6年ぶりに伊豆の天城山を歩いて来た。6年前に歩いたのは3月初めで、まだ所々に雪が残っていた。ハイカーの姿は少なく木々の花はまだ蕾だった。次はアマギシャクナゲの盛期に来ようと思った。
大型連休の前後半に挟まれた平日の5月2日、7時30分に天城高原ゴルフコースのハイカー専用駐車場に車を駐めて歩き出した。降水確率はゼロパーセント、風も無く絶好の山日和だった。
この日はアマギシャクナゲとアセビを観ること、そしてスミレやその他の草花を探すことをテーマとして、コースタイムを気にせずゆっくり歩こうと決めていた。
全長8.4km、累計標高差は700mあまりのコースである。ゆっくり歩いても高が知れている。1時過ぎには帰れるのでのんびり行こうと考えていた。
コースタイム20分の所を23分かけて四辻(よつじ)に到着。途中ヒメシャラ(ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木)の樹や、花が半分落ちたモミジイチゴ(バラ科キイチゴ属の落葉低木)を観た。
ヒメシャラの赤い樹皮は遠くからもよく目立つ。日本三大美幹の一つに数えられているそうだ。私が知っていたこの樹の特徴は、触ると冷たいことだ。この日は暑くて何度もヒメシャラの幹を触った。
四辻を過ぎるとすぐにミヤマシキミ(ミカン科ミヤマシキミ属の常緑低木)の花と赤い実が観られた。ミヤマシキミは筑波山でもよく観られる。山渓ハンディ図鑑では分布は本州(関東以西)、四国、九州となっているが、北限は岩手県一関市だと聞いている。
さらに進むとがきれいなツツジが咲いていた。雄しべの数は10本で花糸に毛がなく、所々で枝先に三枚の葉も観られたのでトウゴクミツバツツジのようだった。標高を上げていくとまだ蕾のトウゴクミツバツツジが観られた。
続いてすぐにアセビが現れた。アセビは万二郎岳を過ぎてからだと思っていたので意外だった。
この日は鳥撮り用のカメラや双眼鏡を持参しておらず、鳥は主に耳で聞くだけだった。カラ類の囀りに混じってウグイスの声も聞えていた。
標高が1200mを過ぎたあたりから登りが急になったが、手を使うような所はなかった。
万二郞岳(標高1299m)に着く手前でスミレの仲間を2種見かけた。
一つはタチツボスミレのようだった。
もう一つはシコクスミレ(別名ハコネスミレ)のように思えた。シコクスミレは本州(関東地方、東海地方)、四国、九州に分布し、深山の腐葉質の多い林内に生える。葉はハート型で薄く、光沢があり、脈がへこむ。花は白色で直径1~1.5cm。唇弁、側弁に紫色のすじがある。距は短い。
9時11分に万二郎岳に着いた。この山頂からは南東側に海が見える。この日歩くコースでは一番景色がよいところだ。
万二郎岳からは天城山の主稜線を歩き、先ずは痩せ尾根を60mほど下って80mほどを上る。登山道脇にはアセビが続いていた。
1325mのピークを過ぎ、アセビのトンネルを過ぎた辺りでタチスボスミレのきれいな株を見つけた。
さらに進むと白い小さな花が足元に咲いていた。ワチガイソウ(ナデシコ科ワチガイソウ属の多年草)だった。
そして、いよいよ待ちかねたアマギシャクナゲ(ツツジ科ツツジ属の常緑低木)が現れた。
アマギシャクナゲは伊豆半島の山地に自生する固有種で、高さが6~7mにもなる。下の写真の樹は5~6mほどあるように見えた。
この樹木は天城山を代表する植物で、この日歩いたコースもシャクナゲコースの名が付いている。また特にシャクナゲが多い辺りは石楠立(はなだて)と名付けられている。まだ時間は早いが、シャクナゲを観ながら昼食とすることにした。
よく言われることで、樹木の花には当たり年と外れの年があるようだが、今年のシャクナゲの花付きは素晴しいように思えた。と言っても毎年ここへ来ているわけでないので、通りがかりのハイカーの受け売りである。いずれにしても素晴しいシャクナゲであった。
アマギシャクナゲを十分に堪能し、最後の登りとなる万三郎岳への急坂に向かった。思いがけずマメザクラ(バラ科サクラ属の落葉低木)の花が咲いていたのが嬉しかった。
天城山の最高峰、万三郎岳(標高1406m、日本百名山)には10時52分に着いた。山頂は木々に囲まれていて展望はない。
6年前には気づかなかったが、山頂に石碑があった。弥栄の神と記されていた。
主稜線を200mほど下ると分岐となる。6年前には途中で富士山が望めたが、この日は雲がかぶっていた。分岐からは激下りで6年前は雪が残っていてアイゼンを着けたところだ。
今の季節は形が崩れかけた木段が露出していて、やはり歩きいにくかった。ここを下ると標高が1150mで、涸沢分岐となる。
ここから登山口(下山口)までは標高差が100mだが、アップダウンの連続で、まったく下っている気がしない。これは6年前の印象と同じだった。
途中ミヤマシキミやモミジイチゴの花を観ながら、だらだらと歩いた。
単調な道に退屈し、幹が2つに岐かれたヒメシャラの樹があるところで、岩に腰掛けて休んだ。近くでキツツキのドラミングの音が聞えていた。
途中沢をいくつか越えた。見上げると新緑がきれいだった。
また、アマギシャクナゲやトウゴクミツバツツジが時折り現れて癒やしとなった。苔むした岩肌も素敵だった。
だらだらのんびり歩き、四辻を13時17分に通過、登山口には13時36分に戻ってきた。最後はコースタイム通りのペースになっていた。コースタイムを気にしないと言いつつ時計を見てしまうのは山屋の性だろう。
ザックを下ろした後は車で伊東温泉に向かい、公衆浴場で汗を流した。途中食事や買い物をしたりして、自宅には予定通り20時直前に着いた。
アマギシャクナゲを観に天城山を散策(完)
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
次回の投稿は5月10日、植物クロスワード(35)『草冠の漢字』を予定しています。