Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

枯れた趣味

2024-09-05 | 生地
しばらく前にコンタクト頂いていた方とようやくタイミングが合って、先日お会いしました。
たいていの方は遠隔地からなので、距離に応じて帰りの楽そうな場所を選びます。
20代後半くらいで「かなり飲む」というので、昼にしては多めに飲みながら語り合いました。

初めての方の話を聴いていると、そう言えば自分もそういうふうに考えていた時期もあったとか思い出すことも多いです。
無駄に散財しないよう先回りしてこうした方がいいんじゃないとか言いそうになったりもしますが、せっかく試行錯誤してらっしゃるので邪魔しないよう気をつけます。

若いうちはやはりスペックなど気になるし、一度刷り込まれた価値観はなかなか上書きし難いし、色々見てモノサシが定まり趣味が枯れるまでには好みも二転三転することでしょう。
タイムレスで質の良い服を求めていろいろ試している方の話はそれなりに面白く、そんなこんなであっという間に3時間以上が過ぎてしまいました。

「枯れた趣味」と言えば、忘れた頃にコンタクトをくれるウィーンの仕立屋さんの話。
既にたくさん作っている顧客がある日その辺りで買ったという粗野な麻袋のようなものを持ってきて「これでジャケット作れないかな」と相談されたと言います。

きっと何度も洗って、地のしもしてみたでしょう。
麻袋みたいと言っても、たまに見るコーヒー豆が入っていたようなジュートっぽい素材とは違って、なるほどジャケットになりそうに見えました。
似た生地が'30年代のApparel Artsにも載っていたと思います。

その顧客の他の注文がどんなものか分かりませんが、「ずいぶん枯れた趣味だな」と思ったのを覚えてます。
知らず知らずのうちに、それがどこかに引っかかっていました。

普段自分のを作るとなると、質の高い素材、その良さを他の人があまり顧みない素材を優先的に選んでるように思いますが、その「枯れた趣味」を咀嚼して何か面白いのは出来ないかなとしばらく前から考えていました。



画像のX線写真みたいなのは、その候補の生地を陽に透かしたものです。
これを見ると「麻袋よりもっとひどい、服にはどうか」と心配されても不思議ない画像ですねぇ。



上のスケルトンのようなのを見た後では心配になりますが、生地はこんな顔。
イタリア製でモーダ系のブランドがよく使うメーカーの製品の中にあったものです。

一見ランダムに並んでいる糸の太さですが、色と不規則に見えた糸の幅が柄を成していて、さらに大きく見るとバンチのサイズでは見えないデザイナーの意図が分かる設計になっていて、伝統柄ではないのにクラシックなテイストも感じさせます。

映画「めぐり逢い」でケーリー・グラント扮する画家のニッキー・フェランテ氏が南仏ヴィルフランシュにお祖母さんを訪ねるシーンを思い出しながら、行ったことないけど風光明媚な土地にうまく溶け込みそうな色だなとか妄想を膨らませてましたが、職業的につい突き詰めすぎて色々集めた中から選んでしまうと、「枯れた」という融通無碍みたいなイメージからしだいに遠くなってしまいました。



猛暑の中そんなことをして遊びながらどうにかこうにか7月8月をやり過ごしたら、もう9月。
よく夏が暑いと冬は...なんて言いますが、今年はどうなりますでしょうか。
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