「アフガニスタンの診療所から」 中村哲 著
しばらく前に読み終えた本。昨年12月、テロにより落命した中村哲さんの、1992年までの約10年間の活動記録です。
中村さんの本はもう一冊買っているので、本当はそれも合わせてご紹介するつもりでしたが、なかなか遅々として読み進められないものですから、まずこちらを先に取り上げることとしました。
先ほど申し上げたように、これは92年までの記録です。丁度、ソ連侵攻後の一時的な復興の時期にあたります。といっても、難民が続出し、ほぼ戦争状態継続中のような現地で、診療所を開き、医療活動に携わる中村さんたちの労苦は大変なものだった様子。そんな中、初志貫徹とばかりに突き進む中村さんの姿は、活字を通してでも、まさに聖人のように光り輝いて見えます。
そんな聖人が、一番忌み嫌っていた銃器による暴力で、命を落としました。改めて、平和の尊さを思い、戦争に対する怒りを覚えます。
この本の終わり近く、欧米諸国や日本の文明の在り方を批判した後で、中村さんはこう続けています。
「過去10年にわたって我われの眼前でくりひろげられた出来事からいえることは、中世はおろか、古代から人間の精神構造は、複雑になっただけでそれほど進歩はしておらず、技術の水準だけ野蛮でありつづけたということである。私はアジア的な封建性や野蛮を決して肯定しているのではない。たとえ文明の殻をかぶっていても、人類が有志以来保持してきた野蛮さそのもの、戦争そのものが断罪されねばならないと思うのである。」(p205)
アフガニスタンの歴史は、周辺や先進諸国の都合に翻弄され続けた歴史でもあります。そこで亡くなるまで40年近くもの間、人々のために尽くし続けた中村さんの言葉は重い。
読んでいて、背筋のしゃんと伸びる本でした。あらためて、中村さんのご冥福をお祈りします。
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