Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

辻静雄さん + Samuel Chamberlain / Bouquet de France

2010-07-06 | Rock
 今回のタイは花のモチーフなので、届いたばかりの「Bouque de France」という本のお話。
昨年11月19日に辻静雄さんの話を取り上げましたが、初めて読んだのは二十年くらい前のことでした。その後空白があるものの、この十年で最も繰り返し読んだのは畑違いですが辻さんの本だったかも知れません。
それらを読んでいると、関連してどうしても読んでみたくなる物の一つがこの本でした。
熱が冷めて二年ほど経ち、ようやく読むことが出来ます。

副題は「An Epicurean Tour of the French Provinces」というので、フランスの各地方を巡って美味しい料理を紹介していますが、なにしろ50年以上前の本なので今これをお供に出掛けても参考にはなりません。だいぶ遅れて来た読者です。



例えば「ローマの休日」等を観ると、強い経済力を背景にアメリカが戦後の繁栄を謳歌する勢いを感じます。多くのアメリカ人が憧れのヨーロッパに旅行し、ローマのコロッセオやポンペイを観た人が「まだ復興してないのか、ずいぶん徹底的にやられたなぁ」という長嶋さん伝説みたいな笑い話を残したのもこの頃かも知れません。

そんな時代に、1952年初版のこの“Bouquet de France”はマサチューセッツ工科大学で建築を専門とするサミュエル・チェンバレイン教授によって、遡ること20年前から重ねた取材に基づいて書かれました。

辻さんは偶然巡り合ったこの本を端緒に、ボストン市街から車で一時間という所に住むチェンバレインさんを訪ねます。
そこで進むべき道を教示され会うべき人を教わる訳ですが、辻さんの著作で知るチェンバレインさんの親切さというのは、例えば本当に理解していないと人に易しく語れないように、その分野で本当に秀でた人特有の傾向のように思います。
今回この本に見られる緻密な画や詩情ある写真に接し、時間をかけた作りの豊かさと同時に人柄を反映してか作り手の温もりも感じました。

一頃まわりの人達に、辻さんの生前に書かれた海老沢泰久著「美味礼讃」を薦めて、何人もの方に読んでもらいました。
チェンバレインさんから受ける親切と同様、その本に登場する辻さんが多くのものを与えてもらう、イゼール県ヴィエンヌのマダム・ポワンの「Restaurant de la Pyramide」という店があり、読者には忘れられない印象を残します。
チェンバレインさんは、「Bouquet de France」で多くの行を割いたそのピラミッドについての記述の最後に、

  It is a complete experience, and it's not Monsieur Point's fault if our untuned Angro-Saxon stomachs aren't geared to it. They aren't, so if you can force yourself to nibble at and not devour this divine fare, you'll probably be happier the next day. Of course, it's expensive; of course, it's too copious for most of us; but Monsieur Point, his gracious wife, his kitchen staff and waiters, his garden, his wine cellar, and his glorious individuality provide an experience unlike anything else in this world. Skimp on some things, but don't miss Monsieur Fernand Point, Restauranteur!

と書いています。ボキューズ、シャペル、ウーティエ、トロワグロ兄弟等の名料理人を育てたフェルナン・ポワンがまだ存命中の話です。

辻さんの渡仏はその存命中に間に合わなかったようですが、幾度もこの店について書き、或る時は、

「何万人と数えられる料理人たちの中から、近くのリヨンはおろかパリやヨーロッパ各地からおいしいものを食べに、わざわざヴィエンヌ町くんだりまで出かけて行った人たちの限りなくあるのをみるにつけても、お客さまのみならず料理人仲間から“料理の神さま”とさえ崇めたてまつられるようになったムシュー・ポワンの仕事振りは、我々の想像を絶するものがある。
 因みに、ミシュランの1974年版を開いてみていただきたい。わざわざそこに食べに行くだけの値打ちがあり、いつも大変おいしいばかりではなく、ときには素晴らしい料理に遭遇することがあるとまでいわれるミシュランの三ツ星、フランス全土で十七軒(そのうちパリだけで六軒)で、七軒までがムシュー・ポワンの料理から出発している。」(フランス料理を築いた人々/中公文庫)

と書いています。



この本に掲載されている写真はパリでさえも静謐な感じで、現今の人が撮る写真よりはアジェなどの写真に近いかも知れません。


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