クラブボクシング@ゴールドジム湘南神奈川

普通、湘南辻堂といえばサーフィンなのにボクシングでひたすら汗を流すオッさん達のうだうだ話!

朴竜と佐藤師匠の愛おしき日々 5 番外編 尾渕さん逝く

2020年09月12日 | ちっちゃいおっさん

数年前の晦日に私や佐藤師匠の上司、支店長の部下だった尾渕さんが約半年間の昏睡の末、お亡くなりになりました。享年63歳でした。


葬儀は霙混じりの取手で行われ、本当に沢山の仲間や友人の方々が弔問に訪れ、尾渕さんのお人柄が偲ばれました。


佐藤師匠は安らかに眠る尾渕さんの頬に手を当てて


「尾渕さん!寝てる場合じゃないよ。起きなきゃダメだよ!」


と何度も呟きながら最後に号泣。私は師匠の横で固く合掌しながら心の中で「本当に本当にありがとうございました。」と静かに泣いていました。


「朴さあ。俺たち本当に世話になったよなあ。早すぎるよなあ。」師匠は取り分け迷惑掛けたし世話にもなってましたし。


尾渕さんの年齢は私の入社当時に多分38歳。

男前で気っ風がよくてオシャレで面倒見がよくて、酒の飲み方も勘定の払い方も、酒場のマナーも尾渕さんが教えて下さいました。


尾渕との忘れ得ぬ思い出があります。


尾渕さんのお客様で某上場製薬会社の財務部長の本田さんがいらっしゃいました。


なんでも池袋の小料理屋で知りあったとか。


おふたりはウマが合うようで、そのうちに会社の短期の資金運用から個人的な株式の運用まで任されるほど信頼されていました。


そんなふたりの飲み会に私はカバン持ちとしてしばしば呼ばれるようになりました。


そんな尾渕さんがある日「朴ちゃん。午後空いてる?ちょっと付き合って欲しいんだけどさ。本田さんのお見舞いなんだけど。」


「大丈夫です。何処かお悪いんですか?」


「う~ん。癌なんだ。急に進行してね。末期なんだわ。本人には告げてないんだけどね。俺は奥さんから聞いたんだけどさ。ひとりで行くとほら、哀しい顔になって悟られるから、一緒に来てくれよ。」


で、ふたりでお見舞いに行きました。元々若ハゲの本田さんは抗ガン剤の副作用でアタマはツルツル。一回り小さくなっていました。


本田さん、努めて冷静に明るくふざけています。早く退院してまた飲もうと言う話をしています。


癌であることを本人に知らせてないとは言え、製薬会社の部長は投与されてる薬の名前で自分が癌であることを明らかに知っていらっしゃる語り口でした。


本田さんは遺す家族のことを尾渕さんに託したかったようでしたので、私はしばし病室の外で待つことにしました。


中座する際に窓から射す逆光にベッドに座る本田さんの影を今でも忘れることができません。


尾渕さんと本田さん。10分ほどでしたが、濃密で静謐な時間を過ごしたに違いありません。


尾渕さんが涙で真っ赤に腫らした眼で病室を出てきました。その表情を見て私も静かに泣きました。


その後、本田さんはお亡くなりになりました。


葬儀は晦日の寒い日でした。


今はふたり天国でまた愉快に飲んで語りあってるんだと思います。


まだまだ先になりますが、またカバン持ちで私も飲み会に呼んで下さいね。






朴竜と佐藤師匠の愛おしき日々 4 チヨさん

2020年09月12日 | ちっちゃいおっさん

チヨさんは元々は佐藤先輩のお客様でした。


でも、先輩のいい加減さにほとほと愛想を尽かし、取引を止めるところで私に引継ぎとりあえず様子見で私とお付き合いして下さることになりました。


例えばチヨさんに対しての電話では


「あ、チヨさん?◯◯証券の佐藤ですぅ。どうもどうも。チヨさん、今度新しい有利な貯蓄商品を募集することになりましてね。まずはいい話ですから、チヨさんにと思いまして。はい、大変有利な貯蓄商品なんですよ~。」


と言う具合で、中味は「日本株式に投資する3年間解約不可の単位型投資信託」なんです。


ですので、「有利」「貯蓄商品」の説明は明らかに金融商品取引法および証券取引法違反行為です。詐欺と言っても過言じゃありません。今ならそれは懲戒免職ものです。


「師匠ぉ?今の完全に虚偽の勧誘に当たりますよ。キチンともう一度説明すべきです。後で訴えられますよ!」と詰め寄っても


「またまた朴ちゃん、堅い事ばかり言うと嫌われちゃうよん。え?何?貯蓄商品じゃない?違うの?え~?まっいいか。チヨさん金あるし。」


「師匠ぉ~ 頼んますよ。まっいいかじゃないでしょう?何にも知らないで何売ってたつもりで電話してたんすか~。」


「あのね朴君。君は営業の神様であり、トップセールスマンの私に何説教してるのかね?いつから偉くなったんだろうね~。」


「師匠ぉ、トップセールスマンとか偉いとかが問題じゃなくて、虚偽の勧誘は違法だと言ってるんですよ!」


「あ~煩いな。単なる勘違いでしょうが。もういいや。奢ってやろうと思ってたけど、今日は割り勘だぞ!」


「師匠ぉ!チヨさんは師匠のお母さんと同い年ですよ。師匠のお母さんがアンタみたいなアホな営業マンに騙されたら腹立つでしょ?師匠は同じことしてるんですよ。」


「・・・・・」


「キチンともう一度電話しましょうよ!」

「朴君はいいこと言うね!こりゃ一本取られました!私が間違ってました。」と素直。


師匠のお母さんは女手ひとつで師匠を育て上げた方。師匠はお母さんの話が出ると直ぐに真面目な息子に戻るのです。


当時、投資信託は「受益証券説明書」と言うペラペラのものがあるくらいで、現在のように「交付目論見書」を投資家に渡す義務はありませんでした。買う方も売る方もなんと牧歌的だったのでしょうかね。


それでも、それ以前に買って頂いていた「貯蓄商品実は株式投資信託」の3年の満期期間が明けて実は貯蓄商品じゃなかったと云う事が分かってしまい揉めるに至るのでした。


とはいえバブルでしたので損をすることはなかったのですが、短期金利が4%以上あった当時、株式のリスクを取ってまで「貯蓄商品」に「投資」しなくても良いのです。


チヨさんの怒りに師匠は


「チヨさん!こいつは俺の大切な後輩です。右も左も分からない新人です!どうかチヨさんの豊富な経験でこいつを鍛えて一人前の証券マンにしてやって下さい!」


そう言われれば人の良いチヨさん、満更でもなく私に無事に引き継がれることにあっさり同意されたのです。


その後、私がした仕事。それは師匠の勘違いで買って頂いた「貯蓄商品」の中身を全部調べ上げて、損切るものは損切る、買い足すものは買い足すと説明しながら理解して頂き、徐々に仲良くなっていきました。


そうして、チヨさんが働く池袋の旅館の女将さんである「久美子さん」を紹介して頂くことになるのでした。


で、師匠と言えば「ま、俺がチヨさんを引き継いだから久美子がお前の客になったわけだな。まあ、朴ちゃん。私に感謝しなさい!」


とやはり師匠は師匠なのでした。





写真は本編と全く関係ない散歩中に見つけた可愛いネズミくんです。