児玉清さんがシュテファン・ツヴァイクの本を読んで感動したということを書いておられたので、読んでみようと思いました。この本は「過去への旅」と「チェス奇譚」の2作が掲載されています。
「過去への旅」は愛し合う二人の男女が別れ別れになり、女性は子供を身ごもっていましたが、一人で産んで育てます。男性はそのうち違う女性と結婚します。長い年月の後再会しますが、元に戻ることはできませんでした。
ネットで検索していたら「忘れじの面影」(1948年、アメリカ映画) - 原作:小説「未知の女の手紙」シュテファン・ツヴァイクが出てきたのでアマゾンプライムで観ました。こちらも女性が私生児を育てて、何年も後に愛した男性と出会うお話でした。女性の一途さがいいなと思いました。先日読んだ高田郁作「あいー永遠にあり」の中で関寛斎が放った言葉
「ひとの一生とは生れ落ちて死ぬまで、ただひたすらに一本の道を歩くようなものだな。どれほど帰りたい場所があろうとも決して後戻りはできぬ。別れた人と再び出会うこともない。ただ前を向いて歩くしかないのだ」を思い出しました。
「チェス奇譚」はヒトラーの時代にユダヤ人が取り調べられ、チェス中毒になり、偶然チェスの世界チャンピオンとチェスをすることになったお話です。
取り調べと言ってもベッドと洗面台がある部屋で食事は毎回与えられ、拷問を受けるわけではありません。窓のない部屋で、筆記用具も何もない部屋で、時間も何日かもわからず過ごすのは拷問より辛いと書かれています。そんな時にチェスの本を見つけて盗みました。本を読んでいるところを見つかると罰を受けるので盗み見ては頭でシュミレーションして覚えてとうとうチェスの達人になり、チェス中毒になってしまいます。興奮して倒れてお医者さんに診てもらって釈放されますが、お医者さんからは2度とチェスをしないようにと忠告されました。ある日、船の中で偶然世界チャンピオンとチェスをする機会があり、狂ったようになる病気の症状が出ます。幸い元に戻って普通の温和な人になりました。この本を読んで、拷問にもいろいろなものがあり、本当に残酷で、人間ではなくなるのだなと思いました。チェスはしたこともないのでルールも知りませんが、「中毒」になるほどするのは脳の同じ場所を使うので脳が壊れるのかなと思いました。このような本を読んだのは初めてだったのでのめりこみました。題名通り奇譚ー奇妙なお話でした。本の裏表紙にツヴァイクの言葉が書いてありました。
...ein Denken, das zu nichts fuhrt, eine Mathematik, die nichts errechnet, eine Kunst ohne Werke eine Architekture Substanz und nichtsdestominder erwiesenermassen dauerhafter in seinem Sine und Dasein als alle Bücher und Werke... Stefan・Zweig
...何にもつながらない考え方、何も計算しない数学、作品のない芸術、実体のない建築、それにもかかわらず、すべての本や作品よりもその存在と存在において永続的があることが証明されています・・・ シュテファン・ツヴァイク
シュテファン・ツヴァイクさんは60歳で自殺されています。いろいろなことに絶望されて、本当に残念だと思いました。
2021-11-8(月) 図書館資料 請求番号:943/ツヴ