先月の帰省時のこと
時間つぶしに地元シャッター通りを感慨深く歩いていると、小学校の時によく買い食いした「鯛焼き屋さん」を見つけました。
昭和40年代から50年代半ばまで大いに栄えた輪西町は、鉄冷えと共に閉店する商店が続出。その中で「鯛焼き屋さん」だけは細々と商いを続けていたのです。
素晴らしいことです。やはり「粉モノ」は儲かるんだなぁ。
懐かしくて一個買ってみました。小学生時には一個30円だったかな。
うん、やはり東京で食べるタイ焼きの方が数倍美味い!でも、懐かしい味だから許しちゃうもんね。
この懐かしいタイ焼きを食べながら、「憲ちゃん鯛焼き屋事件」を思い出しました。
憲ちゃんは近所に住む処世術に長けたたくましくエグい幼なじみです。
タイ焼きって必ず「耳」というのか「縁(ふち)」っていうのが出ますよね。
溶いた粉を型に流し込むとどうしても粉が溢れてしまいますが、そのまま焼くとタイ焼きのシェイプの外まで焼けてしまいます。
それだと売る時に格好が悪いので、はみ出て焼けた部分を切り取ったり、そぎ落としたり。それが「耳」なんですよ。
ある時、憲ちゃんはその「耳」を大量にビニール袋に入れて学校に持ってきました。
私は「耳」はその時初めて見たので、それがタイ焼きから出た屑とは知らなかったのです。 甘く香ばしいいい匂いがします。
「憲ちゃん、それな~に?」
「あ、これ、タイ焼きの耳。欲しい?」
「うん、ちょっとだけちょーだい!」
「え~、勿体ないなあ。せっかく買ったのになあ。どうしようかなぁ。」
勿体ぶるところや勿体なさそうに振る舞うのはいつもの手です。
「じゃあ、朴ちゃん、あげないけど100円で売ってやるよ。」
「え~、買わなきゃならないならいらないや。」憲ちゃん少し焦ります。
「朴ちゃん、これ200円したんだけど、ヒロちゃんだから特別100円にしてあげるんだよ。買いなよ!」
としつこいことしつこいこと。
もう面倒なので「耳」を100円で買ってあげました。
そして一週間後の学校帰り、憲ちゃんとは別のクラスメイトと「鯛焼き屋さん」に寄って普通のタイ焼きを買うと、おじさんが
「お、朴君!これ耳だけどたくさんあるから持っていきな!どうせ捨てるもんだからタダだよ!」
「え~、タダなんですか?こんなにたくさんなのに?200円じゃないんですか?」
「ばか!タイ焼きが30円なのに耳だけで200円なんかするわけないっしょ。」
「だって、憲ちゃんがおじさんから200円で買ったって言ってたよ。で、僕はそれを100円で買ったんだよ!」
「え?憲の野郎そんなことをしてたのか? いつも来て鯛焼きも買わずに、なんだかんだ調子のいいことばかり吹いて耳ばっかり持っていきやがって、それを売ってたんだな?そうか、憲の野郎、そうか分かった、今度来たらぶっ飛ばしてやる!」
とおじさん怒りまくりです。
まあ、買い手の無知は良くないけれど、それに付け込んでクラスメイト相手へリスクなしの中抜き商売をやるなんて、憲ちゃん相変わらずエグいんですな。
そのビジネスモデルも調達先を失ったため直ぐに終わりとなりました。
今頃何やってるんだろうかな。
鯛焼き屋になっていたら笑えるんだけどな。