恩田逸夫氏は「現象と本体との関係は、賢治の思想の基底となるもの」と角川の「日本近代文学大系(36)『春と修羅』補注で述べられていた。この「現象」について賢治との関連で多くの研究者の発言記述があります。哲学・なかでも現象学そして心理学等々,かぞいきれぬほどであり、なかにはメルロ・ポンティまで述べられてもいる本もあります。むろん恩田氏も「宮澤賢治における現象把握の構造」という,とてもだいじな論考があります。
まえにもふれたことがあるのですが栗原敦氏が「池田がライプチヒ大学で師事したウィルヘルム・オストワルドの著書から賢治が得たものは決して少なくなかったらしいと言ったなら以外だろうか。盛岡高等農林学校の農芸化学科に学んだ賢治だから、化学は専門分野のひとつ・・・・・・」「夏目漱石ー浩々洞、オストワルド、ジェイムズなど」と記されてる(国文学第三十七巻10号・4年9月号)。ここで栗原氏がいわれている池田菊苗とはまえの写真でしめした「近世無機化学」の訳注者のことであるが、栗原氏は「開成館発行」のこの本にはふれられていなかったので、ここで表題だけでも紹介をしたい。この本は、明治三十七年に発行され、盛岡高等農林学校にも所蔵されていた著書であると思います。
本論は、第一章から第四十四章 補訂 付録一・二 索引(1~40)です。第一章総論 化学的現象・経験・概念及び自然の定律・時間と空間・物体と物質・性質・均様なる物質及び混合物・性質律の精確の度・純粋なる物質と溶体・一種の物質を鑑識するに必要なる性質の数・帰納・物質の鑑識・色・態形・適用 以上が第一章です。
現象を自然学諸部門の関連性や化学的現象の関連性などの要点を示されていて、後の章にも燃焼の現象なども記されている。現象・現像・抽象等にも注意深いこの著述は、賢治の「現象」思想形成の原鉱をみるおもいである。
追記 写真 佐藤傳蔵著 地質学提要 (初版昭和三年一月十日訂正版) 発行所 中興館書店
上記の写真は、明治の終わりころから大正時代の「高専」で使用されていた教科書の一部である。「改訂 肥料教科書」の持ち主氏は「肥料試験執行日・・何日」と表紙裏面に書き込みがあり、猛勉強の跡がみられる「教科書」である。「鉱物」の本には百頁少しの中に写真画像が120図も掲載されていて楽しく学べる教科書になっている。賢治がこれらの教科書で学んだとはいわないが、そのとうじのことがみえてくる感じである。
これらの本をみながら、賢治の大正七年父にだされた「書簡」の一部(科学・化学関連)はどのような事情で書かれたのかを勘案するひつようがあるとわたくしは思う。「書簡」{68[6月9日]}にある「書籍」の内容を「賢治伝」に使用されることや、科学における賢治の世界観形成のことばに、書簡「67」「72」の記載語句をそのままつかわれるのはわたくしにはあまり賛成できない。(「書簡」{72}と{54}とをお読み願いたい)
★ 改訂土壌教科書佐々木祐太郎著(明治四十五年二月十日改訂四版)
★ 宮澤賢治の地的世界 加藤碵一著 (2006年11月20日第1版)