ちょっと贅沢な夏休みを目的に、九州の温泉を巡ることが、ワタシと妻殿との恒例行事。今年はどこを巡ろうかとあれこれ思案していたが、さすがにネタが尽きてきた。
そんなときにふと思いついたのが宮崎県です。温泉の豊富な九州ではあるが、唯一、宮崎県にはこれといった温泉が無いので、今まで敬遠してきたからですね。
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ネットであれこれ調べてみると、日南市・北郷温泉のはずれに10棟の離れのみの素敵な湯宿があるではないか。早速行程を立て、夏期休暇を調整したうえで、このお宿を予約しました。
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JR日南線・北郷駅が最寄りとのことだが、駅からはけっこう距離があり、バス等の公共交通もなさそうなので、事前に到着時間を伝えてお宿の方に迎えに来てもらいました。駅で待っていてくれたのはややお年を召した上品な紳士。後で知ったのだがこの方がお宿のオーナー社長とのこと。
旧飫肥街道にまつわる由緒のレクチャーを授かりながら高級車のレクサスで山中へ、飫肥杉の生い茂る猪八重渓谷に至る細い道の終端近くにお宿のアプローチがありました。ここは2008年にオープンされたということで、それまで宮崎市内で老舗旅館を経営されていたのだが、プライベートが優先される現在のニーズに合わせて、一家ごと、この自然に富んだ猪八重渓谷の畔に移転してきたとのこと。
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車を降りて小道を進んだところにエントランスがあり、ここが管理棟。中に進むとレセプション、バーラウンジ、ショップが配置されています。バーに腰掛け、宿泊手続き とともにウエルカムドリンクのサービスがあります。
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ウエルカムドリンクは宿オリジナルの「ドライフルーツティー」、またはミニビール。ピーカンナッツが添えられています。バーカウンターの背後には渓流がさらさらと流れ、傍らの書棚にはさまざまな本とDVDが納められています。
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暫しの休息の後にスタッフの案内で離れに進みます。今回予約していたのはプレミアムスイート「花」。ビオトープに沿ったプロムナードを進むと、宿泊の並ぶエリアとなり、各棟が渓流に沿って建ち並んでいます。
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離れ専用の門をくぐり、様々な低木が植わったアルコーブを抜けると玄関となる。このプレミアムスイートは平屋造りで、広いリビングとキングサイズベッドが置かれた寝室、ダブルベッドが 二つ並んだ第2寝室、バスルーム、パウダールーム、トイレから構成されています。この広さなら家族4人でも充分。ワタシたち2人にはむしろ広すぎる…
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掃き出し窓からは猪八重渓谷を借景にしたこの棟専用のお庭と、何よりものお楽しみ、源泉かけ流しの露天風呂が設えられています。風呂には屋根が造りつけられ、これなら雨の日でも安心して入浴できますね。
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パウダールームには洗面ボウルがふたつ。アメニティも充実しています。広いバスルームから露天風呂に直接つながっており、開放感も満点。ただしバスルームのお湯は白湯なので、ワタシたちの滞在中、結局いちども浴槽にお湯が満たされることはありませんでした。
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猪八重渓谷を眺めながら湯浴みのできるこの露天風呂。大人 二人がゆったり浸かることができる広さを持ち、奥側は浅くて寝湯として浸かれるようになっています。ここは24時間、いつでも気兼ね無しに湯あみできる贅沢を味わうことができます。
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浴槽に満たされている湯は澄明で、一応掛け流しにはなっているが、加温により40~41℃くらいに調整されています。泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉。仄かな硫黄の香りとともに僅かに塩気が感じられます。北郷温泉は集中配湯で、そこから3kmほど離れたこの旅館までパイプで送られているそうで、なめらかなでマイルドな浴感なのは劣化によるものなのかもしれません。なので厳密な意味での掛け流しではないと言えます。
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とはいえ、澄み切った水と空気、さまざまな形や色の植物、鳥やカジカ の鳴き声、どこからともなく現れる虫…こんな大自然に包まれた、清澄な環境の中での入浴は快適そのもの。些細なことは忘却の彼方です。
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施設内や部屋にはところどころに置物や絵が飾られているが、それらすべてが和風のもの。モダンなインテリアにも妙にマッチしているのが面白い。これらは以前の旅館にあったものを移してきたのでしょうか。老舗旅館のDNAを感じさせますね。
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このお宿での食事は食堂棟のレストラン「BASARA」の個室で創作会席をいただくことになります。夕食は18時から20時までの間の任意の時間に行けば、専用の個室が用意されています。到着日の夕食は掘り炬燵の部屋が用意されていました。
料理の詳細は「食べログ」のレビューで詳しく紹介しています。
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このお宿は本当に周りに何もない、ただ自然があるのみの一軒宿。当初、2日目に渓谷まで外出しようかと思ったが、小雨と雷のため中止、お昼におにぎりとうどんを部屋に持ってきてくれたこともあり、結局敷地内から一歩も出ずに一日を過ごしました。
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湯に浸かる以外は何もしないという実に贅沢な時間を過ごすことができ、実に深い休息を得ました。ここは身も心も癒やす力を持ったお宿といえるでしょう。