https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180127-00000539-san-sctch
中国・東南大准教授の野島達也さんはタンパク質科学の研究者。東京工業大特任助教だった平成28年には、水に溶けたタンパク質の分子が界面活性剤を使うと凝縮する現象を、チームで発見する成果を挙げている。
同年秋ごろ、大学近くのコンビニで売られている卵を見つけ、ふと考えた。「タンパクはもともと、卵の白身という意味だ。タンパク質科学者にとって、これは原点。開発した界面活性剤の技術が白身にも適用できたら、技術の普遍性がアピールできる」
生物の体を構成する重要な成分のタンパク質は近年、金属やセラミックスに続く次世代材料として注目されている。ただ、微生物や細胞の培養で生産されるため時間も費用もかかる点がネックだ。そこで野島さんらは、大量生産で安く入手できる食品のタンパク質に注目していた。
早速、実験に取りかかった。白身に水を加えてかき混ぜ、独自の界面活性剤を加えると、予想通りに卵のタンパク質が凝縮した。これを温めると、白く不透明なゲル状の塊ができた。野島さんは「ゆで卵ができるのと同じことが起きただけ。つまらない」と感じたという。
ところがその塊を手にしたところ、信じられないほどの硬さに驚いた。圧縮するときの強度を測ると、ゆで卵の150倍以上。全く予想外のことが起こった。詳しく分析した結果、タンパク質の分子同士が均一に結合していることが分かった。
タンパク質はアミノ酸がつながってできた、高分子と呼ばれる物質の一種だ。普通のゆで卵ではひも状の分子同士が不均一に絡まり合っており、力を加えると結合が弱いところに力が集中して壊れてしまう。ところが、界面活性剤を加えることで結合が均一になり、力が特定の場所に集中しなくなって強度が上がるとみられる。
野島さんはこの塊を周りの研究者や学生に触らせては「卵の白身でできているんだよ」と伝え、驚かれる反応を大いに楽しんだのだとか。「ただ、私は材料科学の専門家ではないので、論文にまとめるのに苦労した」と野島さん。今月、英科学誌に掲載された。