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「憲法改正の真実」
樋口陽一 小林節 著
憲法について考えるということで読んだ本の2冊目です。
樋口さんはいわゆる護憲派、小林さんは改憲派という、もともと対立する立場の2人の憲法学者による、自民党の憲法改正草案に対する批判的考察本です。
「自民党の憲法調査会には、二世どころか、三世、四世といった世襲議員と不勉強なくせに憲法改正に固執する改憲マニアだけが残ってしまった。
これがなにを意味するかと言えば、現在、自民党内で憲法について集中的に考えている議員たちのほとんどが、戦前日本のエスタブリッシュメント層、保守支配層の子孫とその取り巻きであるという事実です。」(P31)
「彼らの共通の思いは、明治維新以降、日本がもっとも素晴らしかった時期は、国家が一丸となった、終戦までの一〇年ほどのあいだだった、ということなのです。普通の感覚で言えば、この時代こそがファシズム期なんですがね。」(P32)
「自民党改正草案は、近代法からの逸脱だということです。民主主義的傾向の芽生えのあった明治期への回帰どころか、前近代への回帰です。近代法を捨てて、『いにしえ』の東アジア的な権威主義に戻ろうとしている。」(P63)
「要するに、自民党が緊急事態条項の新設に躍起になっているのは、『俺たちの好きにさせろ』と言っているに等しい」(P116)
「つまり、①主権者・国民が権力担当者を縛るためにある憲法で、逆に、権力者が国民大衆を縛ろうとする。②各人の個性を尊重することこそが人権の本質であるが、それを否定して、国民すべてを無個性な『人』に統一しようとする。③海外派兵の根拠を憲法条文の中に新設し、その実施条件を国会の多数決(つまり時の政権の判断)に委ねてしまう。④国旗・国歌に対する敬譲や家族の互助といった本来、道徳の領域に属する事柄を憲法で規律する。まさに、皇帝と貴族が支配する家父長制国家です」(P224)
かみ砕いて書くのが僕には難しいので、本の記述をいくつか抜粋させていただきました。
他にも、安倍政権の目論見、隠された意図が、てんこ盛りで指摘してある、大変刺激的な本です。
なお、小林節さんは、自民党の憲法調査会に長年参加して、自民党の事情に非常によく通じた方です。話される内容も筋が通っているし、自民党と同じくらい不勉強な左翼評論家が型通りのいちゃもんを付けているのとは違う重みがあります。
今、この国の立憲主義、議会制民主主義が危機に瀕しているという、お二方の認識に、僕も大いに賛同します。
かなり専門的な話も出てきますが、話し言葉の対談形式で書かれているので、中身の割にはわかりやすいと思います。
ぜひ、お薦めの本です。
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