ガーシーには嫌悪感が先に立つほどだった私ですが、ガーシーのおかげで救われたという人もいたのですね。
また彼は家族思いで、母や妹には今でも慕われているようです。
ガーシーについて、好奇心がわきました。
ガーシーはどのように育ったのでしょうか。
彼なりの正義とはいったいどういうものなのでしょうか。
そこで、ガーシーの自伝的な本があるというので読んでみました。
ガーシー(東谷義和)『死なばもろとも』(幻冬舎、2022.07)
かいつまんで読んでみたいと思います。
(目次)
□序章 ジョーカー誕生
□第1章 逃亡者
□第2章 しゃべりだけで成り上がる
□第3章 芸能界への扉
■第4章 アテンダーという裏稼業
□第5章 酒と女とカネと反社
□第6章 死なばもろとも
□第7章 社会の不満が生んだ怪物
第4章 アテンダーという裏稼業
□アテンダーは黒子に徹しろ
□山下智久と亀梨和也はハメられた
□女性タレント9人の中絶もアテンド
□芸能人を盗撮・盗聴する女は許さない
□週刊誌記者から守るアテンド術
□アテンダーになる方法
□人のためにキレられるか
□努力しない女は港区から去れ
□バーで夢を売る技法
■すすきののホステス嬢を87人喰った
■みかじめ料とすすきの
■大阪・北新地のケツモチヤクザ
■豪快だった大物演歌歌手
□賭博ゲーム大国・沖縄の自由度
□関東連合60人が店にやってきた
□ウーロン茶5杯で10万円 ・関東連合から渡されたピン札
□プロ野球選手とJリーガー
□小出恵介をハメた美人局の正体
すすきののホステス嬢を87人喰った
六本木のMACCAが軌道に乗ると、札幌のすすきのに進出してMACCAの支店を出した。もともと俺はすすきのが大好きやったし、東京の次はすすきのに進出したかったんや。
MACCAすすきの店はサパー (supper=男性スタッフが接客するナイトクラブ) や。ここは女の子やなく、男が客を盛り上げる店やった。せやから、店にカネを落としてくれる客(女の子)を力ずくで集めてこなアカンかった。
アメリカザリガニ(お笑いコンビ)の平井善之の後輩に、芸人を辞めて暇そうにしているヤツがおった。のちに三浦翔平の取り巻きとなった一人や。そいつを店長にして、芸人上がりをもう一人投入し、イケメンの元ホストもいっぱい従業員として雇って店を作った。俺はそいつらに猛烈な営業をけしかけた。
「お前ら、とりあえずすすきのじゅうの女を喰いまくれ。枕営業しまくってかまへん。ガンガン女を喰って、ガンガン店に女を呼ぶんや」
そうけしかけて猛烈に営業をかけさせたら、MACCA すすきの店がメチャクチャはやった。夜の繁華街には、風俗嬢やホステスの顔写真やプロフィール、店の名前が紹介してあるフリーマガジンが必ず置いてある。ネット時代の今は「ホスラブ」という掲示板サイトがあるけど、昔はホストやホステスは紙媒体で宣伝し、店に呼びこんでいたわけや。
夜の街のフリーマガジンには、かわいい子が大勢載っとる。その子らの店に次々と突撃した。俺自身、1年間ですすきののホステス嬢を87人喰った。その子らと仲良く なって、MACCAすすきの店の客として呼びこんだんや。
「東京から来た関西弁のヤクザが、すすきのの女を喰いまくってるぞ」
すすきのの風俗店やキャバクラの間で、たちまちMACCAすすきの店の悪評が響き渡った。
みかじめ料とすすきの
もしかしたら今も変わってへんかもしれんけど、当時のすすきのはヤクザにみかじめ料を払わなければ店なんてやれんかった。みかじめ料を払わなければ、腕に入れ墨をした怖いお兄さんが毎日店にやってくる。客は怖がって帰ってまう。月々のみかじめ料さえ払えば、そない嫌がらせはピタッと止まる。
俺が店を出すより先に、友だちがすすきのでニュークラブ(札幌ではキャバクラのことを「ニュークラブ」と呼ぶ)をオープンしておった。その友だちに地回りのヤクザを紹介してもらい、みかじめ料を払って店のケツモチをしてもらっとったんや。
「それみろ。ガーシーは反社やないか」なんて脊髄反射せんといてくれ。ヤクザ者にみかじめ料を払わなければ、店なんてやれん時代がついこの間まであったんや。「暴力団を街から追放せよ!」なんてきれいごとは、PTAのオバハンに任せとけばええ。ケツモチがいなけりゃ、夜の街で経済活動ができんのやからしゃあない。
ちなみに、当時のみかじめ料は1軒あたり毎月3万円や。そのほかに、盆暮れ正月のつきあいごともある。夏場は甲子園の野球大会があるから、野球賭博に参加してケツモチに現金を落とすつきあいごとが習わしや。
「今日はオヤジ(組長)の誕生日や」と言われたら1万円を渡す。正月には「門松代 です。新年からも引き続きよろしくお願いします」と言って3万円のご祝儀を渡す。それをすすきのじゅうの店が全部やってるわけやから、ヤクザが得る毎月の収益はものすごい。こんなものに領収書なんて発生せえへんから、全部無税の収入や。
あのころの札幌は、ヤクザのほうが警察より力が強かった。ヤクザが乗っている車のナンバープレートを、警察は全部控えている。違法駐車していようが、事件が起き検問があろうが、警察はナンバープレートを見てヤクザの車だけには手出ししない。袖の下を渡して、ヤクザと警察が結託しとったんやろうな。
みかじめ料を払わず抵抗する飲み屋があると、ヤクザが客として嫌がらせに来る。泥酔したフリをして難癖をつけて、店の中で暴れることもある。店長がたまらず110番通報しても、警察はすぐには来てくれへん。
「民事不介入」と言って、明らかな暴力を振るわれるまでは警察は動いてくれん。 「お前らがみかじめ料を払わんからアカンのや」と言わんばかりや。すすきのはそれ くらいムチャクチャな街やった。
東京はだいぶ前から、ヤクザより警察のほうが力が強い。ヤクザ者との揉め事が起きたら、普通に110番通報すればいいだけの話や。夜の街の住人たちは「横浜とすすきのだけは、ヤクザのほうが警察より強いわ。ポリの連中、なかなか動いてくれへん」言うてた。今はどうか知らんけどな。
大阪・北新地のケツモチヤクザ
ヤクザと夜の街の関わりは、地方によってだいぶ異なる。大阪やと北新地のキャバクラは、ヤクザのケツモチがついてるとトラブルに巻きこまれん。ケツモチがついてないバーやと、ヤクザが普通に客としてやってくることがある。
ちょっと反社っぽい人がいるだけで、ほかの客が嫌がる。せやから俺は店長に「ちょっとでも変なことがあったら、すぐ警察呼べ」と言い聞かせてた。
あるとき大阪で店を任せてた店長から、あわてた様子で電話がかかってきた。
「ヒガシさん、ウチの店の者がさらわれちゃいました!! どうしましょう」
「アホ! 俺に電話する前に、まず警察に電話せえ!」
そのとき俺は東京にいたから、大阪に駆けつけようにも時間がかかりすぎる。警察からその従業員に電話してもらったら、そいつは無事やった。その従業員は、たまたま店にやってきたヤクザの後輩やったらしい。
「すみません。さらわれたわけじゃないんですよ。違う店に飲みに行こやと誘われて、今は別の店で飲んでます。大丈夫なので安心してください」
「お前、心配するやろ」
そんなやり取りをしてホッと一安心やった。
「ウチの店の敷居はヤクザにはまたがせない」というルールを徹底させないと、要らんトラブルの火種になる。ヤクザを嫌がる店は多いから、連中は息抜きする場所がない。「自分らもここで酒飲んで大丈夫なんや」と一人に思われたら、どんどん別のヤ クザが店に来よる。せやから、ヤクザがやってきたときにはビビらず対応するほかな い。
「お客さんすみません。ほかの者が怖がりよるんで、今日のところは引き取ってもら えませんか」
そう丁重にお願いして、出禁リストに入れる。キッパリと対応すれば、ヤクザもわかってくれる。
豪快だった大物演歌歌手
すすきので店をやっていた当時、俺の兄貴分やった人から細川たかしさんを紹介してもらった。細川さんは北海道出身やから、すすきのでパーッと遊ぶのが大好きやった。昔の演歌歌手はムチャクチャ羽振りが良かったから、細川さんがMACCAに来てくれたときは昭和の日活スターみたくドンチャン騒ぎや。なにしろ一晩で200万円も使ってくれはった。あの人は俺のことを「マッカ」と呼んどったな。
細川さんは、開けっぴろげで豪快なスターやった。
「マッカ、お前どこにケツもってもらってんだ?」
「××です」
「お前、そこじゃダメだろ。俺が紹介してやっから。これを拡大コピーして、額に入れて飾っとけ。そうすりゃ誰もお前の店に口出しできないぞ」
細川さんが俺に渡したのは、某大手組織の名刺や。
「いやいや、こんなすごい人がケツモチだなんて言ったら、逮捕されるんで無理です。勘弁してください」
「なんだお前、一番強いぞこの名刺」
「そういう問題じゃないです」
丁重にお断りして、名刺はお返しした。その当時、俺がケツモチを頼んでいたのはその傘下にある組やった。その人にみかじめ料を払い、盆暮れ正月のおつきあいも欠かさなかったから、MACCAすすきの店はややこしい揉め事になんて一切巻きこまれんかった。「お前の店にはヤクザは行かさないからな」と言われ、ヤクザなんて誰も店に来たことはない。
【解説】
ヤクザ者にみかじめ料を払わなければ、店なんてやれん時代がついこの間まであったんや。「暴力団を街から追放せよ!」なんてきれいごとは、PTAのオバハンに任せとけばええ。ケツモチがいなけりゃ、夜の街で経済活動ができんのやからしゃあない。
芸能人とのコネを当てにして、風俗業に進出したガーシーは、ケツモチヤクザとも仲良くやっていた、ということです。
獅子風蓮