15年勤めた証券会社を辞める時のお話。
以前紹介したアル中支店長や腑抜けの筆頭副支店長の差し金で、支店から程遠く資金もあまりなさそうな総武線小岩駅にある小さな「履物屋」さんを引き継ぐこととなりました。
初回訪問前に過去の取引記録や現在の残高や保有銘柄をチェックして分かったことは「あ~ こりゃ前任者や前々任者にいいようにされてた」で、「こりゃあ揉めるなあ」という予感がありました。
所謂どれもこれも「シコリ玉」の「塩漬け」銘柄ばかりで、訪問記録や面談記録もゼロ。アル中支店長の杜撰な営業管理に呆れるばかり。
さて、問題は初回訪問です。アポ取りの電話から今まで積み重なった不誠実さが一気に爆発しそうな剣呑な対応をされましたが、とりあえず行くしかありません。
問題の「履物屋さん」は小岩の商店街の外れにあり、門構えからして今にも朽ち落ちそうな気さえします。「こんな商売で儲かっているのかなあ~。」と思いながらギシギシと軋む戸を無理やりに滑らせて中に入ります。
「ほうほう、そうなのか!」履物屋さんはオーダーメードの下駄屋さんでした。確かに総武線沿線は相撲部屋がいくつかあるはず、下町でお祭りも盛んでしょうから、下駄や雪駄はそれなりに売れるのかもしれません。
そうしてお会いしたのは口の悪い「大奥様」でした。まずは滔々と歴代担当者の文句を延々と聞く羽目になり、ようやくそれが収まった頃に「お嫁さん」がお茶を出してくださいました。
そしてお嫁さんを交えて今後どうして損を少なくしていくかを説明していきます。その繰り返しを何度かの訪問で納得してもらいながら「大奥様」と距離を詰めていきました。
ある日、「アンタ。靴と靴下脱いでみな!」と言われ下駄の材料の木材に足を置かされました。(え?もしかして下駄買わなきゃならいのかな・・・・)とビビッていたら、その日はそれでお終い。また或る日にはいくつかの鼻緒のサンプルを足の甲に当ててくれたりあしました。(いよいよ買わねばならぬか・・・。オーダーの桐の下駄っていくらなんだろう・・・)。
約2カ月ほどかけて納得して頂きながら投資信託の入れ替えを行って、今までの損も徐々に回復し、先行きに若干の光が見え始めた頃に電話で退職の話をしたのです。
大奥様「会社辞める前に必ず一回ウチに寄るんだよ!」と相変わらず厳しい物の言い方でしたけれど。そして退社日の前日に挨拶に行ったところ、大奥様は無言で大きな箱を私に押し付けるのです。
「履いてみな!」とやっぱりつっけんどん。横でお嫁さんが「朴さんの退職祝いなんだって。」と大奥様をちらりと見ると、大奥様は「大事にずっと履いてくれよ!」と照れて下を向いてしまいました。私が辞める辞めないにかかわらず、プレゼントしてくれようとしてたんです。
突然のサプライズに私も嬉しくて、その場で直ぐ履かせて頂きました。「スーツに下駄」なかなかいいもんですよ。足元から暖かくて守られているような気がして、本当に嬉しかったなあ。オーダの下駄って粋ですし。
歌舞伎町のオネエとはまた違う別れ方でしたけれど、どのお客様の気持ちも本当にありがたい限りです。
さて、下駄を支店に持ち帰ると「お~なんだその箱は?」とアル中の支店長。「小岩のお客様からのお餞別です。」と説明すると、もう私に興味のない支店長「フン!」と鼻を鳴らしながら、マグカップで隠し飲みしている「いいちご」のお湯割りを美味そうに啜るのでした。
以前紹介したアル中支店長や腑抜けの筆頭副支店長の差し金で、支店から程遠く資金もあまりなさそうな総武線小岩駅にある小さな「履物屋」さんを引き継ぐこととなりました。
初回訪問前に過去の取引記録や現在の残高や保有銘柄をチェックして分かったことは「あ~ こりゃ前任者や前々任者にいいようにされてた」で、「こりゃあ揉めるなあ」という予感がありました。
所謂どれもこれも「シコリ玉」の「塩漬け」銘柄ばかりで、訪問記録や面談記録もゼロ。アル中支店長の杜撰な営業管理に呆れるばかり。
さて、問題は初回訪問です。アポ取りの電話から今まで積み重なった不誠実さが一気に爆発しそうな剣呑な対応をされましたが、とりあえず行くしかありません。
問題の「履物屋さん」は小岩の商店街の外れにあり、門構えからして今にも朽ち落ちそうな気さえします。「こんな商売で儲かっているのかなあ~。」と思いながらギシギシと軋む戸を無理やりに滑らせて中に入ります。
「ほうほう、そうなのか!」履物屋さんはオーダーメードの下駄屋さんでした。確かに総武線沿線は相撲部屋がいくつかあるはず、下町でお祭りも盛んでしょうから、下駄や雪駄はそれなりに売れるのかもしれません。
そうしてお会いしたのは口の悪い「大奥様」でした。まずは滔々と歴代担当者の文句を延々と聞く羽目になり、ようやくそれが収まった頃に「お嫁さん」がお茶を出してくださいました。
そしてお嫁さんを交えて今後どうして損を少なくしていくかを説明していきます。その繰り返しを何度かの訪問で納得してもらいながら「大奥様」と距離を詰めていきました。
ある日、「アンタ。靴と靴下脱いでみな!」と言われ下駄の材料の木材に足を置かされました。(え?もしかして下駄買わなきゃならいのかな・・・・)とビビッていたら、その日はそれでお終い。また或る日にはいくつかの鼻緒のサンプルを足の甲に当ててくれたりあしました。(いよいよ買わねばならぬか・・・。オーダーの桐の下駄っていくらなんだろう・・・)。
約2カ月ほどかけて納得して頂きながら投資信託の入れ替えを行って、今までの損も徐々に回復し、先行きに若干の光が見え始めた頃に電話で退職の話をしたのです。
大奥様「会社辞める前に必ず一回ウチに寄るんだよ!」と相変わらず厳しい物の言い方でしたけれど。そして退社日の前日に挨拶に行ったところ、大奥様は無言で大きな箱を私に押し付けるのです。
「履いてみな!」とやっぱりつっけんどん。横でお嫁さんが「朴さんの退職祝いなんだって。」と大奥様をちらりと見ると、大奥様は「大事にずっと履いてくれよ!」と照れて下を向いてしまいました。私が辞める辞めないにかかわらず、プレゼントしてくれようとしてたんです。
突然のサプライズに私も嬉しくて、その場で直ぐ履かせて頂きました。「スーツに下駄」なかなかいいもんですよ。足元から暖かくて守られているような気がして、本当に嬉しかったなあ。オーダの下駄って粋ですし。
歌舞伎町のオネエとはまた違う別れ方でしたけれど、どのお客様の気持ちも本当にありがたい限りです。
さて、下駄を支店に持ち帰ると「お~なんだその箱は?」とアル中の支店長。「小岩のお客様からのお餞別です。」と説明すると、もう私に興味のない支店長「フン!」と鼻を鳴らしながら、マグカップで隠し飲みしている「いいちご」のお湯割りを美味そうに啜るのでした。