史上最強の上司の山口さんは産まれも育ちも新潟県は佐渡ヶ島。
佐渡出身の知り合いは後にも先にも山口さんひとり。やはり知り合いの中でも「鴇(とき)」の如く稀有な存在です。そして明らかに絶滅種と言える方でした。
山口さん、押しの強い顔面と押し切ってしまいそうな体型にも関わらず、ちゃらんぽらんな営業スタイルとそれを裏付けるいい加減な金融知識により、訪問先からその存在をなかなか覚えて貰えません。
山口さんを振り切ってひとりで地方銀行へ行くと必ず
「ほら、ほら誰だったっけ?え~と、山田さんだっけ?この前一緒に来た佐渡の人」
「あ、山田じゃなくて山口ですよ。」
「エッ?そうだっけ、ま、どっちでもいいや、佐渡の人で」
また、ある先では「朴さん、この前のなんかズレてる人、え~と、山中さんだっけ?佐渡の人」「あ、山口ですか?」「山口だっけ?山中さんだと思ったよ。佐渡の人」
別の先では「前回一緒に来て途中寝てた人、山城さんだっけ?ほら佐渡の人」「佐渡はあってますが、山口ですよ。」「あ、そうでしたっけ?ま、いいや佐渡の人でさ。」
と名前を覚えられないってどういうことよ?
あ、思い出した。
普通、担当者と親しくなって自分について少しずつ話しだすのって、取引先が出来る過程で少しずつこっちに傾きつつある時か、一発目の取引後だと思うんです。
でも山口さんの場合、初対面からパンツを脱いでしまうんです。
初対面なのに何故か懐いた土佐犬がいきなりお腹を見せて寝転ぶのに似ていて、なんとなく怖いんです。
「え、私。御行と取引を致したく、捲土重来を期しやってきました山口と申します。生まれは新潟県は佐渡ヶ島です。行かれたことございますか?え?ない。それはそれは鴇ぐらいしかない何もない寂しいところでして。そう佐渡です。サドマゾのサドじゃなく、新潟県は佐渡ヶ島出身の山口です。」
取引の話をするのにいきなり出身地を明かされてもどう答えていいか相手も困惑顔、加えてサドマゾと掛けられりゃ、これ山口の名前なんかインパクト弱すぎて忘れられますわ。
で、笑ってしまったのが、新潟県の第一地銀は第四銀行へ行った時のこと。
いつもの調子でサドマゾのサドじゃないと語り始める山口さん。
担当者、ちょっと苦笑して「え~、知ってますよ。支店もありますからね」と。
私、突然の眩暈にソファに横に寝かせて頂きたかったですよ。さすがに。
写真は本編と全く関係ない私の故郷。絵画のような夕暮れ