晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

大沢在昌 『雨の狩人』

2014-06-29 | 日本人作家 あ
この作品は、東京新聞の朝刊に2013年の1月から連載されて、終わったのが2014年
の3月か4月。
大沢在昌の小説が”タダ”で読める(実際は新聞代を払っているんですけど)と
いうことで、連載が始まってから終わるまでずっと新聞を切り抜いてファイルして、
その数413枚。

この前本屋に行ってはじめて知ったのですが、この「~の狩人」というのは他にも
あって、つまりシリーズだったんですね。主人公は新宿署の組織暴力対策課、通称
”組対”の刑事、佐江。基本ひとりで行動し、仲間はおらず、署内では厄介者、
しかし新宿のヤクザに関しては誰よりも詳しい、といった人物。「新宿鮫」の鮫島
っぽいといえば、そうですね。

歌舞伎町の東にある飲食店街、通称(オレンヂタウン)で、男の変死体が見つかります。
このあたりは四ツ谷署の管轄なのですが、歌舞伎町のヤクザに詳しい佐江が呼ばれます。
男は覚せい剤中毒死。元は尾引会という組の組員。その尾引会は二年前に解散。

佐江が帰ろうとすると、ひとりの男が追ってきます。話しかけると、男は記者で「近い
うちに新宿ででかい金が動いて、いっぱい人が死ぬ」と言うのです。
男はフリーの記者で岡という名前。具体的な内容は教えてもらえません。

話は変わり、歌舞伎町のとあるキャバクラで、地下格闘技大会が開催されていて、そこ
にいた観客のスーツの男が、電話で会場の外に出ると、いきなり銃で撃たれます。

被害者は高部、組関係の人間ではなく、飲食店や不動産の経営をしています。
話によれば、高部は電話のため店の外に出て話をしていると、エレベーターが開き、
中に乗っていた人物が発砲、おそらくプロの殺し屋の仕業だというのです。

佐江は、警視庁捜査一課の谷神といっしょに、地取り捜査に。まずは「SUF]という
地下格闘技を調べることに。しかしこの団体は試合毎にプロモーターが変わり、しかも
連絡はすべてメール。賭けが行われているからなのですが、ヤクザは関わっていません。
というのも、時代が変わった、というのです。

組織犯罪処罰法や暴力団排除条例で、組は”シノギ”が絶たれるので活動は縮小しました。
しかし、そのおかげで、セミプロ集団が暗躍し、いわば”カタギ”が暴力団より優位に
立つという現象が起きている、と。

被害者の高部も、そうしたセミプロのひとりで、おそらく振り込め詐欺か闇金で小金を
貯めて、飲食店やキャバクラ経営に乗り出し、成功したら今度は不動産、といった感じの
男で、以前ならば歌舞伎町でこのようなビジネスをするならヤクザとはどこかで関係
してきたのですが、高部はまったくの”カタギ”でした。

新宿署に捜査本部が設置され、未解決の類似事件から、高利貸しの片瀬という男が射殺
されたのが、今回の高部と同じ9ミリ口径の拳銃で、しかも殺され方も似ています。
片瀬が関係していた暴力団、羽田組は、今は高河連合という巨大暴力団に吸収合併されて
います。

佐江と谷神は、当時、羽田組の稼ぎ頭だった江口一家が潰れた原因の聞き込みに。そこで
尾引会の潰れた原因も知るのです。尾引会といえばオレンヂタウンでの変死体の男が所属
していた組です。

まるで羽田組も尾引会も、潰されたようですが、どうやら、オレンヂタウンの土地が関係
しているらしく、裏で動いているのが高河連合だというのですが・・・

しかし、オレンヂタウンの地上げに成功したところで、暴力団にとって”うまい話”では
ありません。佐江は捜査を進めていくうちに、ある不動産会社に話を聞きに行こうと
したのですが、そこで謎の男に銃を突きつけられ・・・

謎の殺し屋「佐藤」とは何者なのか、「佐藤」を動かしている高河連合の幹部の狙いは、
そして、この話と交互に描かれているタイ人の女の子が探している日本人の”お父さん”
とは何者なのか。

暴力団を排除することで表向きは暴力団の数も犯罪も減少しますが、それはあくまで
(見た目)だけがきれいになる、土の上に生えている雑草だけを刈り取っても、根は
そのままの状態では意味がない、と文中で力説しています。

それにしても、1年と4ヶ月、新聞を毎日切り抜いて、数日で読み終わってしまう虚しさ。
じゃあそんな面倒なことしないで毎朝読んでればよかったじゃない、と思ったのですが、
読み終わって、朝からこんなヘビーな話(特にタイ人の女の子のエピソード)を読んで
たら、その日一日気が滅入るなあということで、まとめ読みが正解でした。
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佐々木譲 『警察庁から来た男』

2014-06-19 | 日本人作家 さ
この作品は「笑う警官」の続編で、前作では北海道警の婦人警官が
警察の”アジト”で殺され、かつて道警の根幹を揺るがす不祥事を
起こした元警部の”右腕”と疑われていた津久井(調査の結果シロ
だった)が婦人警官の交際相手だったということで重要参考人から
容疑者に、さらに射殺命令まで出て、これにおかしいと思ったかつて
津久井といっしょに仕事をしたことのあった佐伯が仲間を集めて
真相を探る、といった話でした。

前作のネタバレになってしまいますが、津久井はなんとか道議会の
特別委員会に出席し、道警の不正経理について証言し、その”見せしめ”
といいますか、警察学校に飛ばされてしまいます。

道警は上へ下への大騒ぎ。というのも、突然、警察庁の特別監察が入る
ことになったのです。

道警本部にやって来たのは藤川というキャリアの警視正。藤川は来て
早々、なんと津久井に監察の協力を要請。

これには本部長も「ヤバイことになりそうだ」と不安がります。なにせ
津久井は過去に”うたった”ことのある、いわば組織の裏切り者。

この監察は、あるタイ人女性が警察に逃げ込んだのに警察は逆に暴力団
に返してしまい、そのタイ人女性はふたたび逃げ出したということが
あって、これが国際問題に発展したのです。

ススキノに人身売買の組織があって、道警と関係があるのではという疑いが
強く、藤川は調査に来たのですが、”いちおう”道警の警官である津久井は、
同僚が暴力団とツルんでいるとは考えられず、しかし起きたことは起きたこと
なので、監察に協力します。

ちょうど同じ頃ですが、福岡からある男性が大通署に来て、自分の息子が
ススキノのビルから転落死した”事故”の再捜査を依頼します。
この”事故”は、ススキノにある風俗店が入っているビルの上階から出張に
来ていた男性が転落死したというもので、”事故”として処理されていたの
です。

この話をたまたま聞いた刑事の佐伯は、再捜査を依頼に来た男性に会うことに。
そして男性がホテルの部屋に帰ると、中が荒らされていて・・・

ススキノでは暴力団排除の目的で(薄野浄化条例)が施行され、健全化に向かって
いると思いきや、警察とツルんでいたとしたら、これは大変なこと。

聞き込みのあたる藤川と津久井。そこで得た情報を照合していきますが、
クロに近いと思われる警官は何人か出てくるのですが、その”共通点”が特に
見当たりません。

そんな中、ススキノの風俗店で転落死のあった件で、新たな動きが。なんと、
”事故”のあった日、店にいた風俗嬢が、亡くなった男性が非常階段の方へ
連れていかされている動画を携帯で撮影していたというのですが・・・

はたして道警と暴力団の癒着は本当なのか。そして、彼らの繋がりはいつから
どのようにして始まったのか。
津久井と佐伯はいっしょに仕事をしたことがあると前述しましたが、警察庁から
の要請で、おとり捜査をやり、しかし逮捕寸前で失敗に終わった、ということが
あったのですが、どうやらその時の件も絡んできて・・・

展開がスピーディーで読み始めたら止まりませんでした。例えが正確かどうか
わかりませんが、A・J・クィネルやフレデリック・フォーサイスばりの面白さ。


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ディケンズ 『大いなる遺産』

2014-06-10 | 海外作家 タ
ようやく読みました。買ったのはずいぶん前だったのですが、わりかし長編
なので、後回しにしてました。

原題は「Great Expectations」で、expectは期待するとかいう意味なので、
つまり”遺産を相続できる可能性は期待していい”ですね。

イギリスの田舎に住む少年ピップは、幼くして父母を亡くし、姉夫婦のもと
で育ちます。姉は夫のジョー、そして弟に「とっとと飯を食えこの豚野郎」
と言ったり、ときたま棒でひっぱたいたり、恐怖の存在。

そんなわけでピップとジョーは(被害者の会)のような仲良し。

ある日、ピップが教会で自分の両親の墓にお参りをしていると、囚人服を
着て足枷をはめたままの男が食べ物とヤスリを持って来いとピップを脅します。
なんとかして家から食べ物を盗んで、鍛冶職人であるジョーの仕事場からヤスリ
も持ち出し、脱獄囚のもとへ。

そんな忌わしい出来事があったのち、ピップはあるお屋敷の女主人ミス・ハヴィ
シャムの世話をすることに。世話といっても話し相手になるだけで、女主人は
暗い部屋にこもって意味不明な言動をし、養女のエステラにひどい言葉でなじられます。

ピップは自分では意識していなかったのですがエステラの美貌に惹かれ、
お屋敷に通い続けますが、しかしエステラはパリに旅立ちます。

やがてピップはジョーに鍛冶職人の弟子入りすることに。そんな矢先、ピップは
弁護士を名乗る男に、どこかの富豪から遺産相続の見込みがあると告げられます。

そのためにはロンドンに住んで紳士になる教育を受けるとあり、ピップは
ロンドンに旅立ちます。

ミス・ハヴィシャムのお屋敷で出会った青年ハーバートと一緒に住み、財産管理
をいている弁護士から月々の生活費を与えられ、贅沢な生活を送ります。

放蕩三昧な暮らしの中、ピップは田舎で世話になったジョーたちを疎ましく感じる
ようになり、紳士というよりは”鼻持ちならない都会人”になってゆくのです。

やがてピップは、自分に遺産を相続してくれる謎の人物の正体を知るのですが・・・

「オリヴァー・ツイスト」でもあったように「あの人とあの人がじつは」といった
ような”都合のよい”展開があったりしますが、そこはそれ、物語として面白ければ
いいのです。

文中で特に笑ってしまったのが、ピップと同郷の人が出演する芝居を観に行くシーンで、
ここが素晴らしいのが芝居のタイトルを敢えて説明せずに物語の舞台(デンマーク)や
登場人物(かの優柔不断な王子、王の亡霊)で描写しているところ。
客の野次など絶妙で、なんというか古き良き芝居文化がそこにあるような。

それにしてもイギリス文学ではちょくちょくシェィクスピアを”教養として当然知って
いるもの”として引用しますね。
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ウィリアム・フォークナー 『サンクチュアリ』

2014-06-05 | 海外作家 ハ
一般に古典や名作と呼ばれる作品は、そんなに読んだことはありませんが、
我が家の書棚にはディケンズ、ブロンテ姉妹といったイギリス文学があり、
でもアメリカ文学はヘミングウェイぐらいです。あと「赤毛のアン」も。

前からフォークナーやスタインベックなど読んでみたいとは思っていたの
ですが、いよいよ買ってみました。

関係ありませんが、「がんばれ元気」というボクシング漫画で、主人公の
友達が夏期講習のため上京し、その友達がフォークナーがどうのこうの、
でも主人公はプロボクサーになるため勉強から遠ざかって話が合わないよ、
というのがありましたっけ。

さて『サンクチュアリ』ですが、裏表紙のあらすじによると「自分として
想像しうる最も恐ろしい物語」と著者が語ったとあるように、ノワール
(暗黒)小説というんですか、まあ簡単にいってしまうと、残酷な話。

冒頭、ホレス・ベンボウという弁護士が、藪や木々が生い茂る奥のほうで
ポパイという男と出会います。ポパイは酒を密造しているギャングで、
ベンボウは「きみを酒の密造で訴えたりはしないから」と言いますが、
ポパイはピストルを胸にしのばせていて、帰してくれません。
密造酒のアジトへ連れていかれ、それからなんだかんだでベンボウは
トミーという男に案内され、町へ帰ります。

それから後日、テンプルという女子学生が、男友達とドライブしている途中に、
この密造酒のアジト近くで車が壊れ、そこをトミーに発見され、ふたりは
アジトへ。そこでテンプルはポパイに襲われてしまいます。しかし後に
わかることですが、ポパイは性的不能者。さてどうやってテンプルを襲った
のかというのは話のキーとなるので書けませんが、精神に支障をきたして
しまったテンプルはメンフィスのある売春宿に連れてかれて、そこでレッド
という男と同室にさせてポパイはそれを見てニヤニヤ。
しかしレッドはポパイによって射殺されてしまいます。

トミーが頭を撃ち抜かれていた死体となって見つかり、テンプルも行方不明
でしたが見つかり、その容疑でグッドウィンという男が捕まります。

そのグッドウィンの弁護士となったベンボウ。

トミーを殺したのもテンプルを襲ったのもポパイなのですが彼は見つからず、
やがて裁判になり、検事はグッドウィンを有罪にするべく汚い手を使い、さらに
テンプルは嘘の証言をし、なんとグッドウィンは有罪に。

そのグッドウィンは、町の人たちに留置場から出されて焼き殺されます。

ポパイは、自分のやっていない殺人事件の容疑者で逮捕されてしまい・・・

ざっとあらすじを書きましたが、まあ無茶苦茶です。

ボストン・テランの「神と銃弾」やエルロイのLA三部作、ドン・ウィンズロウの
「犬の力」などを読み終えたときの放心状態や衝撃の度合いに較べればいくぶん
か弱いですが、「ただの残酷な暗黒小説なんじゃないの」と敬遠されている方には
入門編としておすすめ。


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