そんな考えを巡らせているうちに聴こえてきたのは、ベース1本による「君が代」の旋律。日の丸の下、片手を挙げたToshiyaは、続けて「Bottom of the death valley」のイントロを紡ぎ出す。スクリーンには廃墟と化した雪降る遊園地が映し出され、京の語りかけるような慈愛に満ちた声が、空間を退廃的な雰囲気に染め上げていく。
『DUM SPIRO SPERO』とは、ラテン語でそんな意味が込められた言葉だという。DIR EN GREYにとっての「希望」とはなんなのか。その答えが、この京の言葉の中に集約されているように思えた。1人の力ではなく、手を取り合って不可能を可能にするような、否定されても押さえつけられても、光を信じて抗って喰らいついてような――そんな「人間の強さ」をかいま見たのである。
「SUSTAIN THE UNTRUTH」は、ステージへ届けと言わんばかりに、観客各々が目一杯歌う。薫はうなずきながら微笑み、Toshiyaはいたずらを仕掛けた少年のようにニヤリと口角を上げ、Shinyaはポーカーフェイスをくずさず、Dieはギターに徹しながらも白い歯をこぼす。京にいたっては、全身で声を受け止めているかのように、ぎゅと目をつむり、泣いているのか笑っているのかわからないほど、くしゃくしゃの表情だ。
が、しばらくしてそれがどよめきに変わった。なぜならば、ファンなら一度は耳にしたことがあるであろう「あの」金属音が聴こえてきたからだ。DIR EN GREYのファーストアルバム『GAUZE』の1曲目に収録されているSE「GAUZE -mode of adam-」のMVである。なにが起こっているのかわからない我々の目に飛び込んできたのは“TOUR14 PSYCHONNECT -mode of "GAUZE"?- THIS SUMMER”の文字。のちにウェブサイトや終演後に配られたフライヤーでわかることになるのだが、本ツアーのスケジュールには「mode:25」からの数字がナンバリングされている。つまり、1999年7~9月にかけて24公演行なわれた同名ツアーの続きを示唆しているのだ。
再び画面は暗くなり、「DIR EN GREY」の白い文字だけが浮かび上がる。止まない“DIR EN GREY”コールが起こり、その声に導かれるようにメンバーがステージへ姿を見せた。「おまえら元気やなあ」と含み笑いの京。「ラストー!!」と張り上げた声を合図に演奏されたのは「朔-saku-」。ただステージを明るく照らすだけのシンプルな照明で会場はライブハウスと化す。その光景は、これまでよりもより強くファンと結びついたDIR EN GREYが、新たなスタートを切った瞬間でもあった。
そして、「狂骨の鳴り」とともに、スクリーンにはビリビリと青いスパークが走ります。やがて宇宙的な映像に変わり、2本のスパークからDSSの文字が生まれて、DIR EN GREYの文字と交わりました。ステージにメンバーが1人ずつ登場。最後に現れた京さんはストールを被り、サルエルパンツ?でした。客席のほうに背を向け、ホリ側に備えられたマイクスタンドへ近づいていきます。
楽器陣の構えや雰囲気で、次はどの曲がくるのかなんとなくあれかな?というのがわかるのですが、新曲の「SUSTAIN THE UNTRUTH」はイントロのフレーズが唐突に始まるのでまだ予測ができませんね。
そして、まさかの「蒼い月」。予想外すぎてすぐにタイトルが出てきませんでした。でも、わたしみたいにポカーンとなっている人よりも、すぐにおおー!と反応している人が多かったですね。ライブでは聴いたことがないので比較はできないのですが、当時の音源に近いアレンジでした。いまのDIRが演奏しているので音はぎっしりつまっていましたが、ツタツタ感もちゃんと残っていました。