・場所:JR亀川駅 大分交通バス、亀の井バス・亀川駅前BS
・泉質:塩化物泉 55.3℃
・訪問日:2008年5月12日
大分県の西部、熊本県との県境が複雑に入り組む久住山北麓一帯は、阿蘇くじゅう国立公園の一部、標高が800~1,200mの飯田高原と呼ばれる高地です。
ゆるやかな起伏をもって草原のうねりをみせる風光明媚な高原として、別府・由布院と阿蘇とを結ぶやまなみハイウェイ開通を嚆矢として、九酔峡、九重夢大吊橋などの観光開発により、夏は避暑地として人気のエリアとして知られています。
この飯田高原の一角、湯坪温泉にほど近い森の中に佇むオーベルジュを今年の夏休みのお宿にすることにしました。本来、路線バスで旅をする主義を持っているのだが、どうしても路線が繋がらないため、趣旨にはそぐわないが今回はレンタカー。
前日宿泊した壁湯温泉方面からガードレールもない人気のない峠道をカーナビを頼りに進むこと30分、それまでの山道から一転、のどかな高原が広がったところに、見過ごしてしまいそうな小さな標識を発見。
中に進入すると、駐車場の奥に欧州にワープしたかと錯覚するような建物が現れました。ここが2泊3日でお世話になるオーベルジュのエントランスです。車を停めるとすぐに若い男性スタッフが「お待ちしておりました…」っと飛び出てきて、チェックインをする間に、荷物を部屋まで運んでおいてくれました。
本館を入ると実に上品なインテリアに囲まれたレセプションデスクがあり、ここで手続きを済ませて、その横のリビングのような場所でしばしの休憩。冷たいおしぼりとともにハーブティー、そしてポルヴォローネというスペイン菓子を出してくださいました。
今回、ちょっと贅沢をして宿泊棟の一般客室ではなく、「Casa Suite Room」に宿泊です。長期の滞在にも向いているという、文字通り「家」として各棟が独立している言わばヴィラ。天井の高い広さ49m2の開放的な部屋にセミダブルのベッドがふたつ、さらに昼寝用のデイベッドが備わっています。
テラスに出ると、鳥の鳴き声をBGMに美しい山容の涌蓋山が眺められる。ときおり牛の鳴き声が聞こえるので近くに牧場があるんでしょう。アメニティーも充実していて不足はない。またDVDが備わっているとともに、Wi-Fi環境も整えられています。
このCasaの白眉はもちろんお風呂。かなり広いバスルームの一角にシャワーブースと、タイル張りのハート型になった大きな浴槽。思いっきり足を延ばしてもまだ余裕のあるこの浴槽には、かけ流しのお湯が絶え間なく流れ込んでいます。
専用のお風呂があるといっても大浴場は温泉好きの日本人には必須。このオーベルジュの宿泊棟には男女別の大浴場と家族風呂が設置されています。大浴場は内湯と露天からなり、湯坪温泉から引いたお湯が満たされています。
湯坪温泉は九重九湯のひとつで45~70℃の単純温泉。ここから少し離れたところにある温泉街には約20軒の民宿が並び、民宿が多いことから「湯坪民宿村」とも呼ばれているとのこと。この大浴場は源泉からやや遠いので、温度管理の意味から半循環としているようだが、かなりオーバーフローさせていて、塩素臭もなく、掛け流しに近いお湯の質を保っているようです。
露天は白い漆喰に明るい色調のタイルが埋め込まれていてやわらかい肌触り。澄明のお湯は無味無臭ではあるが、浴槽の底には酸化鉄やカルシウムの沈着が見られるので、単純泉ながら温泉の成分は豊富な様子。湯温がやや低いので、長時間ゆったりと浸かることができます。
大浴場は草花の花壇に囲まれ、その奥にそびえる涌蓋山の眺めと相まって、見目にも癒されるが、泉質でいえばやはり掛け流しのCasaのお湯に軍配が上がります。浴感に優れるとともに、湯上りの湯切れは抜群。バスタオルは必要なく、フェイスタオルで充分です。
美食と美湯を兼ね備えたこのオーベルジュ、その料理も圧巻です。料理の詳細が食べログで。
実に充実した夏休みを堪能することができました。さぞ高くついたかと思いきや、意外に安いのにも驚きます。年に1回だけの細やかな贅沢、今年も充分味わい尽くすことができました。
JR久大本線・豊後森駅から玖珠観光バスの宝泉寺行きに乗って約30分、壁湯BSを降りたところの宿への細い道を下ると旅館・福元屋が現れます。この旅館こそ明治の初めから湯治客や旅の商人を相手にこの名湯を守ってきた一軒宿です。
平成13年、若い館主が自分の好みの田舎屋風に仕上げるべく、僅か8室、20人ほどが宿泊したら満杯になるような小宿に全面改装した母屋は、どこか郷愁をそそる落ち着いた風情で、田舎の家に里帰りしたような気分にさせてくれます。
温泉 は享保年間(1716?1735年)、猟師が渓谷の中に湯浴みしている鹿を見たことから温泉を発見し、険しい岸壁に道を作って半洞窟の温泉を開いたと伝えられており、その場所にちなんで「壁湯」と名付けられたとのこと。
母屋の玄関から渓流の小道を恐る恐る進んだところにこの壁湯があり、その先の岩のくぼみに小さな脱衣所が設置されています。男女混浴ながら、女性は湯浴み着の着用が許されているのとのこと。
湯底まで透みきった澄明のお湯には、僅かに白い湯の花が舞っていて、長く浸かっているうちに体に細かい気泡が付着してくる。泉質は弱アルカリ性の単純温泉。岩の奥から自然湧出する源泉は毎分1300リットルと湯量にも恵まれ、岩に囲まれた険しい空間にもかかわらず、絹のようなや わらかな浴感はいたって女性的。ほんの僅かに硫黄の香りが感じられ、舐めてみると少し甘く感じます。
岩肌がむき出しになった洞窟の奥に進むと、次第に狭く深くなっていて、湯底は小石と砂になってくる。この岩の隙間から自噴しているようだが、気泡が上がって来る訳でもなく水流も感じられない。それにも拘らず、掛け流されていく排水は大量。湧出箇所が一点ではなく、多面的に湧出しているのかもしれません。
湯温は低めで38℃ぐらいでしょうか。
━半刻入らずして壁湯を語るべからず 一刻入って身體に問うべし━
この壁湯を味わうには半刻(1時間)では足りない。一刻(2時間)ゆっくり入って体に聞きなさい…と表現されるとおり、長時間浸かることによって、心も身体も癒されるのだということが実感できます。
混浴に二の足を踏む女性には、この壁湯の入口近くに女性専用の浴場があり、そこで安心して柔らかな温泉に浸ることもできます。とろんとしてしっとりとした浴感は、むしろ女性に向いているのかもしれません。
この福元屋には宿泊者専用の家族風呂もあって、母屋にある切石のお風呂、「隠り国の湯(こもりくのゆ)」や、別棟のでで、館主自ら切り出した石を「三和土」で固めて造ったという「切り出しの湯」があり、適温で入浴できるようにもなっているが、やはり「壁湯」のイン パクトにはかなわない。
初夏になるとホタルの乱舞を見ることができるというこの「壁湯」、浸かっている間は寒いようにも感じるが、湯あがりこそ真骨頂。次第にホカホカと温かくなってくるし、しかもなかなか冷めてこない不思議な感覚が訪れます。
川のせせらぎをBGMに、ぬるめのお湯にゆったりと身を委ねる至福…日頃の細事などすっかり忘れ去ることができるようです。九州の名湯たる底力を感じずにはいられません。
大分空港からリムジンバスで1時間足らず、別府駅から路線バスで1時間ほど。由布岳の麓、JR久大本線・由布院駅の一帯にある由布院温泉は、温泉湧出量、源泉数ともに全国2位の豊富な湯量を誇る温泉地です。
開発規制により高層の巨大旅館・ホテルはなく、また、ネオンサインの煌く歓楽街も存在させないまちづくりを行ってきたため、玉の湯、亀の井別荘をはじめとして高級旅館が数多く立地しています。
温泉のみならず、由布院駅から温泉街の方向に延びる「由布見通り」や、そこから金鱗湖に続く「湯の坪街道」には、しゃれた雑貨屋やレストランが並び、周辺には各種の美術館が点在するなど、人気の観光地でもあります。
特に女性に好まれるリゾートであるこの由布院にも、昔ながらの共同浴場が存在しています。湯の坪街道からほんの少し脇に入ったところ、あの有名な玉の湯のすぐそばにある共同湯です。
木材と石畳で造られた浴室は落ち着いた空間となっており、高級共同湯といった感じです。
ここは地元の人たちが共同管理する浴場のひとつで、ここは外来の客に一般開放しているものの、時間帯によっては地元の人のみの利用となります。料金は200円を賽銭箱に入れる方式。
お風呂は男女別で脱衣所もある。上部は木質、下部は石張りの浴室に、長方形、浴槽がある以外なにもありません。掛け流しのお湯は臭いもなく澄明。クリアーな浴感の単純泉だが、満たされたお湯はやや青みを帯びているように感じます。
熱すぎず温すぎずの適温に保たれているのは、地元の方がこまめに管理されているからなんでしょう。実に旅行者に優しい共同温泉ですね。
・場所:久大本線・由布院駅
・泉質:単純温泉 64℃
・訪問日:2013年9月25日
由布院からは九州横断バスで1時間10分ほどの筋湯入口BSが最寄り。熊本空港からレンタカーなら「やまなみハイウェイ」を1時間半ほどのところ。九重の山裾に広がり、阿蘇の雄大な景色を一望できる瀬の本高原にある温泉リゾートホテルです。
この辺りはあの有名な黒川温泉にも近く、大分県と熊本県の県境近くに広がる「COCO VILLAGE(ココヴィラージュ)」と称する高原リゾートで、フレンチレストランやスパ、ギャラリーなど、安らぎと癒しを与えてくれる個性あふれる施設が集積した、ちょっとリッチなエリアです。その中で最大の8000坪もの敷地を擁しているのがこの「界 阿蘇」なんですね。
このホテルで特筆されるのが、敷地内に点在する12の客室はすべて離れで、しかも全客室に源泉かけ流しの露天風呂がついていること。宿泊費もそれなりに高いが、それ以上の価値を与えてくれるホテルだといえます。
若いスタッフに案内されて離れに入ると、実に広々とした空間。リビングには並んで5人は座れようかとの長いソファと、一人用の深いソファとオットマン。巨大な掃き出し窓の外はテラスになっていて、その向こう側は奥行きの見えない深い森が…
寝室には琉球畳の上にダブルサイズのベッドが並んでいて、白いふかふかの羽毛布団がふわっと掛かっています。寝室横のクローゼットには外着用の浴衣と、作務衣のような部屋着が用意されています。
内風呂はジャグジーです。普通の家の居間ほどはあろうかという広さのバスルームには、ふたつの洗面もあり、豊富なアメニティー並んでいます。備えられていうバスローブもふんわり柔らか、一刻のセレブリティー気分。
バスルームから屋外に出たところに肝心の温泉がある。4人は入れそうなぐらいの正方形の浴槽に、湯口から滔々とお湯が掛け流されています。お湯は無味無臭ながら、ほんの少し白濁しているようにも見える。
加温しているとのことだが、「ほんまもん」の温泉であることは確かです。肌触りはキリッとした感。ワインに例えるとシャブリのような切れ味のいいお湯ですね。
朝は鳥の鳴き声とともに、昼は森を吹き抜ける風と共に、夜には篝火の幻想的な明かりの中で…何度も何度もこのお湯を堪能させてもらいました。
結局、2泊もしたのにジャグジーは一度も使いませんでした。だって、掛け流しの温泉を眼前にしては、水道水のジャグジーなど、子供だましに感じてしまうからね。