新型コロナウイルスへの改善効果が期待されている、抗寄生虫病の特効薬「イベルメクチン」。インドやペルーで投与後に一定の効果が見られたことや、世界56カ所での臨床研究で改善データが集まっていることについては、当サイトの記事「日本発『イベルメクチン』インドがコロナ治療で感染者数減もWHO『反対』のナゼ」で報じた。 【図】イベルメクチン投与の州と投与が遅れた州の死亡者数比較(ペルーの例)
厚労省は「コロナ治療に対するイベルメクチンの保険適用」を認めており、すでに現場ではイベルメクチンを投与している医師もいる。先駆けて100人近くの自宅療養者にイベルメクチンを処方してきた兵庫県尼崎市の「長尾クリニック」院長・長尾和宏医師が、イベルメクチンについて見解を語った。
――これまでに何人ほどのコロナ患者にイベルメクチンを投与してきたのでしょうか。
処方したのは100人ほどで、実際に飲んでいただいたのは50~60人の患者さんです。重症化してからの処方では遅いので、第4波からは陽性が判明した時点でほぼ全員に処方しています。中等症2以上の方には最初から飲んでもらうし、軽症または中等症1の方には、中等症2になった時点で飲めるように、最初から手持ちにしておきます。一人暮らしの高齢者の方、特に認知症の方は飲むのを忘れてしまいかねないので、私が実際に家に行って、目の前で飲んでもらっています。
イベルメクチンは一方的に処方するのではなく、患者さんに説明して、事前に承諾を得た上で出しています。「賛否両論あるけれど、インドでは飲んで良かったという報告がある」「一般の薬のような副作用はあるけれど、この量だったらまず大丈夫だと思いますがどうですか」と伝えています。
ーーコロナ禍の早い段階で投与を始めたからか、注目を浴びることも多いですね。
以前出演したテレビ番組で、ステロイドや酸素とともにイベルメクチンを投与していていることを軽い気持ちで言ったら、ステロイドや酸素には反応しないのに、イベルメクチンだけには過剰に反応されるので、私としてはびっくりしています。イベルメクチンは皆さんにとっては言葉が目新しいのか、すごい反響なのですが、私にとっては普段から使っている薬なので、特別なことをしているという意識はまったくないのです。
イベルメクチンはダニが人の皮膚に寄生しておこる病気「疥癬」(かいせん)の特効薬で、在宅医療の現場では、普段から使っている薬。新しい薬でも珍しい薬でもなんでもなくて、普段使っている薬をコロナの患者さんにも飲んでもらう、ただそれだけなんですよね。
――賛否両論ある中でイベルメクチンを投与するということは、リスクよりも期待できる効果が上回るという考えのもとなのでしょうか。
そうです。私は第1波の時からステロイドを使ってきましたが、ステロイドに比べれば、イベルメクチンの方が薬剤としての重さ・副作用が軽微です。風邪薬とは言いませんが、普段から使っている薬で、常備薬に近い。今まで使っていて、副作用や困ったことは何もありません。
私は専門家でもなんでもないし、ただの町医者です。イベルメクチンについてはいろんな議論がありますし、効くと唱える人もいれば、効かないと言う人もいる。ただ、私は医師として、「やるべきことは全部やる」という意識を持っています。イベルメクチンというのは数少ない武器の一つで、安価で低リスクのもと使える薬です。もし使わずに自宅で亡くなられでもしたら、悔やまれると思うんです。急性の病気に対する医療では、病院でも自宅でも、やるべきことを全部尽くしていくのが基本です。そういった意味で、イベルメクチンは外せないものだと思っています。
――イベルメクチンを使っていく中で、効果を実感されたタイミングはありましたか。
過剰にとらえて欲しくないので、私のブログではあえて「おまじない」と言うようにしていますが、効果を実感したことはありますね。自宅療養の患者さんから「苦しい」と電話があり、イベルメクチンを飲んでもらうことがありますが、翌日には元気になって食事できるようになっていることも経験しました。
――WHOはエビデンスの不足などを理由に反対姿勢をとっていますが、改善データが増えてきたことで、イベルメクチンをめぐる情勢も日々変わってきていますね。
3月の参議院予算委員会で、田村憲久厚労大臣が「イベルメクチンを新型コロナの治療に使っていい」「保険請求もしていい」と答弁されました。それに対して(医師でもある)梅村聡議員が「では、なぜ政府としてもっと大きな声で言わないのか」といった旨の質問をしたところ、「国としてエビデンスが不十分だから、推奨しているわけではない」という答弁でした。つまり、「使いたければ使っていただいて、保険請求していただいていい」ということです。
この答弁について、私は理解できます。国からしたら、まだよく分からないものに対して良い・悪いについては言及できない。でも、とりあえず「お墨付きを与えたわけではないけれども、使ってもいいよ」ということは、非常時にはあると思うんですね。そういう言質をしっかりとっているわけです。
ーー国が言及したことは普及の後押しになりますか。
そうですね。ただ、間違ってはいけないのは、ワクチンの代わりのように思ってしまうことです。いざという時のために予防的に所持しておきたいという人が非常に多いですね……。予防投与をしたいという気持ちはわかるのですが、そもそも保険診療のルールというのは「治療」に対して保険が適用されるのであって、「予防」に関しては基本的に認められていない。例えば「下痢をした時のために下痢止めを先にください」「風邪をひいた時のために風邪薬を先に下さい」「がんになるかもしれないから抗がん剤を先に出してください」などといったことはできませんよね。インフルエンザの治療薬であるタミフルやリレンザは、特例として予防投与も認められていますが、イベルメクチンはコロナの発症予防としての予防投与が保険で認められていない。
では、「自費診療」なら予防投与として出していいのかという点ですが、自費診療といえども、ちゃんと診て処方しないといけません。診察せずに処方箋を出してしまえば、「無診察投薬」といって、医師法第20条違反に問われてしまいます。私のもとには「自費で構わないから処方箋を書いて送ってくれ」といったメールや手紙がたくさん届くのですが、今の医療のルールでは一切してはいけないことなのです。処方の対象者はあくまでも、診察した患者さんのみです。市販でも売っているようですから、買って独自で飲んでいただく分には自己責任です。
――厚労省が保険適用を認めていながら、なぜ、イベルメクチンを処方する医師が少ないのでしょうか。
それは、裏を返せばコロナ患者を診ている医師が少ないからです。日本に10万件の開業医があったとして、そもそもコロナ患者を診る開業医=発熱外来をやっている診療所は1割にも満たない。おそらく5%程度でしょう。これは、「自院の患者で発熱した患者がいたら診ます」という所も含むわけです。そして、初診の発熱患者を診る機関はもっと少ない。診断まではするというのが3%だとして、その後のフォローをする機関はさらに少なくなる。
私は第1波の昨年4月から、コロナ患者に携帯電話の番号を教え、24時間自宅療養者を管理できる体制をとってきました。400人以上の患者さんに番号を教えて、「何かあったら夜中でもかけてきて」と伝えています。実際、私の携帯電話には、患者さんから夜中にかかってくることもあります。保健所に電話しても電話が通じないし、救急車を呼んでも運んでくれないからです。発熱患者が保健所やかかりつけ医に電話相談しても治療が施されず、たらい回しにあっているような状況がいまだにあるわけです。そもそも診療していないので薬が出るわけがないんですよ。
本来であれば、それを戒めるのが日本医師会の役割だと思うのですが、なんのメッセージも出していない。
――日本医師会はイベルメクチンについて、どのような対応をとるべきだと考えますか。
コロナと診断して重症化するような人、あるいは自宅待機になりそうな人には、イベルメクチンを出しておけばどうなんですかと、一言レコメンデーションを出しておけばいい話。もしくは医師会が自宅療養者やホテル療養者にイベルメクチンを配布して「良かったら飲みませんか」と声かけをする。あるいは「イベルメクチンのこういう使い方は良くない」とか「副作用はこうですよ」といった注意喚起をする。これだったら納得しますが、まったくそういうこともしていない。
先ほども言いましたが、田村厚労大臣は国会の場で「イベルメクチンを医師の判断で使ってもいい」「保険請求して構わない」と明言している。それにもかかわらず、プロ集団である日本医師会からイベルメクチンに関して何か一言でもコメントを発しましたか? ノーベル賞を取った、日本が世界に誇るメイドインジャパンの薬がすぐそこにあるのに、なぜ、それに関して日本医師会が一言も言及していないのか。僕は理解できません。現に、多くの人たちが薬を欲しがっている。それに関してコメントやメッセージを発したり、政府に働きかけたりといったこともしない。多くの市民が医師会の士気の低さを批難しているので、具体的な行動で名誉挽回をはかるべきです。
――最後に、医師として伝えたいメッセージなどがあればお願いします。
イベルメクチンを分けてくれと殺到するのを見て私は驚くばかりで、近くのかかりつけ医に相談すればいいのではと思うのですが、よく考えてみれば、そういうことをやっている医者がいないということの裏返しなんですよね。そもそも医者は何のためにいるのか? 病んでいる患者のためにいるわけでしょう。ですが、患者が本当に困っている時にかかりつけ医の役割を本当に果たせているのでしょうか。第一線の開業医の脆弱さや、日本医師会の関心の低さ……こうした現状が、イベルメクチンをめぐる状況を通して透けて見えてくるのではないでしょうか。
>>日本発「イベルメクチン」 インドがコロナ治療で感染者数減もWHO「反対」のナゼ(北里大・花木教授の見解へ続く)
(構成=AERA dot.編集部・飯塚大和)
●長尾和宏(ながおかずひろ)
1958年香川県生まれ。医療法人社団裕和会理事長、長尾クリニック院長。医学博士、関西国際大学客員教授。複数医師による年中無休の外来診療と在宅医療に従事。新型コロナウイルス蔓延以降、自宅療養のコロナ患者も精力的に往診している。
日本発「イベルメクチン」 インドがコロナ治療で感染者数減もWHO「反対」のナゼ (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット) (asahi.com)
新型コロナの変異株の蔓延で感染爆発が起きていたインドだが、5月を過ぎてから、その状況に変化が生じている。各州が抗寄生虫病の特効薬「イベルメクチン」の本格投与に踏み切ってから、感染者数・死亡者数ともに減少に転じているのだ。イベルメクチンといえば、大村智・北里大特別栄誉教授が発見、開発し、2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した抗寄生虫薬。効果が認められれば、日本で発明された薬が、ワクチン不足の世界を救うことになるかもしれない。こうしたインドの状況について、北里大学教授・大村智記念研究所感染制御研究センター長の花木秀明氏は期待をかける。
【図】ペルーのイベルメクチン投与の推移
――イベルメクチンの本格投与に踏み切ったインドで、改善の兆しがみられています。インドは今、どのような状況なのでしょうか。
インドではほとんどの州で投与が進んでいる状況です。中には投与を見送っている州もあり、5月以降、投与を見送ったタミル・ナードゥ州では感染者数が増加を続ける一方、投与をしているゴア州では感染者数が減少しています。感染状況に大きな差が生まれているというデータが出てきました。
実はインドだけではなく、ペルーでも投与に踏み切った州は効果が出ています。イベルメクチンが投与された8つの州と、投与が遅れたリマ州とでは、発生数と死亡者数に歴然とした差があります(グラフ参照)。投与後は、新規感染者が10分の1から15分の1まで減少したのです。その後に大統領が変わって、ペルーでは投与しない方針に転じましたが、再び感染者数が急増し、元の木阿弥になってしまいました。
――ほかに効果が表れた国はありますか。
アフリカ諸国です。元々、イベルメクチンのコロナへの効果が注目される端緒になったのはアフリカでした。アフリカは医療体制が整っていませんが、国によっては感染者数が思ったほど増えていない。細かく見ていくと、イベルメクチンを配った国は感染者が少なく、配っていない国は感染者が多かったのです。
数字で示すと、アフリカで「投与ありの国」の感染者数は、10万人当たり131人で、「投与なしの国」が925人。死亡者数は、投与国が10万人当たり2.1人で、投与していない国は28・4人と、13倍以上の開きがあります(馬場錬成先生のデータ)。差は歴然です。
――これらの数字は、イベルメクチンの効果と捉えて間違いないでしょうか。
インドやペルーでもアフリカと同様のデータが出ていますので、これを偶然ととらえるには無理があると思います。北里大の研究チームでは、それなりに効果があるだろうとみています。
実は日本でも、独自の判断でイベルメクチンをコロナの治療に使っている医師は一定数いて、データを取ってくださっています。イベルメクチンを投与すると、解熱効果や肺の状況が改善するといった臨床データが出てきました。そうした点からも、効果はあると捉えています。ただし、「効果がある」と言うと、100%の患者さんに効くと思われがちですが、薬というのは通常、80%ほどに効果がみられたら、十分効いたとされるものです。イベルメクチンも100%ではないですが、その範疇には入っていると思います。
――世界では急ピッチで治験が進められているようですが、現在の状況についてうかがいたいです。
現在、世界各国の56カ所で臨床研究が行なわれていて、投与された患者さんが1万8000人ほどいます。軽症患者に投与する早期治療は、78%に改善効果が見られました。予防投与では、85%の人が改善。死亡率の改善も74%でした。それら臨床研究をもとに出した平均値なので、このデータをもってまったく効かないという考えには、到底いたらないです。
これまでの臨床研究は発展途上国ばかりでした。途上国のデータだからといって認めない先生方もたくさんいらっしゃいますが、改善したというデータがこれだけ多く集まっている以上、そのデータを無視するわけにはいかないと思います。
――改善データがありつつも、新型コロナの治療にイベルメクチンを使うことには、反対意見も一定数見られます。世界保健機関(WHO)も治験データが不足していることなどから、投与に慎重論を唱えています。
イベルメクチン投与に反対する一番の理由は、先進国が出した治験データがないということ。ですが、人が次々と命を落としている有事の中で、「EBM(根拠に基づく医療)が必要だ」と言って何千人何万人のデータを要求するような考えはおかしいと思っています。
公的機関としては、そういう方針をとらざるを得ない面はあるのかもしれませんが、本当に救命を考えるのであれば、発展途上国のデータであっても人に投与した結果が出ているのですから、それを素直に評価していただきたいです。薬は本来、80%が効けば十分とされるもの。残り20%を持ち出して効かないと言われてしまったら、ほとんどの薬は効かないことになってしまいますよ。
今はイタリア・イギリス・日本・フランス・アメリカなど、先進国も治験を開始しています。今後先進国の結果がオープンにされれば、反対する一番の理由がなくなってしまうので、情勢は変わってくると思いますし、効く使い方が明らかになってくると思います。
――本来、抗ウイルス薬として開発されたものではないイベルメクチンの使用については賛否両論の議論がなされています。イベルメクチンに期待をかける研究チームの一人として、望まれることはありますか。
専門家が使用に対して批判するのであれば、科学的な検証でもって批判していただきたいです。科学的な根拠をもって批判をするためには、世界的に評価されているデータを見なければいけませんから、これだけポジティブなデータが集まっている以上、科学的な否定は難しいと思いますよ。
これだけの改善効果が出ていながら、WHOやCDCが言っているからという理由だけで反対するのは、もうやめていただきたいです。世界的な権威であっても、コロナにおいてはよく判断を間違えています。WHOは以前、マスクは要らないという方針をとっていましたが、今は一転してマスクが重要だと言っています。今はイベルメクチン投与に反対していますが、そのうち変わるかもしれません。この新型コロナはまったく新しい疫病なので、権威主義に依存せず自分で調査し考え臨機応変に対応しないといけません。
――インドは本格投与に踏み切りましたが、日本の状況はいかがでしょうか。
現在は権威側が足踏みしているので、医師が独自の判断で処方しているような状況です。イベルメクチンの使用については、最終的に医師の裁量と患者の同意があれば処方することは可能です。兵庫県尼崎市にある長尾クリニックでは、自宅療養者約300人に投与していますが、死亡者は現時点で一人も出ていないそうです。でも、そういう先生は「ちゃんとしたEBMがないのに治療を行った」と言われ、批判を受けてしまうのが現状です。
――副作用については。
これまでに37億人に投与していて、今でも年間3億人が投与しています。安全な薬と思っていただいて大丈夫です。あえてリスクを挙げるなら、経口なので、肝臓にある程度の負担がかかることでしょうか。これは仕方のないことだと思います。今のところ日本で、肝臓に重篤な副作用が起きたという事例は聞いたことがありません。
――国が早期に医薬品を承認する「早期承認」を受けるという選択肢もありますが、これについても見解をうかがいたいです。
現在、立憲民主党がイベルメクチン承認を後押しする議員立法を準備しています。イベルメクチンだけが対象ではなく、既存薬で効くものがあれば使えるようにしましょう、という法案です。ぜひ超党派で議論してほしいと思います。
――現在の制度でも医師の判断で処方が可能ですが、早期承認が下りることで、なぜ普及が進むのでしょうか。
早期承認が下りることで、医師の免責事項ができます。今は医師の独自の判断で処方しているので、万が一副作用が出た場合は、その賠償を医者がもたないといけません。早期承認されれば、何かあった場合も保険で適用されるようになります。
法案が通れば、処方する医師は一気に増えると思いますし、自宅待機者やホテル療養者にも安心して配ることができるようになります。現状では38度以上の熱があってもカロナールしか配られず、医療放置に近い状態が続いていますが、抗ウイルス効果が認められれば、お医者さんだって配りたいはずです。そもそもイベルメクチンは厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症COVID-19診断の手引き」に記載されている治療薬です。
――イベルメクチンを個人輸入されている方も増えているようですが、この状況についてはどうみていますか。
個人輸入は、個人の権利なので侵害はできません。それよりも、国が個人輸入しなければいけないような状況を作ってしまっていることが問題です。輸入する人たちも、なるべくそんなことはしたくないし、自分の身を守るためにどうしようもなくやっている。クリニックで医者の管理下で処方されるようになれば安心ですし、個人輸入はしなくなります。
――イベルメクチンの普及が進まないことについて、課題を教えてください。
残念なことに、イベルメクチン自体、まだまだ知名度が低いんですよ。アビガンと比べると雲泥の差です。もともと駆虫薬なので、新型コロナに効くという認識がない。コロナの治療なのにどうして虫下しの薬を飲ませるのかと、抵抗を抱いてしまう人も多いのです。私がツイッターなどで積極的に発信活動をしているのも、イベルメクチンを知ってもらうためです。早く世に知られて、コロナ禍を収束させる一助になることを願っています。