晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『食卓の情景』

2020-06-23 | 日本人作家 あ
初めて読みました、池波さんの時代小説以外の作品。

池波さんの小説では、登場人物がなにかを食べているシーンというのがじつに多く、文中にもありますが、映画好きでもある池波さん、ちゃんとした映画は食事シーンをおろそかにしない(印象深いシーンになっている)そうで、さりげなく印象深いというのが大事なんでしょうね。
映像作品の食事で印象に残ってるといえば、例えば「おしん」の「大根めし」、「真珠夫人」の「たわしコロッケ」(食べ物ではありませんが)といった、インパクトが大きいものが浮かんでしまいます。

家での食事(献立が具体的に書かれています)、外食したとき、旅行にでかけたとき、などなどの料理、それにまつわるエピソードとともに紹介されていて、中には「(鬼平)や(剣客)の原稿を書いていて・・・」といった描写や、ある料理をこんな作品やあんな作品で登場させたといったあたりは、ファンとしては、ちょいと、その、思わずニヤリとしてしまいます。

池波さんは東京の旧下谷区(現在の台東区)の生まれで、少年時代の祭りの出店の話など、時代こそ違いますが、なんとなく「うんうん、わかる」と思ってしまいます。

文庫の見開きのところにあるプロフィールを見ると、時代的に太平洋戦争に徴兵されて行っているはずだよなあ、と思っていたのですが、そのエピソードもありました。

戦前の生まれなので(しょうがない)といってしまえばそれまでなんでしょうが、このエッセイを読み終わって感じたのは「男は仕事、女は家庭」といった考えが強いように思われます。だからといって別にジェンダーフリー、フェミニズム的な考えを否定しているといったわけではありませんが。

池波さんの作品中に出てくる料理で真似した(じっさいに自分で作ってみた)のもいくつかありまして、「その男」という作品に出てくる(裏里)という料理、なんでも遊里で酒のつまみ、朝飯のおかずなどで出てきたそうで、水分を絞った大根おろしに梅干しの肉を叩いたのを混ぜて、醤油、かつぶし、もみ海苔をかけた一品。これは美味しいです。夏バテなどちょっと食欲がない時などにご飯がすすみます。あとは「仕掛人・藤枝梅安」の3巻だったかな?薄味の出汁に千六本に切った大根、むき身のアサリを入れて煮えたら粉山椒と醤油をかけていただきます。ちなみにこのシーンでは梅安は「このとき、酒は冷のまま、湯のみ茶碗で飲む」とありますが、酒は飲まずに夕飯の汁物としていただきました。

そういえば、宮崎駿さんの作品も食事シーンを大事にしていますね。ジブリ作品もそうですし、「アルプスの少女ハイジ」の暖炉で炙ったチーズをパンに乗っけるやつ、「カリオストロの城」のミートボールスパゲティなどなど。
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奥田英朗 『ウランバーナの森』

2020-06-13 | 日本人作家 あ
ごく個人的な話で恐縮ですが、とある資格の勉強&試験であまり本を読んでいませんでした。ようやく終わったので、これからガンガン読んでガンガン投稿する・・・予定。

奥田英朗さんの作品、ずいぶん久しぶりに読みました。
その「久しぶりに読んだ」作品がデビュー作。

なんていうんでしょう、この方の文体、構成、すごく「伝わりやすい」んですよね。ものすごく個人的な意見ですが、野沢尚さんを思い出します。あ、作風とかは似てませんが。

世界的に有名なバンドメンバー、ジョンは、バンド解散の少し前に日本人女性のケイコと結婚し、解散してから数年後、ふたりのあいだに息子ジュニアが生まれます。ジョンは音楽活動を休止し、子育てに専念することに。また1970年代当時は一般的ではなかった主夫、ハウスハズバンドに。そして夏になると避暑と保養のために日本の軽井沢に滞在。

まあ、ファンでなくともこれだけのエピソードで「ああ、ジョン・レ●●」って分かってしまうもんですが、奥さんの名前はケイコ、息子はジュニア。微妙に違います。

ある日のこと、行きつけのパン屋に行った帰り、「ジョン!」と自分を呼ぶ声が。それは母親が自分を呼ぶ声そっくりでした。しかし母はずいぶん前に亡くなっています。しかしよく見るとジョンと同じ白人ではあるものの全くの別人。知らない女性がジョンという名前の息子を呼んでいただけでした。ジョンなんて名前は英語圏ではごくありふれた名前。

するとジョンは急にパニックに襲われます。

そしてそこにはドイツの港町、ハンブルグ時代につるんでいたピーターの姿が。ハンブルグ時代の忌まわしい消したい記憶がよみがえります。

ジョンは病院に。パニック以降、腹痛に悩んでのこと。診察の結果は「便秘」。ところがジョンの腹痛は治らず、悪化。

ケイコに紹介してもらった、別の医者に診てもらうことに。そこは夏の間だけ軽井沢で開業しているという診療所。ちょっと変わったドクターで、カウンセリングを受けて薬をもらって帰ろうとすると、靄がかかって見通しが悪く・・・

ジョンが今までに心に抱えてきた、対人関係に関する後悔、悩み、もう一度会ってちゃんと謝りたい、そうした(過去)がフラッシュバックしてきます。
それらのひとつひとつが解決されていって、そしてふたたび曲作りの意欲が・・・

このお医者さん、名前は出てきませんが、このキャラクター設定がのちの「空中ブランコ」の伊良部になったのかな?と思ったり。

ビートルズ解散後、ポール・マッカートニーとの不仲説などありましたが、実際のところ見てはいないのでよくわかりません。
しかしジョンの生前のインタビューでポールについて「彼のミュージシャンとして一番の成功は僕と出会えたこと」といったようなことを語っていて、なんだかジーンときちゃいました。

個人的な話。
ビートルズ時代、解散後含めて一番好きな作品は「インスタント・カーマ」という曲。
あと「アイ・フィール・ファイン」のイントロは神。

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髙田郁 『銀二貫』

2020-06-04 | 日本人作家 た
つい先月、髙田郁さんの「みをつくし料理帖」を読み終わったばかりでさっそく別の作品を読むことに。調べてみるとこちらのほうが「みをつくし料理帖」よりも先に出版されてるんですね。

舞台は江戸時代の大坂。寒天問屋「井川屋」の主、和助は、茶屋で茶を飲み羊羹を食べていると、目の前で侍の決闘がはじまります。会話を聞けば仇討ちの様子、親子連れの方が仇で、父親が斬られてしまいます。ところが若い侍がとどめを刺そうとする間に息子が立ちはだかります。そこに和助が「そこらへんで堪忍したっておくんなはれ」と割って入ります。

勢いを削がれた若い侍。すると和助、ふところから袋を出し「これに銀二貫おます」といい、これでこの仇討ちを買う、というのです。

銀二貫。現在の価値でいうと二千万から三千万円といったところでしょうか。そもそもこの大金は、大火で焼けてしまった大坂天満宮の再建のために寄進しようとしたもの。

店に戻った和助は、番頭の善次郎から呆れられます。天満宮の寄進の銀をあろうことか侍の子を助けるためにポイと渡してしまうとは・・・。この少年を、当面は丁稚として使うと決め、まずは京にある寒天を作っている店で修業することに。

海藻を煮るときの匂いにはじめはゲーゲー吐いていたものの、そのうちたくましくなり、井川屋に戻って来ることに。名前もそれまでの武士の名前から丁稚らしく「松吉」に。
しかし番頭の善次郎はまだ和助が天満宮の寄進の銀をこの小僧を助けるためにくれてやったことを許していません。

これからは商人として生きていく、そう決めた松吉は、商人にとって大事なことは、店とは、商売とは、といったことを教わります。

ある日のこと、得意先から「井川屋さんは卸す先によって寒天を分けてる」という言いがかりが。しかしこれ、よくよく調べてみると、大坂の有名料理店が勝手に産地を偽って客に提供していただけだということが判明します。
これがきっかけで、有名料理店をクビになった嘉平という料理人とその娘の真帆と親しくなります。

嘉平は「真帆家」という料理屋をオープンさせます。このお店で出される井川屋の寒天を使った一品が評判となりますが、嘉平はそれに満足することなく新メニューを考えます。それは、潰した里芋を寒天で固められないか、というもの。ですが寒天は汁などの液状のものを固めるには最適なのですが、固体はダメ。松吉もいろいろ考えはするのですが、良いアドバイスはできず。

ところが、大坂で大火事が。しかも「真帆家」の方角が激しく燃えている様子。翌朝、松吉は「真帆家」のあった場所に行って見ると店は全焼、そして二人の行方もわかりません。

それからしばらくのち、嘉平の娘の真帆によく似た人を見かけるのですが、顔の半分が火傷で見られない状態。松吉が「お嬢さん、私です、松吉です」と呼び止めても「知らん」と・・・。

松吉は、嘉平の作りたかった液状ではない食材を固める寒天を作るため、冬は作業場に行くことに。しかしなかなか思うようにいきません。はたして理想の寒天はできるのか。そして火傷を負った真帆は・・・

冒頭に和助が食べていたものが物語の核になっていたとは、読み終わって「ほほう」と思わずうなってしまいました。

読んで良かった。そう心から思える作品です。

ちなみに大坂と京を結ぶ、浪曲「森の石松」でお馴染みの三十国船も出てきます。松吉はさすがに酒を角樽で買って名物の押し寿司を・・・なんてことはしませんが。
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