小春さんの自宅は都下のある街で大きな自動車修理工場を経営していました。
小春さんはいわゆるお嬢様なのです。
それを知ったのは10名程度の部内旅行に何台かの自家用車に分乗して出かける際に、小春さんは父君の「初代ソアラ」を使わせてくれたからでした。
自家用車がない私達若手(32年前の朴竜)チームは小春さんのソアラに乗らざるを得ない苦しい状況にありました。
小春さんの無茶苦茶で風貌通りの押しの強い往路の運転に大きな危機感を抱いた私達。
復路は私が運転してソアラを小春さんの自宅までお返しに行ったのです。
車が何十台も停められる敷地に車を付けて早々に帰るつもりの私でしたが、車を停めるなりまるで恋人のような風情で助手席にどっかりと座っていた小春さんが、シートを壊す勢いで跳ね上がり、ドアが捥げそうな腕力で和紙の如く軽く開け
「ママ~! パパ~!」と咆哮をあげるのです。「ママだってよ~!ママねぇ。」「おっかあ~!でいいじゃん。」車に残された若手は容赦ありません。
程なく「ママ」と「パパ」が挨拶に出てきて下さいました。
「あらまあ、申し訳ありませんねぇ。こんなところまで来て下さって!」予想に反してママは結構美人です。
「いつも小春がお世話になってます。我が儘な奴でしてすみませんね。」
と結構美人なママの横には小春さん生き写しのパパが愛想よく笑っています。
「ありゃあ、小春さんはパパ似なのね~」私の耳元で女性社員が容赦なく囁きます。
「あのね~パパ、こちらがお世話になっている朴さん。」
「お~ 貴方が朴さんですかあ~ いやいや、娘がいつもお世話になっています。いつも朴さんの話をしてるんですよ~。そうですかそうですか~ 貴方が朴さんですかあ。いやこれからもよろしくお願いしますよ。」
「嫌だあパパ、テヘッ!」
(テヘッじゃないだろうに、テヘッじゃ)との言葉を飲み込みながら、眩暈を感じる私。
一体、私をどのように話しているんでしょう?不安でなりません。
さて、小春さんの自宅から駅まで歩く若手チーム。
「朴さんはやっぱりモテるなあ~」
「あんなに金持ちなんだから養子に入っちゃえ!」
など、今でも昔の同僚と飲むと小春話で盛り上がったりして。