ドッグフード原材料シリーズでイタリアのドッグフード、フォルツァディエチを取り上げようと下調べをしていたときのことです。
このブランドは魚ベースのフードでよく知られていますが、原材料の一番最初に「魚粉」と書かれていました。
「ギョフンて何!?」
魚粉は魚を粉にしたもの。そのまんまですね😅
他のフードではフィッシュミールという名で書かれていることが多いものです。
フィッシュミールについては、以前にアメリカでの扱いについて記事にしたことがあります。
アメリカでのフィッシュミールの酸化防止剤について訂正 - SMILES@LA
ドッグフード原材料シリーズを書いていくうちに、原材料一覧に「ミール」と書かれているものについて詳しく説明しておいたほうが良いだろうと思うことが増え、今までに何度...
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フォルツァディエチはイタリアの製品ですので、酸化防止剤などの使用についてはEUの規定に準じます。
ではEUではフィッシュミールの酸化防止剤について、どのような扱いになっているのだろうか?と調べて行くと、
あ〜一筋縄では行かないんだなあと実感しました。
(追記:製品としてのドッグフードに使用される酸化防止剤ではなく、
原料の段階でのフィッシュミールに使用される酸化防止剤のことです。)
フィッシュミールと酸化防止剤と言えば、悩ましいのがエトキシキンの問題ですね。
エトキシキンは悪名が一人歩きしている感があり、中には「枯葉剤と同じ成分!」という主張も見受けられますが
これは誤りで、枯葉剤の酸化防止剤として使用されたというのが正解です。
フィッシュミールは、魚を加熱乾燥して粉に挽いたものですから脂肪酸を多く含みます。
脂肪酸は酸化しやすく、酸化すると発熱し、火災や爆発を引き起こすことさえあります。
船での運送中や保管時にこのような発熱発火が起これば大惨事になりますので、
酸化防止剤を使用することが義務付けられています。
中でもエトキシキンは酸化防止の効果が最も高く、しかも最も安価です。
運送や保管時の事故を防ぐための安全性が最も高いとも言えます。
一方で、エトキシキンが動物の体内に入った時の安全性については、
「規定の範囲内であれば安全である」とされています。
これは一応アメリカでも日本でもEU諸国でも同様です。
しかし近年のいくつかの研究では、エトキシキンが健康上のリスクをもたらす可能性が指摘されています。
EUの欧州食品安全局では2015年からエトキシキンの使用禁止を検討していますが、
エトキシキンは世界中で使用されているため、輸出入の関係もあり問題はそう簡単ではありません。
エトキシキンの代わりに別の合成酸化防止剤であるBHTを使用した場合、酸化防止のためのコストは4〜5倍になります。
天然成分であるローズマリーエキスやミックストコフェロールではコストはさらに高くなり
エトキシキンを使用した場合の20〜25倍になります。
これらのコストは言うまでもなく製品の価格の上昇として消費者が負担することになります。
欧州食品安全局は2019年9月末日までに、禁止するか否かの結論を出すとしていたのですが
結局答えが出ないままに、決定は2020年に持ち越されました。
エトキシキンの安全性または危険性について、EUが悩まされていることが伺えます。
しかしエトキシキンの安全性への疑問がくすぶっていることは生産者にとっても無視できない問題です。
近年はフィッシュミールの生産プロセスの進歩によって、製造時により多くの脂肪分を分離させるようになっているそうです。
含まれる脂肪が少なければ、使用するエトキシキンの量も少なくて済みます。
分離された脂肪分はフィッシュオイルとして販売されます。
上記の点はエトキシキンとは切り離して、フィッシュミールを使ったドッグフードの利用者として
心に留めておきたいポイントです。
魚の脂肪分と言えばDHAやEPAと言った、良質なオメガ3脂肪酸です。
フィッシュミールから脂肪分を分離すると言うのは、そこに含まれるオメガ3脂肪酸が減ると言うこと。
エトキシキンの使用量が少なくなることは歓迎ですが、オメガ3脂肪酸の減少はデメリットとして覚えておきたい点です。
そもそもオメガ3脂肪酸は熱に弱いため、フィッシュミールの加熱加工の工程でも失われます。
フィッシュミールはオメガ3脂肪酸の供給源にはならないと考えたほうが良さそうです。
「それで結局、ヨーロッパのドッグフードのお魚はどうなんですか?」
現時点ではEUでもエトキシキンの使用は禁止されていません。
ですからヨーロッパで生産されたドッグフードの原材料のフィッシュミールにエトキシキンが使用されている可能性はあります。
プレミアムフードと呼ばれるものでは天然酸化防止剤が使われている可能性もあります。
原料の時点で使用されている添加物については原材料一覧からでは分かりません。
先にも書いたように、消費者がエトキシキンの安全性を懸念していることを生産者も留意しており
使用量減少や他の酸化防止剤への切り替えなどの対策も取られているようです。
BHTやBHAについても、消費者が持つイメージはエトキシキンと同じなので
敢えてこれらに切り替えるという業者は少ないようです。
合成酸化防止剤の危険性について、研究結果や当局の対応を知っておくことは大切ですが
完全にシャットアウトするのは難しいということも理解しておく必要があると思います。
その上で「完全にゼロは難しいけれど、摂取量をできるだけ少なくするよう気をつけているし、
その他の食材や栄養にも気をつけているから、ある程度はおおらかでいよう」くらいの気持ちでいることが
自分の心の安定のためにも、そこから影響する愛犬の心のためにも良いような気がします。
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