この本を読む前から、タイトルは知っていて、豪放磊落といえば
言葉はいいほうで、家庭を顧みず、それこそ、飲み代に子どもの
給食費を箪笥の引き出しから持っていこうとし、それを止める妻
を「うるせえ」と足蹴に・・・なんてのを想像していたのですが、
まあ、家庭を顧みず、という部分は当たっていて、愛人を囲い、
めったに家には帰らないのですが、それでも本妻と5人の子ども
たちのいる家には生活費は入れていて、奥さんも怒りを通り越して
、家出騒ぎなどありつつも、現状を受け入れているといった具合。
文中では「桂一雄」という名前で登場し、形式では檀一雄の私小説
ですが、それでも自伝、半生記の印象はあまり感じられず、物語と
して読ませる。これがテクニックなのか、そこまで分析しながら読んだ
わけではないので分かりませんが、とにかく、主人公の「私」は自分
ではありながらも、創り上げた桂一雄、客観的に、文中で動きまわら
せる、そういったように思うのです。
妻と死別、ひとり息子を連れて、夫を戦争で失した女性と再婚。
はじめは福岡で暮らすのですが、思いついたように「東京へ行く」
といって、石神井の一戸建てを購入。一雄が福岡ですこしだけ
関わっていた劇団所属の女優、恵子も東京へ。
はじめはホテルに囲い、一雄もそのホテルを仕事場として滞在、
それから都内をあちこち転々とアパートを借ります。
一方、「実家」の、本妻と5人の子どもがいる石神井へは、よほど
のことか、ふいと気が向いたときに帰宅。家族に対する愛情がない
わけではなく、とくに、脳性まひの後遺症で重度の障害が残ってし
まった次郎との交流は、ああ、一雄は優しいんだなあ、と思わせる、
父親の愛情をかけます。
なにかにつけて、このような歪んだ生活を一雄は、ああだこうだと
肯定します。そして、完全に崩壊せずにいられたのは、昭和30年
代に月額50万から100万ほどの給料を稼ぎ、また、出版社や
新聞社から桂一雄という名前を信用してもらい前借りをする・・・
何につけ、先立つものは金とはいいますが、そちらには不自由して
いなかったことが、綱渡りで浮き草の人生を保っていられたので
しょう。
たびたび登場する、友人だった太宰治や坂口安吾。毎夜飲み歩き、
太宰や安吾は内へ内へと入ってゆくのに対し、一雄はむしろその
疲労をもエネルギーに変えて、また飲み歩く。
かなりタフであったようで、あとがき解説の水上勉も「ついてゆけな
かった」と驚くほどの体力だというエピソードがあります。
強烈な小説です。読書という趣味を持ち、こういう本と出会えて
良かったと思わせてくれる一冊です。
言葉はいいほうで、家庭を顧みず、それこそ、飲み代に子どもの
給食費を箪笥の引き出しから持っていこうとし、それを止める妻
を「うるせえ」と足蹴に・・・なんてのを想像していたのですが、
まあ、家庭を顧みず、という部分は当たっていて、愛人を囲い、
めったに家には帰らないのですが、それでも本妻と5人の子ども
たちのいる家には生活費は入れていて、奥さんも怒りを通り越して
、家出騒ぎなどありつつも、現状を受け入れているといった具合。
文中では「桂一雄」という名前で登場し、形式では檀一雄の私小説
ですが、それでも自伝、半生記の印象はあまり感じられず、物語と
して読ませる。これがテクニックなのか、そこまで分析しながら読んだ
わけではないので分かりませんが、とにかく、主人公の「私」は自分
ではありながらも、創り上げた桂一雄、客観的に、文中で動きまわら
せる、そういったように思うのです。
妻と死別、ひとり息子を連れて、夫を戦争で失した女性と再婚。
はじめは福岡で暮らすのですが、思いついたように「東京へ行く」
といって、石神井の一戸建てを購入。一雄が福岡ですこしだけ
関わっていた劇団所属の女優、恵子も東京へ。
はじめはホテルに囲い、一雄もそのホテルを仕事場として滞在、
それから都内をあちこち転々とアパートを借ります。
一方、「実家」の、本妻と5人の子どもがいる石神井へは、よほど
のことか、ふいと気が向いたときに帰宅。家族に対する愛情がない
わけではなく、とくに、脳性まひの後遺症で重度の障害が残ってし
まった次郎との交流は、ああ、一雄は優しいんだなあ、と思わせる、
父親の愛情をかけます。
なにかにつけて、このような歪んだ生活を一雄は、ああだこうだと
肯定します。そして、完全に崩壊せずにいられたのは、昭和30年
代に月額50万から100万ほどの給料を稼ぎ、また、出版社や
新聞社から桂一雄という名前を信用してもらい前借りをする・・・
何につけ、先立つものは金とはいいますが、そちらには不自由して
いなかったことが、綱渡りで浮き草の人生を保っていられたので
しょう。
たびたび登場する、友人だった太宰治や坂口安吾。毎夜飲み歩き、
太宰や安吾は内へ内へと入ってゆくのに対し、一雄はむしろその
疲労をもエネルギーに変えて、また飲み歩く。
かなりタフであったようで、あとがき解説の水上勉も「ついてゆけな
かった」と驚くほどの体力だというエピソードがあります。
強烈な小説です。読書という趣味を持ち、こういう本と出会えて
良かったと思わせてくれる一冊です。