現在のものづくりは、分業化が進んでいる。
ものづくりのマネジメントを正社員が行い、派遣や請負が現場のテストを行う。
ところがこの結果、現場経験が全くない正社員が、報告を受けても理解できず、問題を把握しきれずに、問題が大きくなっても対策できないという問題が起こる。
これが現在、多くの自動車開発企業で起きている品質問題の根本原因と考えている。
三菱自動車、日産自動車、日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機の不正検査問題はその顕著な例だと考えている。
経済学の基本としては、分業化を行うことによって生産効率は向上する。
ものづくりはものづくり、広報は広報、財務会計は財務会計の仕事を専門に行う。
ところが、お互いの仕事が全くわからなければ共働などできない。
全てを理解して、全てを調整する役目が必要になる。
それが代表取締役になるわけだが、果たして現在の労働の細分化に対して、一人の人間が見て考えられる範囲は決まっている。
本田宗一郎は、ものづくりの現場を熟知して、使われる現場も整備する現場も熟知し、経営も行っていた。
私が知る限り、本田宗一郎は現場現物現実を真摯に観察し、嘘や妥協なく、原理原則で解明していた。
「ことわざを使うな」など顕著な例で、必ず反対の意味が存在するあやふやな例え話で、物事を論じることを非常に嫌っていた。
経営を担うことになった藤沢武夫はその能力を理解して、
・社長となる人間は、技術出身であること
現場を熟知した上で物事を判断する人間をリーダーにする必要があった。
経済理論で能力のある技術者を統率することはできない。
・親族経営にはしない
血筋による経営は専制主義となり、いわばバカでもリーダーになる甘えを生じさせる。
といった、人の歴史をとことん調べ学んだうえで、最適な会社のシステムを構築していった。
妥協を排し、全てを考え理解し、対策を打っていくのは、非常に困難で難しい。
しかし、「非常に困難で難しいからこそ、価値ある仕事になる」という当たり前の事実をすっかり忘れてしまうのも人である。
このあたり、宮崎駿の作品制作にも同様の経緯が見られるが、宮崎吾朗を後任に選んだのは鈴木敏夫の限界だと思う。
いいものを作るためには、ぱっと出のアイディア勝負で全て対策できない。
99%努力し思い悩んで、そこで生まれた1%のひらめきが物事を打開するのである。
エジソンも言っているこの単純な仕事の論理を、世の一般経営者は軽視する。
現実をしっかり見て対策してきた人間には、その見掛け倒しは通用しないのですよ。
つまり、本質を理解していない。