晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

船戸与一 『伝説なき地』

2012-05-31 | 日本人作家 は
船戸与一という作家は書店でよく目にしていたのですが、読んだのは
これがはじめてです。

冒険小説というと、なぜか主役は日本人なのに舞台は外国という設定が
多く、フォーサイスだったりクィネルだったり、そういった海外作家の
影響を受けているので、舞台を海外にしているのではないか、なんて思っ
たりするのですが、あとは、日本は単純に「平和」ということもあるの
でしょうけど。

『伝説なき地』の舞台は、南米のベネズエラとコロンビア。南米で日本人
と縁が深いといえば日系移民の多いブラジルが浮かびますが、ベネズエラ
とコロンビアも日本と結びつきがあるにはあるのですけど、ちょっとなじみ
の薄いこの2国で日本人が・・・という設定が気になるところ。

ロドリゴ・フェンテスという男が、墓の前で悲しみに打ちひしがれています。
墓の下に眠るのは、結婚前に無残にも殺された愛娘。
そこに、日本人が近づいてきます。彼はロドリゴに、娘を殺した犯人を知って
いる、と告げるのです。
その犯人はチェンという中国系で、ロドリゴが所長をしている刑務所に傷害事件
で入所するので、奴を第5雑居房から、第9雑居房に移せばどうか、と提案をし
てきます。

比較的罪の軽い囚人が入る第5雑居房から、チェンは第9雑居房に移されます。
その時にチェンは、自分に向けられた刑務所長の怒りと恨みにあふれた目を見て、
どういうことかと訝ります。しかも第9雑居房といえば周りから隔絶されている
房で、そこは原因不明で囚人がよく死亡するという悪名高いところ。

チェンは第9雑居房の”ボス”にさっそく目をつけられますが、なんと返り討ちに
し、房から逃げ出して自分をこんな目に遭わせた所長の部屋へ向かい、所長を射殺。

じつはこれは、ロドリゴに話をもちかけた日本人、鍛冶司郎の作戦で、チェンという
囚人は、丹波という日本人で、彼を救出するためだったのです。
鍛冶は、小さな街の小悪党4人に大金が手に入るとうまい話を持ちかけて仲間にし、
丹波を乗せた囚人護送車を途中で襲います。
丹波は前に2000万ドルという大金をベネズエラの「どこか」に隠し、それを鍛冶と
山分けするという約束があり、鍛冶は、ある目的のために大金が必要だったのです。

一方話は変わって、ベルトロメオ・エリゾンドという地方の成金一家が出てきます。
エリゾンドは自分の土地から石油が出て金持ちになりますが、やがて石油も枯渇し
ます。しかしそこから今度は燐酸イットリウムというレアアースが見つかり、商談に
勤しんでいます。
奥さんは病気で寝たきり、ふたりの息子のうち弟は出奔して絶縁、兄ラモンは父ベルト
ロメオの仕事の手伝いをしますがてんで役立たず、ベロニカという秘書兼愛人だけが頼り。
そんなある日、ラモンが弟のアルフレードを連れて帰ってきます。激怒する父。その夜に
ベロニカがじつはラモンとも関係を持っていたということが父にバレてしまい、ラモンは
父を殺してしまいます。さらにその一部始終を知っていた弟アルフレードとベロニカが
結託し、母とラモンも殺してしまうのです。

そんなアルフレードとベロニカにとって頭の痛い問題が。件のレアアースの眠っている
土地には、不法入国で流れてきたコロンビア人たちが「マグダレナのマリア」と名乗る
女性の神託で、勝手にコミュ二ティを作ってしまったのです。
マリアが近いうちに「祭りがある」と言っているのを知ったアルフレードは、「祭り」
の正体を知りたがります。
そのコミュ二ティには、エリゾンド家の女中の娘がいて、アルフレードはその娘を家に
招き、マリアの情報を聞き出し、あろうことか強姦して、娘は翌朝自殺。
女中は、この一連の不幸はすべてベロニカのせいだ、としてマリアのもとへ。

鍛冶と丹波と小悪党の話と、エリゾンド家の話は関係なさそうですが、実は鍛冶らが
目指していたのは、このエリゾンド家所有のレアアースの眠る土地だったのです。
移動の途中、コロンビアのゲリラといざこざがあって、ゲリラの幹部マルチネスに命
を狙われますが、なんだかんだで鍛冶、丹波、小悪党グループ4人、そしてマルチネス
の7人は土地へ向かいます。

鍛治が大金を必要としている理由とは、彼の前歴は。丹波は2000万ドルを埋めた場所
をおおまかにしか言いません。隠した場所とはどこか。
そしてマリアの神託「祭り」とは。そもそもマリアの出自は・・・

物語じたいは、構成もしっかりしていて人物や情景描写も良く、展開もわかりやすくて
読みやすかったのですが、いかんせん人が死にすぎ(殺されすぎ)だなあ、と。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮本輝 『青が散る』

2012-05-27 | 日本人作家 ま
高校や大学が主な舞台になる青春小説はそんなに読んでるわけでは
ありませんが、なんでしょう、イメージ的には未熟な若者たちが
無責任に遊び、でも少しずつ社会を知り、笑い、悩み、傷つき、恋をし、
みたいな感じでしょうか。
そう考えるとこのタイトル『青が散る』というのは絶妙だなあ、と。

雨の振る3月、遼平はこの春から新設される大学に入学するかどうか、
大学に登る坂の手前で悩んでいると、赤いレインコートを着た女性が
います。
どうやらその女性も遼平と同じく「どうしようかなあ・・・」と入学
を逡巡している様子。

ふたりは少し会話を交わし、この大学に入学することに(入学金を納めた)
なります。女性は行ってしまって、遼平は事務局の人にさっきの女性の
名前を聞き、佐野夏子、と知るのです。

はれて大学入学となったわけですが、遼平はひょんなことから金子と名乗る
同級生に誘われてテニス部に入ることに。
ですが、大学は一年目の新設、テニスコートは無く、自分たちでつくることに。

土をならして、”にがり”を撒いて、雨が降ったらまたならして・・・そうして
テニスコートは完成します。

部員ですが、この大学には高校時代に優秀な選手だった安斎が入学してることを
知り、誘いますが、病気だと断られます。

部員はそれなりに集まります。地味だけどどこか魅力的な祐子、その祐子目当て
に入部した貝谷、などなど。

キャプテン金子は安斎を諦めたわけではなく誘うのですが、そこで安斎の「病気」
とは何かを知るのです。
しかし最近はその病気もだいぶ良くなり、やってもいい、ということで入部してくれる
ことに。

さて祐子ですが、物語の中盤手前でいきなり結婚、アメリカへ行ってしまいます。

テニス部は、インカレ目指して練習、合宿。

夏子は金持ちの男をつかまえては車で送り向かってもらって学校にはたまに
ふらっとくるような生活をしています。はたして遼平と夏子の恋の行方は・・・

この小説の面白いところは、テニス部、といってもチャラいサークルでもなく、
それなりにスポ根的な部分もあるにはあるのですが、他にも遼平が大学時代に
出会う、怪しげな喫茶店の地下にたむろしてる他の大学の学生たちとの交流も
あり、法律家志望の学生だの歌手を目指す中華料理屋の息子だの応援団だの、
なんとも種々雑多ではありますがごちゃごちゃして読みにくいという
ことはなく、どんな青春を送ったかは人それぞれですが、それぞれの「ああ、
わかるわかる」という共感できる部分の間口を広げてるあたりが、そこら辺の
”並な”青春小説とは違うなあ、と。
青春イコール輝き、は一部の話。そりゃ中には鬱屈した青春もありますね。
振り返ってみたら「非リア充」だった人のほうがむしろ多いんじゃないでしょうか。

ところで、文中ではこの大学の名前は「・・・大学」というふうに伏せてあります。
まあ、あとがきで「私は昭和41年から45年まで学生生活を・・・」と書いてあり、
文中で「田んぼや農家に囲まれた衛星都市の小高い丘の一角」にある新設大学で、
これって宮本輝さんの母校ですよね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

A・J・クィネル 『ヴァチカンからの暗殺者』

2012-05-24 | 海外作家 カ
かつてのスパイスリラー、アクションといえば、アメリカやイギリスの
「自由陣営」対共産圏、主にソ連との対決が描かれていたことが多く、
しかしソ連も解体され、東側の共産圏も次々民主化し、フレデリック・
フォーサイスはイギリスの諜報部で、かつては優秀なスパイだった男の
悲哀を描いた中編3部作、なんてのもありました。

この『ヴァチカンからの暗殺者』での「敵」はソ連邦の書記長という
バリバリの「西対東」、この当時のローマ法王はポーランド出身の
ヨハネ・パウロ2世、法王に就任してから暗殺未遂があり、それがソ連
側の仕業ということがわかり、じゃあ相手側の親分である書記長、アン
ドロポフを「消して」しまおう、という話。

話は、ポーランドのSBという秘密保安機関からはじまります。少佐の
ミレクは、SBの事務所へ行って、上司を射殺。
そして、教会へ逃げ込みます。この教会は西側の人間をソ連へ送ったり、
また東側の人間を西側に送ったりしていて、その取締りをしていたのが
他ならぬミレクだったのです。
そしてミレクは神父に会い、ある司祭のところへ行きたい、と告げるの
です。

そのミレクが会いたがっている「ベーコン司祭」ことヴァンバラ司祭は、
ローマ法王が韓国行きのさいに暗殺計画があると知り、大司教、枢機卿
の3人で「ノストラ・トリニタ(われら3人組)」を結成し、法王の命を守る
ため、なんとソ連邦の書記長、アンドロポフを逆に暗殺してしまおう、と
いう計画を立てます。

その「使者」に選ばれたのがミレクで、ミレクはそもそも上司を撃って
ポーランドから逃げたのには、アンドロポフへの個人的な恨みがあるらしく、
ベーコン司祭はミレクに暗殺を依頼。

しかし、はいわかりました、というわけにもいかず、ミレクは北アフリカ、
リビアにあるテロリスト育成キャンプでトレーニングをします。
そして、ベーコン司祭らは、より成功の確率を高めるため、ミレクには
「妻」を同行させようとします。まさか暗殺者が夫婦で行動するとは思わ
ないだろう、というわけで、「妻」役に、敬虔な修道女、アニアを選びます。

ハンサムで女性の扱いには慣れているミレクはアニア美しさに目を奪われま
すが、アニアは偽の法王からの特命状(ある計画によって、一時的に夫婦の
「ふり」をしてほしい、というもの)はあるものの、決して体を許しはしません。

そんなふたりがハンガリー、チェコ、東ドイツ、ポーランド、そしてソ連へ
密入国にようとするのですが、どうやらその情報はKGBに漏れていたのです・・・

はたしてふたりはソ連に入国できて暗殺を遂行できるのか、ミレクのアンドロポフ
に対する恨みとは、ふたりの愛の行方は。

ロマンス、スリル、アクション、どれをとっても素晴らしい傑作です。

 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『壬生義士伝』

2012-05-19 | 日本人作家 あ
小説をたくさん読んでいると、中に「早く結末を知りたい、でもこの文中の
世界にまだまだ浸っていたい」というくらいのめり込んでしまう作品と出会え
ることがありますが、久しぶりに来ました、浅田次郎の『壬生義士伝』。

江戸末期、大坂の南部藩蔵屋敷に、ボロボロになった侍が訪ねてきます。
なんと、新撰組の生き残りで、この時期、南部藩は薩長側につくか幕府側
につくか決めかねていて、中立の立場という状態で新撰組が南部藩の屋敷
にくるとは何事かと訝ります。

そのうち、その侍は、かつて南部藩の足軽で、脱藩したのちに新撰組に
入った、吉村貫一郎と名乗るのです。
そして、表が騒がしいと出てきたのは、蔵屋敷差配役、大野次郎右衛門。
吉村は、かつて南部藩にいたときに、大野の組付足軽という身分で、いわ
ばかつての上司と部下。

妻子を故郷に残しての脱藩とはよほどのこと、ここで満身創痍のかつて
の部下が恥をしのんで帰ってきたとなれば、武士の情で助けてあげる、と
思いきや、大野は「この恥知らずが、切腹しろ」と無情な一言。

とはいえ、せっかくなので、南部藩の蔵屋敷の一部屋を貸してやる、さらに
大野家家宝の刀も貸してやるから、それで腹ば切れ・・・

じつはこの二人、子供のころには同じく身分の低い侍で、寺子屋で武芸に
励んだ親友だったのですが、次郎右衛門は大野家に養子として入ることに
なるのです。

かつての親友、そして上司と部下の間柄の貫一郎になんという酷い仕打ち、
南部時代の吉村を知る人たちも大野様の非情さに驚きます。

ここから、命を絶つまでの貫一郎の回想と、生前の吉村貫一郎を知る人へ
のインタビューという形式が、交互に描かれていきます。

まずは、大政奉還から明治という新しい時代になって数十年が経過した
居酒屋のオヤジへのインタビュー。
このオヤジ、じつは新撰組の生き残りで、なんやかやでこのオヤジのこと
を聞きつけた人たちが訪ねてきたりするのですが、局長の近藤勇、鬼副長の
土方、沖田といった、のちに講談話で「活躍」する隊員について聞きたい
のがほとんどなのに、このインタビュアーは、吉村貫一郎について教えて
くれ、というのです。

たいして有名人でもない吉村について、何を知りたいのか。吉村といえば、
剣の腕は立ち、「人斬り貫一」と恐れられるも、なにかにつけて金、金、金
で、まわりからは「守銭奴」と罵られます。
しかし、彼は、妻と幼子を残して脱藩してきて、家族に送金するために、
たとえ小馬鹿にされようが、嫌な仕事、危険な仕事も率先してやるのです。

そんな吉村を尊敬する人もいれば、忌み嫌う人もいます。

そして、彼をさらに深く知る人たちにインタビューは続くのですが、彼が
なぜ愛する故郷、そして大切にしていた家族を捨てて新撰組に入ることに
なったのか、攘夷、勤皇、佐幕といったスローガンがごちゃごちゃ出てきますが、
いったい何が正義なのか、武士として生まれて武士として死ぬには・・・

文庫で読んだのですが、下巻のはじめあたりから、それこそ堰を切ったように
涙があふれてきました。
そこから、吉村のエピソードを新しく知るたびにまた涙、あげくには、ここは
たいして感動するところではないというような、南部訛りが出てくるだけで
ホロホロ。
そして、序盤では血も涙もない男として描かれた大野次郎右衛門についても
描かれていますが、こちらもまた感涙。

ちなみに、吉村が京都にいたこの時代に起きた大事件と言えば坂本龍馬の暗殺。
これについて、犯人というか首謀者は、新撰組、京都見廻組、あるいは薩長の
手の者、諸説ありますが、ここでは「ほう、あの人が」という人にしてます。

「本を読む」という趣味を持つことができて、この本に出会えて心の底から
良かった、と思わせてくれる作品です。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楡周平 『クーデター』

2012-05-15 | 日本人作家 な
もしも、この「平和ボケ」した日本に、いきなりどこかの国が攻めてきたら・・・
という小説は前に読んだことがありましたが、その「どこかの国」もトップが
死去して3代目が就任してというゴタゴタはありましたが、まだ現実にはなって
いないので、まあ良かったといいますか。

『クーデター』の中で、北陸地方にある原子力発電所が出てくるのですが、
今まさに再稼働問題に揺れていますね。そこがもしも武装集団に狙われたら・・・
文中にも出てきますが、もし爆発なんてことにいなれば放射能が漏れ出して、
ここは人が住めなくなってしまう、と。

CIAがモスクワからあるメッセージを受け取ります。それは、マフィアが武器
を日本人に売った、というもの。しばしばヤクザが拳銃を密輸していますが、今回
の取引はそうでもなさそう。

日本海上で武器を受け取ったのは、元自衛隊員という肩書きの男と他数人。
彼らは何者なのか。

またもやCIAはロシアマフィアが密輸をしようとしているという情報をつかみます。
どうやら北朝鮮が絡んでいるらしく、たまたま日本海を航海していたアメリカ海軍の
潜水艦に、密輸をしている貨物船の爆破を命令。
しかし、潜水艦が魚雷を発射する前に、貨物船は自爆して、潜水艦は貨物船の真下に
いたために沈没してきた残骸に激突、緊急浮上しますが、その場所は日本と北朝鮮の
海の国境線すぐ近く・・・

戦地から戻ってきた戦場カメラマンの雅彦は、久しぶりに恋人でキャスターの由紀と
再会しますが、由紀はちょうど北陸の原発の取材で出かけます。
そんな中、飛び込んできたのが、潜水艦が国境沿いに浮上したというニュース。

そして、その日の夜、武装集団が原発の近くにいると警察に電話があり、現場にかけ
つけた警官、警察車両や機動隊が攻撃されます。
武器に期間中や追撃砲を使っていて、これは北朝鮮の軍が攻めてきたのか・・・

しかし、それにしては、どこか出来過ぎの感があると思う雅彦。この武装集団は
何者なのか考えているときに、なんと由紀が、現場に行ってレポートするという
のです・・・

そのあとにも、アメリカ大使館に車が突っ込んだり、国会に青酸爆弾が仕掛けられ
たり・・・

こんな状況でもありながら、政府はちんたらぽんたらと、責任問題だの、次の選挙
だの、どうでもいいことで自衛隊の発動に二の足を踏みます。
はたして首相は発動の許可を出すのか。

派手で血なまぐさいシーンもありながら、戦場カメラマンとキャスターの話もあり、
このふたつのストーリーをバランス良く織り交ぜていてどちらの邪魔もせず、見事。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柄刀一 『ifの迷宮』

2012-05-08 | 日本人作家 た
この柄刀一という作家、デビューは1998年で、この『ifの迷宮』は
2000年に単行本が出版されたということですが、存じ上げません
でした。
未読の作家の作品は、帯や解説を参考にしていまして、この小説は
(文庫の解説)なんと宮部みゆきさんではありませんか。

雨の降る夜、山の中で警察がひとりの男の説明を聞いて土を掘って
います。男によると、2年前に、殺された知人に頼まれて、この山の
中に埋めた、というのです。

「この山」とは、山梨県では旧家である宗門(そうもん)家の近く。
少し前に土砂崩れがあり、地形が変わっていて、掘っても死体は出て
きませんが、別の位置から、男の死体が・・・。
慌てて他の人を呼びに行き、現場に戻ると、不思議と死体は消えていました。

という奇妙な「事件」から少し経ち、宗門家に住む亜美という女性が
レストルームで殺されているのを発見されます。
現場に向かう刑事の百合絵。
亜美は奇妙な状態で死んでいて、顔や手、足の裏など本人を特定できる
部分が暖炉で焼かれていたのです。
他にも、血痕の飛び散り方も奇妙。

ところで、この宗門家、SOMONグループという遺伝子関連の医療会社を経営
していて、胎児の細胞を治療に使おうとしていて、世間から批判を受けて
います。

百合絵ら刑事数人が宗門家に着いたときに、反対派グループが家の前に
張り込みをしていて、一触即発の雰囲気。

百合絵の夫の真一は生化学の研究員で、たまに警察からDNAの鑑定など
依頼されます。
真一が調べているのは、亜美のDNAだったのですが、その遺伝子は前に
死んだはずの家族のもので・・・

さらに、山に埋められた池澤という男が発見されたのですが、なんとその
DNAは、これまた前に死んだはずの宗門家の男のものだったのです・・・

はたしてSOMONグループはクローンや試写の蘇りなどをやっているのか。

そんな中、グループの新しい研究施設が土砂崩れで崩壊、中から宗門の
家族の一人が殺された状態で発見され・・・

途中で何度か頭がこんがらがりそうになりましたが、完全に分からなくなる
手前で次に進めて、まさに迷宮状態。

この話は近未来に設定されていて、出産前に赤ちゃんを診断し、お腹の中の
赤ちゃんに障害があれば中絶するというのが当たり前の世の中。
しかし百合絵と真一の間に生まれた男の子は、知的障害があり、出産前に
調べなかった百合絵にたいして、「無責任」と心無い言葉を浴びせる人も。

「遺伝子操作」として、いわば「普通」以上の、あるいは優秀な子供が欲し
ければ優秀な男の遺伝子を金で買い、「このお腹の子、ちょっと遺伝子的に
ダメそうなので堕ろすことにしたわ~」なんて気楽に命を扱うように。

そんな「命とは」というテーマも盛り込み、とても読み応えのある内容。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

J・R・R・トールキン 『ホビットの冒険』(再読)

2012-05-04 | 海外作家 タ
「指輪物語」を読み終えて、どうしてもその世界観にまだ浸って
いたくて、つい手を出してしまいました。
この『ホビットの冒険』は、「指輪物語」の前に書かれた作品で、
「指輪物語」での指輪保持者であるフロドの継父であるビルボが
賢者ガンダルフと13人のドワーフとともに冒険をするといった話。
この13人の中に「グローイン」というドワーフがいるのですが、
フロドの旅の仲間であるギムリのお父さんですね。
そもそもギムリは、この13人の中にいたバーリンというドワーフが、
霧ふり山脈のモリア抗に探検に行くといったまま音信普通になって
しまい、バーリンを探しに行くという別目的もあったのです。

話は、唐突にガンダルフが登場します。ほんとうに唐突。一応、過去
にビルボとガンダルフの交流は書かれていますが、さらりという程度。

そして、ドワーフが霧ふり山脈(ホビット庄から見ると東にある大きな
山脈)の反対側に住む竜を退治しに行き、ビルボはなぜか一緒に行くこと
になります。

「指輪物語」にも登場する裂け谷のエルロンドの館を経由して、霧ふり
山脈を越えることに。途中、ゴブリン(オークともいう)の攻撃に遭ったり
もしますが、なんとか山脈を越え、いよいよ闇の森へと進もうとしますが、
ガンダルフは13人のドワーフとビルボとは別行動することに。

この山脈越えの途中でビルボは穴に落ちてしまい、ここでゴクリと出会い、
なぞなぞ合戦に勝って彼の指輪を持ち出すことに。
これが後に「指輪物語」の核となるわけですね。

熊族のビヨルンに途中まで案内してもらい、闇の森に入るのですが、中で
クモに捕らえられたり、なんとか逃げられたと思ったら今度はエルフに捕
まってしまいます。

ここでエルフとドワーフがなぜ仲が悪いのか、そのいきさつが説明されて
います。それはさておき、ドワーフとビルボはエルフの家から脱走し、川
の中洲にある町へたどり着いて、さあ、竜の住む山へ・・・

「指輪物語」の中で、この旅についてはチラッとだけ説明があります。
竜の奪った宝をめぐっての大戦争「五軍の戦い」も描かれていて、迫力満点。

『ホビットの冒険』を読んでから「指輪物語」を読むもよし、その逆でも
いいですが、いずれにしても「指輪物語」の序盤で苦しんだ人は読んだら
スッキリします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする