もう何度このバスに乗ったんだろ…以前に住んでいた大和高田市の自宅近くの国道でよく見かけた、デコチンに誇らしげに新宮駅という文字が記されている奈良交通の特急バスです。いつか、このバスに乗って紀伊半島を縦断したいものだと思っているうちに、ある日、ようやく実現することができました。たまたま思いつきで乗ってみたこのバス、これ以後バスで行く温泉ひとり旅にはまり込んでいくきっかけになったのです。
近鉄八木駅とJR新宮駅の長躯168kmを、約6時間半かけて結んでいる、1日3本のこの新宮特急バスは、高速バスではなく、普通の路線バスとしては「日本最長時間走行路線」。特急と名乗りながらも、新宮市内の一部のバス停を通過するだけで、実質的には各駅停車と何ら変わりません。
近鉄電車で大和八木駅にやって来た観光客や、地元の買い物客を乗せ、定刻に八木駅前を出発、国道24号線を西へ、このあたりはロードサイド店や大きなショッピングセンターが林立していて、車の通行量も多い。大和高田市付近でバスは南下、御所市付近まではほぼ市街地です。
1時間半ほどで五條バスターミナルに到着、ここで最初の休憩です。このバスターミナルでは、この地域名物の柿の葉寿司の売店もあり、このお陰で長時間の乗車でも飢えることはありません。五条駅でJRからの乗り継ぎ客を乗せた後、ここから終点の新宮まで、特急バスはずっと国道168号線(十津川街道)を走り抜けます。
吉野川を渡り、県立五條病院を過ぎると、バス専用道の分岐点が現れるが、特急バスはバス専用道ではなく、このまま国道168号線を走ります。バス専用道は、国鉄が五條と旧大塔村の阪本を結ぶ予定だった建設中の五新線の路盤を、開通を諦めてバス専用道に転用したもので、これについてはこちらを…
この専用道分岐を過ぎたあたりから街の家並みが疎らになってくるとともに、だんだん山に入っていき、梅林で有名な賀名生(あのう)にさしかかります。ここは南朝ゆかりの場所で、後醍醐天皇の皇居のあった地。亡命政権とはいえ昔の首都。それにしても傾斜の急な土地に家が張り付いている様子は異様です。ここに住んでる人たちって、毎日が登山ですね。
短いトンネルを越えると城戸です。ここは旧西吉野村の中心で、専用道を走るバスはこの城戸が終点。ここの交差点にある信号機を最後に、後は十津川村役場前まで1本の信号もありません。五新線の建設中止のために存在意義のなくなった廃墟の橋を見ながらさらに上へ、天辻峠を目指してバスのエンジンが唸ります。
そして、登りきったところに新天辻トンネルが口をあけています。「新」といっても昭和34年完成のかなりのベテランで、トンネル断面も狭く、大型車同士がようやく対向できる程度の幅しかありません。この峠が分水嶺で、後は新宮まで延々上流から河口へ天ノ川(十津川)に沿って下るだけです。
広大なダム湖が見えてくると阪本。ここはもし五新線が開通していれば終点となるところで、貫通したまま放っておかれた鉄道トンネルの開口部があります。鉄道としての存在価値を失ったこのトンネル、現在は宇宙線の影響を受けない地中深い環境を生かし、大阪大学核物理研究センターがニュートリノの研究を行っているとのこと。まあ少しは役に立っているようです。
実に狭いトンネルで猿谷ダムの横をを越えると旧大塔村役場です。この大塔や宇井のあたりでは、急峻な山に民家がへばりついていて、恐ろしく狭い道を大型のバスがギシギシと抜けていく。運転士のプロの技を見ることができます。
宇井の手前では大規模な地すべりがあったため、数年間は対岸の県道を迂回していたが、2008年に復旧工事が完了し、現在、迂回はなくなっています。この地すべりは、崩れ落ちる様子が撮影されており、国土交通省近畿地方整備局のサイトでも公開しています。リアルに地面が崩壊する様はかなり貴重!
城門トンネルを抜けると、ここから十津川村です。といっても、ここから村の中心にまではまだまだ遠い。なにしろ日本一広い村だからね。十津川村に入るとともに、川の名が天ノ川から十津川に変わります。バスは上野地バイパスを通らずに、上野地の集落に分け入り、ここで再びの休憩。
この休憩の間を利用して、全長297m、高さ54m。鉄線橋としては日本一の長さを誇る「谷瀬の吊り橋」のスリルを味わうこともできます。ただし、この橋を渡り切ってしまうと、バスの出発時刻に戻ってこれなくなるので必ず途中でUターンのこと。
この辺りの河原が広いのは明治22年の大水害で、山崩れによって土砂が堆積したためとのこと。この水害はかなり悲惨のものだったらしく、168人もの死者を出し、僅かばかりの農地失った村民は新天地を求めて北海道に移住し、新十津川村(現在は新十津川町)となりました。ちなみに、この洪水で川の下流の中洲にあった熊野本宮は全壊し、現在は丘の上に再建されています。でもまあ、このへんの経緯は、司馬遼太郎の「街道をゆく」での格調高い文章で味わってもらったほうがいいかも。
十津川街道をさらに下ると、川幅が広がって水を湛えるようになってくる。風屋ダムです。九十九折の坂を下ってダムの根元を通り抜けると、2車線の快適な道になり、バスのスピードも上がります。
トンネルを2つ、3つ越えたら十津川村役場。ここに十津川村に1箇所しかない信号機と、湯泉地温泉があります。ここで途中下車して温泉を楽しむこともできます。
続く…
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