2009年11月26日19時10分、戒厳令発令。
そこは新宿ロフト。
バンドマンにとって「聖地」とも形容されるこの場所で、KYOKUTOU GIRL FRIENDが2度目となる単独公演【極東戒厳令】を行なった。
国会議事堂前で撮影された写真が目をひく最新フライヤーを眺めながら、フロアへと続く階段を降りる。SEX PISTOLSのSEが流れる会場内は、これからはじまる「きけん」なライブとは裏腹に、穏やかな空気が流れていた。バーラウンジでは、それぞれのメンバーが考案したオリジナル・カクテルと「毒」オムライスが販売されており、そんなライブハウスをフル活用した空間づくりからもメンバーが単独公演にかける気合いがうかがえる。
日が短くなった冬の夜のように、いつのまにか会場内は暗転。ライブ・タイトルが映し出されていたスクリーンがゆっくりとあがる。なぜだろう、その瞬間から1本の糸が張り詰めたような緊張感がすっと駆け抜けた。
そんな張り詰めた空気の中、黒いスーツに「毒」マスク姿の楽器陣が姿を現すと、彼らの名前を呼ぶ声がまたたく間に広がっていく。そこへふらりとボーカルの林田倫堕が現れ、会場はさらに熱を帯びていった。
1曲目は歌詞の中に“戒厳令”という言葉が組み込まれている【堕落論】。オープニングにぴったりなアッパーチューンは、ザクザクと切り込むように疾走しながら、ブルーのグラデーションライトが美しくステージを彩った【禁忌】へと続く。また、ケッチの高速カッティングが印象的だった初披露の新曲【完全犯罪】では、倫堕がクロスさせた両腕を前へ突き出し、まるで手錠をかけられたようなパフォーマンスを見せる。
“殺す……殺す……”といううわごとのようなつぶやきが背筋を凍らせた【アルケミー】は、亜門が巧みに操るリズムをはじめ、恐ろしいまでに息のぴったり合った4人の演奏が心地よい。また、しとしとと降る雨の中にいるような錯覚を覚えるスロー・ナンバー【未遂】では、心の奥底にひそむ重々しい塊を表すようなサリーのベースと、音源とは別のアレンジをほどこされたケッチのクリアなソロが響きわたる。それは、一言ひとこと語りかけるように歌う倫堕の歌声とも相まって、呼吸をするのさえ忘れてしまうほどの説得力を見せた。
亜門とサリーの絡みつくようなリズムで、グッとアダルトな雰囲気に包まれたのは【罠】。指先まで神経が研ぎ澄まされている倫堕の手が、ゆらゆらと曲に細かな表情をつけていく。【縄と拡声器とヒロイン】という意味深なタイトルが付けられた新曲は、まさに拡声器をかませたようなエフェクト・ボイスで、次々と言葉が乱発され、ライブ映えする1曲に仕上がっていた。観客もそれにすぐさま反応し、アドレナリンが放出されるかのごとく、ヘドバンと拳の応酬に。
倫堕がマイクをスタンドに切り替え、しっとりと歌いあげた【夜光虫】をはさむと、ケッチのギターソロへ。異国情緒漂うディレイがダークな世界へと落とし込み、キッズなら思わず凝視してしまうだろうテクニカルなプレイを見せつける。しかもこれがアドリブだというのだから、さらに驚きだ。
そこから流れるように【依存】へとつながり、儚げな世界に包まれるも、それも束の間、“俺についてこい!”という倫堕の挑発から【噛みついて離れない】【拝啓、売国奴の皆様 靖国の空が哭いています】と反抗心に満ち溢れた楽曲で、ふたたび会場は沸点に達する。観客が我を忘れてステージに喰らいついていく様は、バンドの勢いに決して負けておらず、圧巻のひとことに尽きる。
3原色の照明がチカチカと点滅した【俺の彼女はリストカッター】からは、勢いに身を任せるしかない。【国境の花嫁】では、ケッチがセンターのお立ち台で華麗なソロをキめ、亜門はシンメトリーにセッティングされたシンバルを、全身を使って叩きつける。本編のラストを締めくくったのは、ロックンロールを感じる1曲【勝手にしやがれ】とインストゥルメンタルの【闇を嗤え_警告】。狂ったように何度も“闇を嗤え!闇を嗤え!”と叫び続ける倫堕と、存在証明のように音を刻み込む楽器陣。曲間すらも気を抜けないライブに、メンバーがステージから去った瞬間、会場からは安堵とも感嘆ともいえないため息がもれた。
アンコールで披露された【放送禁止のブルース】は、曲のコンパクトな構成もあってか、観客はゲリラ・ライブでも観せられたかのようにあっけにとられた。しかし、すぐさまダブル・アンコールを求める声があがり、メンバーをステージに呼び戻す。ふたたび【堕落論】が披露され、ここで演奏曲数は20曲。しかし、まだまだ終わらない。再度ステージにメンバーが姿を表すと、一際大きな歓声が沸き起こる。そして、ここまでいっさいMCなしで突っ走ってきた彼らであったが、「アンコールありがとう」と、倫堕がやっと口を開いた。
「ひとつ報告があります。KYOKUTOU GIRL FRIENDのファーストフルアルバムが完成いたしました。KYOKUTOU GIRL FRIENDはKYOKUTOU GIRL FRIENDのアルバムをつくりました、あたりまえだけど。インディーズ・シーンの名盤を塗りかえる作品をつくろうとして……名盤になったと思います。これはインディーズ・シーンに対する挑戦状です」
「……戒厳令解除。ここにいる人たちは味方だと、仲間だと思っています。ありがとう!ありがとう!ありがとう!アンコールくらいはここにある(ステージとフロアの)壁をぶっこわしていこうと思ったよ!」
普段MCをとらない彼が口にする言葉はつたなく不器用だったが、ここにいる同士にはまっすぐと心に響いたに違いない。
“闇を嗤えー!”
ラストに披露されたのは【勝手にしやがれ】だった。会場中の右手が突きあがる。
「友達になろう」「恋人になって」。人と人の関係というものは、言葉でつくりあげるものではない。KYOKUTOU GIRL FRIENDと「中毒者」の関係もまた然り。音を通じて共鳴しあい、自然と戦友のような関係が築き上げられている。
今年の2月、初の単独公演で【あい】が生まれ、そしてきょう、彼らと私たちは【シーンへの挑戦】という使命をもって、新たなスタートを切ったのだ。
20時50分、戒厳令解除。
メンバーが去ったステージに、どこからともなく贈られたすがすがしい拍手は、まるで彼らの提示する信念に賛同しているかのように思えた。
【SET LIST】
01_堕落論
02_禁忌
03_完全犯罪
04_アルケミー
05_この人生はフィクションです
06_ゲルニカに噤む
07_未遂
08_罠
09_サヨナラセカイ
10_縄と拡声器とヒロイン
11_夜光虫
12_ギターソロ~依存
13_噛みついて離れない
14_拝啓、売国奴の皆様 靖国の空が哭いています
15_俺の彼女はリストカッター
16_国境の花嫁
17_勝手にしやがれ
18_闇を嗤え_警告(instrumental)
EN_放送禁止のブルース
EN2_堕落論
EN3_勝手にしやがれ
◆
2010.02.21 HOLIDAY SHINJUKU
KYOKUTOU GIRL FRIEND
【勝手にしやがれ】追加単独公演
【Re:警告】(配布DVDにて発表)