先日福井へ行きました。それを知った友達がこの本を薦めてくれました。作者の谷崎由依さんは福井県生まれで、この小説は福井が舞台です。福井に行ってきたところですぐ目の前に風景が広がり、まさにタイムリーに読むことが出来ました。大正から昭和初期にかけてのお話です。貧しい農村に生まれた西野絵子は両親に反発して家を追い出されました。題名「遠の眠りの」は
長き世の、遠の眠りのみな目覚め、波乗り舟の、音のよきかな
前から読んでも後ろから読んでも同じの回文和歌になっています。「ながきよの、とおのねむりの、と船出して、めざめ、で折り返して、戻ってくる。出発したその場所へ、ふたたび」と書いてあります。絵子は家を追い出されても最後にはふたたび戻ります。10代の女の子が1人で生きていくのは大変なことですが、人絹工場の女工として働いて、その後福井に初めてできた百貨店に雇ってもらえました。私は福井駅前の百貨店の赤茶けた写真を見てきたところで、本を読んで目の前に浮かび、写真に命が吹き込まれた気がしました。絵子は百貨店に併設された少女歌劇団の脚本「はごろも」を書きました。朝ドラで「ブギウギ」が放映されていて、本を読みながらその映像も出てきました。それでは楽しい物語かというとそうではなく、切ない切ない物語です。テレビ番組「ブラタモリ」でも福井県敦賀市を取材されていました。「すべての道は敦賀に通ず」というタイトルでした。こちらもタイムリーです。11日(土)も「鯖街道」を取材されるようです。福井旅行は完結していたのですが、こうしてどんどん繋がっていきました。
今いくらでも好きな本を読める恩恵は過去の女性運動の苦労の上に成り立っているのだと思いました。今ある幸せに感謝せずにはいられないような物語でした。まだまだこの幸せに甘んじていないで次の時代に伝えなくてはいけないことが沢山あると思いました。教えてもらってありがとう。
2023-11-10(金) 図書館資料 請求番号:913/タニ