かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

洋楽巡礼(3)~みんなビートルズが大好きだった!

2013-09-23 | 音楽・オーディオ

〇そんなヒロシに誘われて
1972年4月ぼくは中学3年生になり、中2のときポップスの楽しさを教えてくれたI君とは残念ながら違うクラスになったのだが、ぼくにとってその後の音楽人生を左右するくらいの大きな出会いがあった。旧友ヒロシとの再会である。ヒロシとは小学校のときよく一緒に遊んだ幼馴染なのだが、中学に入ってからはクラスが違ったため疎遠になっていた。中3で再び同じクラスになったぼくたちは、たまたまヒロシが無類の洋楽ファンということもあり、すっかり昔に戻り意気投合したのである。
ある日そんなヒロシから、名古屋でビートルズの映画大会みたいなのがあるから一緒に行かないかと誘われたのだ。ビートルズはちょうど『ヘイ・ジュード』というアルバムを買ったばかりで、これから本格的に聴いていこうと思っていたので二つ返事でOKした。映画は、『ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!』、『ヘルプ4人はアイドル』、『イエロー・サブマリン』、『レット・イット・ビー』の4本立てだったのだが、『レット・イット・ビー』以外はつまらなかったので、ほとんど内容は覚えていない。その分『レット・イット・ビー』の印象は強烈で、スタジオ・セッションの様子や、アップル社屋上での「ルーフトップ・コンサート」の生演奏に感動し、すぐにアルバムを買ってしまったほどである。思えば「ルーフトップ・コンサート」は中1のとき、アニメの『サザエさん』のCMで見ているのだが、その時はまさに「ネコにコバン」状態だったのだから、人間は変われば変わるものである。

〇ビートルズにハマる
ちょうどこの年は、ビートルズがレコード・デビューして10周年にあたり、レコード発売元の東芝EMIでは販促目的でイベントを開催していた。ビートルズのレコードを買うと、特典として「ビートルズミニ百科」のような小冊子(カラー刷りで写真も多数掲載)と『レット・イット・ビー』のジャケットに使われている4人の大判ポスターが店頭でもれなくもらえるのだ。ヒロシはジョンとポールのポスターをパネルにしたものを部屋に飾っていて、これがもうムチャクチャカッコよかった。ぼくもジョンかポールのポスターが欲しかったのだが、時すでに遅くジョージかリンゴのポスターしか残っていなかった。結局残り少ないジョージのポスターで我慢することにしたが、リンゴのポスターが大量に余っていたのがちょっと悲しかった。

〇ビートルズがくれた甘くてほろ苦い思い出
当時ビートルズはぼくたちの世代にも大人気で、洋楽ファンのクラスメートたちにもビートルズは浸透していた。同じ班でたまたま席が隣になった女子のMさんもビートルズの大ファンだった。小柄でちょっと色黒、瞳の大きな活発な女の子だった彼女は、気軽にぼくに話しかけてくれた。当時かなりの奥手だったぼくは、面と向かって女子と話をするのは苦手だったのだが、彼女とビートルズの話しをする時は不思議とリラックスして自然体で話をすることができた。授業の始まる前のほんの短い時間だが、彼女とビートルズの話しで盛り上がるひと時は今までに経験したことのない至福の時間だった。
しかしこの幸福な時間も長くは続かなかった。次の席替えで彼女とは別の班になり、ほとんど話す機会がなくなってしまったのだ。当時は男子と女子でグループにわかれて話をすることがほとんどで、特定の男子と女子が1対1で親密に話をしたり、一緒に下校するなんてことは、まず考えられなかった時代だった。いつの時代の話しだ、と思う方もあるだろうが、40年前の田舎の中学校ではそれがごく当たり前だったのだ。そんなクラスの雰囲気の中で、わざわざ離れた席の彼女の所まで行って、女子のグループの話に割り込む勇気などぼくにあるはずもなく、楽しそうにおしゃべりする彼女を遠くで見ているのが精いっぱいだった。ビートルが運んでくれたMさんとの幸せな時間は、今でもちょっと甘くてほろ苦い思い出として胸の奥に残っている。


■初めて買ったビートルズのアルバム『ヘイ・ジュード』/1970年
未収録のシングル曲などを中心に編集されたアメリカ盤
彼らの意に反したレコード会社独自の寄せ集め的なアルバムだが、それぞれの楽曲はもちろん名曲ぞろい
 


■『レット・イット・ビー』/1970年
元々は1969年「ゲット・バック・セッション」として録音されたがお蔵入りになり、フィル・スペクターが手を加え発表された事実上のラスト・アルバム
『レット・イット・ビー』の収録曲は、映画の中で演奏されているテイクとは別物で、もとの演奏に近いテイクに戻した『レット・イット・ビー・ネイキッド』が2003年にリリースされた




■『アビイ・ロード』/1969年
リリースは『レット・イット・ビー』より前だが、実質的には最後に録音されたアルバム
B面のメドレーは圧巻で、コンセプト・アルバムとして『サージェント・ペパーズ・・・』と並ぶ代表作
個人的にはジョージの2曲『サムシング』と『ヒア・カムズ・ザ・サン』の美しいメロディーが印象に残る
4人が並んでアビー・ロードの横断歩道を渡るジャケットはとくに有名
 


■『ザ・ビートルズ』(通称ホワイト・アルバム)/1968年~ビートルズ唯一の2枚組アルバム
アルバムとしてのまとまりは全くなく、メンバーがそれぞれに好きなことをやって、「こんなんできました~」という感じ
でもその分、ポップス、ロックン・ロール、サイケデリック、前衛音楽、ヘビ・メタなどバラエティーに富む曲が満載
グループとしては「崩壊の前日」という感じだが、メンバーそれぞれの音楽的嗜好が全面に出て、ファンには楽しめる
ジョージの『ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス』が泣ける!



■『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』/CD1996年(1968~70年の未発表曲や別テイクを収録)
『ホワイト・アルバム』、『ゲット・バック』、『アビイ・ロード』の各セッション期のアウト・テイクやデモ版など、お宝音源満載
個人的にはビートルズにハマるきっかけになった『ルーフ・トップ・コンサート』最後のライヴ演奏『ゲット・バック』がそのまま聞けるのは嬉しい限り
ポールがピアノの弾き語りで切々と歌う『ロング・アンド・ワインディング・ロード』も絶品!



〇ビートルズから入る洋楽のススメ
ぼくたちの世代は、本格的に洋楽を聴きはじめたのはビートルズからというヤツが多かった。ビートルズの活動期間はたった8年間だったが、その間に発表されたオリジナルアルバム12枚を年を追って聴くと、ポップ・ミュージックの歴史そのままに彼らの音楽が時代とともに変遷していくのがよくわかる。前期のストーレートなロックン・ロールから、後期のスタジオワークを駆使した凝りに凝った楽曲まで、すそ野が広いので洋楽入門者はどこから聴いてもそれなりに楽しめるのである。

ぼくは彼らがスタジオワークに専念しだした『サージェント・ペパーズ…』から『アビイ・ロード』までの後期の作品に特に心惹かれるものがあったが、それはその後聞くようになったジャズ・ロックやプログレ、フュージョンと呼ばれる分野の音楽につなっがていった。
ビートルズを山に例えると(なんで山なんだ?という疑問はさておき)、洋楽界に燦然と輝く美しい独立峰、世界遺産の富士山のような存在と言えるだろう。誰もが知っていて、登山コースがわかりやすく、パッと見アプローチしやすいので、とりあえず登ってみようかという気持ちになる。登った後どうするかは個人の自由で、つまらないからそこでやめる人、面白そうだからほかの山にも登ってみようと思う人、すっかりハマって日本アルプスやヒマラヤのような本格的な登山を目指す人、はたまたふもとの樹海で迷って出口が分からなくなる人(プログレの底なし沼に踏み込んだぼくのこと)。

ビートルズは洋楽に興味のある人すべてに優しく、素晴らしい道案内人になってくれる。昔の洋楽に興味はあるが、何から聴いたらいいかわからない人には、まずビートルズのベスト盤をお奨めする。そこからどのコースに進むかはあなたしだい。60~70年代の洋楽山脈の規模はとてつもなく広大で深い。道に迷いながら山に分け入って、そこであなたのお気に入りの音楽世界を発見した時の喜びはまた格別である。