近鉄・吉野線の下市口駅より奈良交通バスに乗って下市本町BSで降りてすぐのところ。ちょうどいい時間のバスがなけりゃ、駅から直接歩いても20分はかかりません。吉野川に架かる千石橋を渡ってさらに南へ5分程、天川方面に向かうバスの走る国道309号線の、ひと筋東側の旧街道にある鮎鮨の老舗です。
昭和のまんま、時間が止まったかのようなひっそりとした街道筋に、ベンガラ赤壁のひときわ立派な木造3階建ての建物が威容を誇っているが、それもそのはず。ここは創業800年あまり、歌舞伎「義経千本桜」の三段目、「鮨屋」にでてくる「釣瓶鮨」そのもの。清盛や義経が跳梁跋扈していた時代から続く老舗中の老舗なんですね。
予約した時間よりかなり早めに着いてしまったので、玄関から入ってすぐの小部屋でしばし小休止、建物にも増してこのお部屋も調度も実にクラシックです。
しばらくしてから若女将と思しき方の案内で3階の広間に通されました。この広間、ざっと30畳はあろうかと思える広さで、奥にひと組の先客がいてはりました。
窓からは崖にしつらえた山庭が一望。こんな急斜面に手入れの行き届いたお庭を維持するのは大変そうです。
ここでいただくのは当然ながら鮎。鮎の懐石料理もあったんだが、予約時にお料理の内容を伺って「鮎の姿焼き定食」(4,095円)にしておきました。前菜は鶏の冷製、カラスミ、鮭のチーズ焼き、スカンポ(イタドリ)の炊いたん。カラスミはねっとりしていて上質のチーズのよう。スカンポ、これは珍味ですね。
鮎の塩焼き、この日は天川の天然鮎、やや小さめのものが2尾。北大路魯山人は「鮎は腸(はらわた)を食す物なり」と言ったらしいが、今まで食べてきた鮎の概念を吹き飛ばすぐらいの内臓の旨さ。天川の清流にある藻を餌としてきた天然鮎は、その腸の苦みの内側にある旨みが一気に広がってきます。
鮎の唐揚げ野菜あんかけ。これは低温で二度揚げしたのかな?骨までしっかり火が通っていて、頭からがぶりといただける。香ばしく揚がった鮎に中華風、というか普茶料理風の餡との相性がいいですね。塩気の強いしっかりした味付けは、このお料理の流れの中で変化球のひと品。
焚き合わせは里芋、オクラ、冬瓜等の冷製。薄味で上品な仕上がりです。
鮎寿司は「焼鮎ちりめん山椒鮨」です。本来の釣瓶鮨は一種の熟れ鮨だが、今はなかなか熟れ鮨が受け入れられないので、焼き鮎の箱鮨になっています。実はこのお店に来ようと思った動機がこのお鮨なんですね。阿倍野の近鉄百貨店に「弥助」のショップがあってそこで買ったお鮨が旨くて旨くて。ならばいちど本店に行ってみよう…っと思ったのが今回のきっかけです。しっかり熟成したお鮨は鮎の風味が鮓飯に移っていて、山椒の爽やかさと合わさって絶妙の旨みを醸しています。
お味噌汁もいい出汁が出ています。具はあんぺいかな?
最後に水菓子です。わらび餅が秀逸。食事の途中、若大将がいろいろお話しくださいました。大滝ダムの工事が鮎に及ぼした影響とか…ここの亭主は代々「弥助」を名跡されるので、この方は次代の「弥助」さんなんですね。
歌舞伎によって広く世間に知られた吉野のお鮨は、屋号としても全国に広がりました。食べログで「弥助」や「吉野」を検索してみたら出るわ出るわ…これらのお店のいわば総本山でいただいたお料理は、実に重みのあるものだと思います。
昼総合点★★★★☆ 4.5 <script src="http://tabelog.com/badge/google_badge?rcd=29000995&user_id=100698" type="text/javascript" charset="utf-8"></script>