでも、特筆すべきは、迫りくる臨場感。
視覚的効果も無く、よく文字だけでこれを味わわせることができるのか、頭の中で立体
化するという作業を読者に行わせるのは、容易ではないでしょう。

するとここで、ふた通りの楽しみ方ができるんだ、ということに気付きました。それは、
まず薬学、生理学の知識がある人は文中に出てくる実験室や手術の描写が手にとるよう
に理解でき、その臨場感が深く味わえるということ。
もうひとつに、基礎知識がなくても、その「分からなさ」が、より恐怖を煽る、という
こと。

こういったホラーの類は、へたに誰が読んでも分かりやすくしてしまうと、安っぽさ感
の漂うB級C級コメディホラーな内容になりがちで、隠し味も工夫も無い、イマイチな
料理みたいになってしまうことがあるので、分からないなら分からないなりにじゅうぶ
ん楽しめたのは、良作の証。
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鈴木光司 『ループ』『バースデイ』

2009-04-05 | 日本人作家 さ
とりあえず、『リング』シリーズの完結、ということで、
『ループ』は第3作目、そして『バースデイ』に関しては
アナザーストーリーというか、最近の流行り言葉でいうと
ころのスピンオフ作品。

第1作『リング』、第2作『らせん』は、ホラー作品として
ものすごくグレードの高い作品となっていたのですが、この
『ループ』にくると、話のメインはちょっと変わってきます。

「転移性ヒトガンウィルス」は、その根絶治療も特効薬もな
いまま、日本とアメリカに多く発症し、そして大人数がこの
病気によって命を落としていく中、医学部在学中のある青年
が、その原因を突き止めるべく、アメリカに向かうのですが・・・

うーん、なんというか、「ああ、そっちいっちゃったか」と
いう表現が適当と申しましょうか、さまざまな謎、その原因
が、神だとか超常現象で、もはや人間の手には負えない領域
まで来てしまって、結局ホラーを突き詰めていくと、最終的
にはSFチック、あるいは哲学方向に流れ着いてしまうのか
なあと、ちょっと残念に思えて仕方ありません。

なんだか、無理に解決させなくてもよかったんじゃないか、
とも思えます。

謎は謎のままで。
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ジェフリー・アーチャー 『メディア買収の野望』

2009-04-03 | 海外作家 ア
ジェフリー・アーチャーの小説には、貧しい不幸な境遇から、
努力と才能で成り上がる人と勝ち組エリートとの、それぞれの
人生と両者の交錯を描く長大な物語、という作品がいくつかあ
り、『ケインとアベル』や『チェルシーテラスへの道』などが
まさにそうなのですが、本作『メディア買収の野望』も、この
形式で描かれております。

チェコの山村のユダヤ人一家に生まれたルブジ・ホッホは幼い
頃から商売の才能の片鱗を見せ、やがてナチスに捕らえられて、
収容所から脱走し、ヨーロッパを南下して港の船に潜り込み、
着いた先はイギリスでした。そこでいろんな経緯があり、イギ
リスの軍隊に入隊します。このときルブジは、名前をリチャー
ド・アームストロングと改名、以後この名前で生きていきます。
軍隊の中でも目から鼻に抜ける活躍で、どんどん出世し、第2
次大戦終了後、ベルリン統治下におけるイギリス軍の広報新聞
の編集を任されることになります。

オーストラリアの新聞社オーナーの息子キース・タウンゼンド
は、イギリスに渡りオックスフォード大学卒業後、父の死後、
新聞社を継ぎ、やがてオーストラリアじゅうの新聞社を買収す
るべく奔走し、その勢いは海のむこう、アメリカやイギリスに
目を向けて、グループ企業として拡大していくのです。

リチャード・アームストロングもベルリン生活からイギリスに
移り、イギリス国内の新聞社を買収しまくり、こちらも一大メ
ディアグループとして拡大の一途。

リチャードとキースの買収の攻防戦、ときには双方犯罪まがい
の手法で乗っ取りを画策するのですが、意地と権力欲のぶつか
り合い、せめぎ合いがとても面白いです。

これは、いわばメディア買収戦争という作品なのですが、実は
マクスウェルとマードックという実在のメディア王をヒントに
描かれています。
単なるサクセスストーリーで終わらないところがジェフリー・
アーチャー作品の好きなところでありますが、ただ、この作品
は、キースとリチャードの対決構図のきっかけ、というのが、
あまり描けていないかな、という印象を持ちました。
ジェフリー・アーチャー作品は、ストーリー展開や伏線の見事
さにいつも感嘆するのですが、ちょっとこの一片が気になった
かな。
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