in a schale

シャーレにとじ込めたありふれた日常。

7/29 KYOKUTOU GIRL FRIEND最終公演【FAR EAST LULLABY】at 新宿LOFT

2011-08-02 07:01:19 | ライブレポート


なぜだか自分でもわからないが、記憶に残っている解散ライブの記事がある。
F誌に掲載されていたLUNA SEAの“終幕”の記事だ。とはいえ、当時わたしは小学生だったので、もちろんリアルタイムで読んだわけではない。いつだったか古本屋でその本を見つけたのだ。

筆者は文中で自分のことを「一ファン」と前置きしたうえで書いており、そのライブレポートはメンバーの舞台裏と本番の状況を、ドキュメンタリータッチで観たまま切々とつづっていくものであった。それがどうしようもなくリアルで、ちょっとした衝撃を受けたのだ。中でも印象に残っているのが、「MCのメモをとった直後、嘘のようにボールペンが使いものにならなくなってしまった。“もういいよ”と言われているような気がした」という話である。



その日、わたしは仕事に行く前にA6サイズの小さなメモ帳をコンビニで買った。使いかけのものが家にあったのだが、すっかり忘れてそのまま置いてきてしまったのである。
昼が過ぎ、夕刻が過ぎ、19時になった。しかし、わたしはまだデスクにすわったままで(いちばん下っ端ということもあり)、まだ退社するかどうか迷っていた。定時の20時で覚悟を決め、「すみません、お先に失礼してもいいですか」と席を立った。「実は解散ライブがあって……」とこっそり小さな声で告げると、先輩は「それは行かなくちゃ!」と心中を察してくれた。

金曜日の夜。人でごった返す新宿。少し雨も降っている。いつ来ても場違いな気がしてならない歌舞伎町を抜け、路地を曲がり、白い階段を降りる。壁に無造作に貼りつけられているのは「毒」の文字が入った日の丸のフライヤー。会場から低く音が漏れてくる。当日券を切ってもらい、扉を開ける。

「間に合った」という安堵を一瞬でかき消すくらい、いつもの鋭い音の欠片が飛んできた。「拝啓、売国奴の皆様 靖國の空が哭いています」。中盤もとうに過ぎたころだろうか。呼吸を整えているうちに、倫堕が唄うようにタイトルコールをし、「俺の彼女はリストカッター」がはじまる。ぐわりと押し寄せる殺気だった会場のエネルギー。

もうメモはどうでもいいや、と思った。ライブを観はじめたのが途中からだったためではない。この光景を一秒たりとも見逃してはならないと、ライブだけに集中しておかなければきっと後悔すると、そう思ったからである。たぶんこのときにあの記事のことが頭をよぎったのだ。



当然メモの切れ端もない今、こうして文字に起こそうとしたときに思い出せるのは記憶の断片だ。
完全に目つきがイってしまっている倫堕や、噛みしめるように黙々とギターソロを奏でるケッチや、長いストラップで支えたベースを余裕の表情で操るサリーや、細い体でタイトにボトムを支える亜門の姿。

遂げられなかった想いを歌詞に託した「未遂」と、それを昇華するように救いあげる「樹海」がつづけて演奏されたアンコール。バンドとファンの信頼関係が築かれるライブという場で、じわじわと成長させてきた「禁忌」。「明日からの闇を嗤え!」と声を張り上げる倫堕にはっとさせられた「闇を嗤え_警告(instrumental)」。ステッカーをひっつかみフロアへとばらまく姿は、いつぞやのライブの情景と重なる。

「俺たちが、不謹慎なカリスマ、KYOKUTOU GIRL FRIENDでした」

「勝手にしやがれ」のアウトロだったと思う。ゆっくりと、しかしはっきりと、高らかに宣言するように倫堕はそう叫んだ。この言葉はちょっとした衝撃だった。大丈夫、涙はこらえられそうだ、と思った矢先にこれである。うれしさとさみしさの入り混じった感情が同時に込み上げ、それまで我慢していた涙腺がふとゆるんでしまった。
――「カリスマになりたいんです」。そんな野望を知ったのはいつだったろうか。
彼らの約3年半の活動は肯定されたも同然だった。成し遂げた、と言っても過言ではない。アンダーグラウンドに生きたKYOKUTOU GIRL FRIENDというバンドの存在が体を成した瞬間だった。

「ラストー!」

ライブを締めくくるのはラストシングルの「副作用」。7月頭の横浜公演で初披露されたときには、ステージの上のメンバーさえも感傷の渦に溺れてしまっていたように思えたが、この日の演奏は決心を固めたように力強く、説得力すら兼ね備えたものだった。自然と込み上げてきたであろう屈託のない笑みを見せたことも記しておきたい。


「世界でいちばん美しい解散を」。そんな最後の約束も、もう充分すぎるくらい果たされていた。「ありがとう」以外の言葉が見つからない。理想のヴィジュアル系バンドだった。たくさんの人に愛されているバンドだった。あとにも先にもこんなバンドには出会えないのではないだろうか。わりと本気でそう思う。

終演後、ステージに最後まで残っていた倫堕は、口元に人差し指を当てて会場の注目を集めると、その指をまっすぐ“共犯者”へと向けた。そして、ふっとやさしく笑いながらこう告げたという――。

「カリスマだよ」







【SET LIST】

SE 禁じられた謝肉祭
01_堕落論
02_放送禁止のブルース
03_エクスタシー
04_完全犯罪

05_家出少女のように
06_告別
07_ゲルニカに噤む
08_最悪最悪最悪最悪

09_スロウ、ダンス
10_食物連鎖
11_狂わせたいのさ 愛されたいのさ
12_セックス

13_乱脈
14_噛みついて離れない
15_この人生はフィクションです
16_拝啓、売国奴の皆様 靖国の空が哭いています

17_俺の彼女はリストカッター
18_プラットホーム
19_縄と拡声器とヒロイン
20_副作用

-En1-
21_未遂
22_樹海

-En2-
23_禁忌
24_闇を嗤え_警告(instrumental)

-En3-
25_勝手にしやがれ

-En4-
26_副作用