真冬のある日、突然のお休みが取れたので例によってひとり旅にでることにしました。なにぶん突然なのであまり遠くには行けない。なので近場、奈良県天川村の洞川温泉に決めました。早速、宿の予約状況をインターネットで検索することにしたものの、平日なのにどこも満室と表示されています。ようやく1軒の空室を見つけ、電話予約でこの日の宿を確保しました。よほどの混雑なんやろか?いささか警戒しながら近鉄の吉野特急に乗って、吉野の手前、下市口で降りました。
下市口で待っていたのは奈良交通の洞川温泉行きのバスです。車両は小型バスのベストセラー、日野のリエッセです。しバスは下市町の街中の細い道を抜けると、すぐに山岳路線となります。
国道309号線はバイパスが整備されていて、一般車はバイパスと長大トンネルで一気に抜ける。しかしバスは旧道で峠越え。急坂をぐんぐん上昇してサミットへ。てっぺん近くはシーズンに多くの観梅客が訪れる広橋梅林です。ここから急激に下り、やがてバイパスと合流すると黒滝村です。
黒滝村でもバイパスが整備されているが、バスは律儀にも旧道を走ります。丹生川の村落を過ぎると再び山を登ります。しかし今度はバイパスの長大トンネルを抜けます。ふたつの長ーいトンネルを抜けると天川村。この村の中心地である川合で降りました。川合は「みたらい渓谷」の出発点。この渓谷はハイキングコースも整備されています。近鉄の発行する「てくてくマップ」を見ながら、日ごろの運動不足を少しでも解消するために、洞川まで歩くことにしました。
みたらい渓谷は秋には紅葉で美しいらしいが、今は真冬。なので景色の色合いも単調です。しかし、こんなモノクロの風景の中に、エメラルド色の流れが美しさを主張します。この天ノ川が十津川を経て熊野川に名を変えて新宮まで流れていくと思うと、紀伊半島の雄大さに畏敬が深まります。
天ノ川が三つに分かれるところがこの渓谷のハイライト。吊り橋と滝という絶景ポイントです。しかしオフシーズンなので誰もいない。歩きやすい平坦なハイキングコースはここまで。ここから延々登りです。
そして足元は雪に覆われてきて歩きにくくなってきました。日ごろの運動不足がたたって息も絶え絶えです。そういえばここに来ることを誰にも言ってなかったなぁ…誰もいない、携帯の電波も通じない雪で滑りやすくなったこの道で、もし足を踏み外して谷底に落ちたとしても、冬の間中は誰からも発見されないのとちがうやろか…
雪が深くなってきたのでハイキングコースを断念し、県道を歩くことにしました。時折すれ違う車の運転手もいぶかしげ。この時期、こんなところを歩く阿呆はいないのでしょう。やっとのことで洞川の町に到着。しかし人影はない。ここでようやく、どの旅館も満室だった意味を理解しました。オフシーズンの冬場は営業していないのです。
洞川は修験道の行者たちの宿場として、江戸時代中期に開かれた歴史ある温泉です。以来、厳しい修行を終えた行者が、世俗に戻る前に湯に浸かって疲れを癒す、いわばリハビリ施設として今日まで栄えてきました。また、大峰山秘伝の胃腸薬「陀羅尼助丸」の生産地として知られていますね。
宿泊の旅館は「あたらしや旅館」です。今夜の宿泊はワタシひとりのようです。部屋の窓から見える龍泉寺は、突然降り出した雪でを真っ白に変えられてしまいました。
料理は山の幸がメインです。なかでも自然薯うまうま。宿のお風呂も掛け流しではありません。しかも加温しています。しかし、小さい旅館にしては大きめのお風呂。燃料費もかさむことでしょう。ひとりの宿泊客のためにお湯を温め続けるこの旅館の姿勢には頭が下がります。
翌朝、前日からの雪で一面真っ白なままです。バスは早朝出発しかないのだが、なにぶん早朝のこと、除雪も行われていないので歩いてバス停に行くのは困難です。親切にも宿の主人がバス停まで軽トラで送ってくれることに。ツルツルに凍結したバス停にはバスが待っていました。今回は短い旅だったが、こんな近くで雪国体験ができるなんて…いやぁ、これは知りませんでした。
- 訪問日:2005年2月25・26日